The Spirit in the Bottle

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オズがいっぱい!ボーン! オズ はじまりの戦い


 自分の大好きな作品に1939年のヴィクター・フレミング監督の「オズの魔法使」がある。最初に見たのはNHKで放送された時でドロシーを荻野目慶子、オズの大魔法使いを熊倉一雄が担当している。現在ソフト化されているものとは別だが(こちらも秀逸な吹替)ひと目で大好きになってしまった。ミュージカル映画というものに意識して触れたのもおそらくこれが初めてで現在でもミュージカル映画として好きな作品では一番古いものだろう。
 とても大好きな作品ではあるが、必ずしもライマン・フランク・ボーム原作の「オズ」シリーズが大好きというわけでもなく、原作はボームによる1作目をさらっと読んだ程度。その他の映画化作品、マイケル・ジャクソンがカカシに扮した黒人版である「ウィズ」やフェアルザ・バルクが主演した*1やつも見ていない。別に見たくないわけではなくレンタル店で置いてないだけ。購入までしようとは思ってない。そして舞台である「ウィキッド」も未見。だからもっぱら「オズの魔法使い」といえば映画「オズの魔法使」と原作の1作目のことを指す。これは多くの日本人もそう変わらないと思う。
 ところがやはりアメリカでは事情は違うようなのだな。もちろん映画「オズの魔法使」はマスターピースだが、それ以前も以後もたくさん映像化されているし、原作もボーム自身による14作のほか、別の人物が引き継いで書いた作品などがたくさんあるらしい。だから、今回の映画を批評する際に1939年の「オズの魔法使」だけを比較の対象とするか(日本人の大部分の見方はこちらだろう)、それとも膨大なシリーズそのものを視野にいれるかで評価がだいぶん変わってくると思う。というわけで今回の話題になるわけだが、サム・ライミが監督した前日譚「オズ はじまりの戦い」を観た。

物語

 1905年カンザス州。オスカー・ゾロアスター通称”オズ”はフーディーニやエジソンのような偉大なものになる野望を持つ巡業サーカスの売れないマジシャン。あるとき、女絡みでサーカスの仲間に襲われ、彼は気球に乗って空へと逃げた。間一髪免れたかに見えるオズだったがそこには竜巻が。彼の乗った気球は巻き込まれる。
 気づくとそこは見たこともない世界。美しいその世界でオズは一人の女声と出会う。彼女の名は「西の魔女」セオドラ。彼女からここが「オズの国」であることを知らされる。預言によると国と同じ名前の偉大な魔法使いが邪悪な魔女を倒し王となるという。オズはセオドラにその偉大な魔法使いと間違えられてしまったのだ。彼女とともにエメラルドシティに行くとセオドラの姉「東の魔女」エヴァノラが待っていた。彼女は王になるにはまず「南の魔女」を倒さなければならぬ、という。宮殿の黄金に魅せられた彼は「南の魔女」を倒しに出発する。「暗闇の森」でオズが出会ったのは美しい「南の魔女」グリンダだった。彼女は本当に悪い魔女なのだろうか?

 今回はあくまで単独作であって決して明確に1939年の「オズの魔法使」の前日譚を謳っているわけではない。とはいえ色々引き継いでいるところは多い。例えば現実世界のカンザスはモノクロで描かれ、オズの国に着くとフルカラーになるのは同じだ。最も1939年版もそれ以前の1933年のアニメ映画版から引き継いだ仕様なのだが。また現実のカンザスで出てきた役者がオズの国でも何らかの形で登場するのも「オズの魔法使」と同じ。今回はカンザスでのオズの元恋人とグリンダが同じミシェル・ウィリアムズが演じているのは分かりやすいが、CGキャラである翼猿のフィンリーの声をあてているザック・ブラフはカンザスでのオズの仕事仲間フランクを演じているし、カンザスで車椅子の少女を演じているジョーイ・キングは陶器の少女の声を演じている。
 もっとも原作が最初に刊行されたのは1900年とのことなのでその頃を原作においてドロシーがオズの国を訪れた時期とすると、本来はその前日譚なら1870年ぐらいになってしまうのでドロシーが訪れた時期を1939年に想定しているのだろうとは予想がつく。まあカンザスは1900年も1939年もそんなに変わりないのだろうさ(偏見)。これは幻燈機を使ったトリックなど科学文明をオズの国で再現できるぎりぎりのラインが1905年頃、というのもあったのだと思う。
 原作のライマン・フランク・ボームの「オズの魔法使い」はファンタジー小説の元祖みたいな部分もあるのだが、現実世界の人物が異世界を訪れる、という形式なので「ふしぎの国のアリス」や「ピーターパン」に近い。J.R.R.トールキンの「指輪物語」などを、神話を元に細かく世界設定した「ハイファンタジー」だと仮に定義すると、民話風で児童向けのこれらは「ローファンタジー」とでも言うのだろうか。作りこみは甘いかもしれないが、「なんでもあり」な懐の深さは感じる。
 今回の映画化はディズニーによるものだが、「オズの魔法使」は吠えるライオンでお馴染みMGM作品。実はディズニーは原作1作目の映画化権を持っておらず残り13作品に関してだけ映画化権を持っているのだという。だから原作1作目に関してはディズニーは映画化出来ないがそれ以外は出来る、というのが制作の裏側のよう。なのでこのような変則的な映画化なのだろう。それでもこの「オズ はじまりの戦い」の主人公オズの設定に関しては原作シリーズで細切れに語られる彼の過去などを元にしていて、大きく外れていないのだという。だから、おそらく「オズの魔法使」で出てきて今回出てこない要素というのは原作1作目においてのみ出てくる設定、あるいは映画オリジナルの設定で、今回の映画には利用できなかったのではないだろうか。原作と今回の映画ではグリンダは「南の魔女」だが1939年版では「北の魔女」になっているのもこの映画が直接1939年版の前日譚ではないことの証といえるだろう。
 また、西の魔女と南の魔女の若いころを描いた舞台ミュージカル「ウィケッド」とも異なるようで西の魔女の名前がセオドラとなっている(「ウィケッド」ではエルファバ)。
 
 3人の魔女はそれぞれ「東の魔女」エヴァノラをレイチェル・ワイズ、「西の魔女」セオドラをミラ・クニス、「南の魔女」グリンダはミシェル・ウィリアムスが演じている。エヴァノラとセオドラは姉妹で眼力が強そうなのは似ているか。とにかくレイチェル・ワイズは綺麗でアップになるたびにうっとりさせられます。彼女が実は悪い魔女だったことが判明するのだが、悪いといってもオズの国の住人であって、オズのトリック満載のペテンに怯えたり仕草も可愛らしい。
 ミシェル・ウィリアムスは他の二人ほど、眼力が強くはないが癒しの表情で慈母愛に満ちたグリンダをうまく演じている。
 そして、ミラ・クニス。彼女は姉に騙されている「良い魔女」だが情熱的で怒りやすく、その環状を姉に逆手に取られてしまう。怒ったり泣いたり感情の起伏が激しいがそれはミラ・クニスによく似合っている。そして彼女が実は・・・

グリーンゴブリン

 サム・ライミと言えば「スパイダーマン」シリーズなのだが、今回出てくる西の魔女セオドラは途中姉によって邪悪な魔女となる。我々のよく知る黒ずくめの格好、緑色の肌に鉤鼻、突き出た顎といういかにもな魔女スタイル。仕組んだ当人の姉のエヴァノラも引くぐらい邪悪になるのだが、この悪セオドラが完全に「スパイダーマン」のグリーンゴブリンなのだな。箒から黒い煙を出し「邪悪な笑い」を振りまきながら空を飛ぶ。原作のグリーンゴブリンももしかしたら「オズの魔法使」の悪い魔女をモデルにしていたのかな?とか思うが、とりあえずこの悪い魔女のいかにもな邪悪さも見どころ。ミラ・クニスが特殊メイクで演じているが、「スパイダーマン」の時も硬質なヘルメット風マスクではなくもっとウィレム・デフォーをそのまま緑に塗ったような肌にピッタリのグリーンゴブリンを出したかったのではないのかなと思う。その辺はコミックスと実写化の際の悩みどころか。
 実際、スパイダーマン絡みで考えると色々面白くて、オズ役のジェームズ・フランコは「スパイダーマン」ではグリーンゴブリンことノーマン・オズボーンの息子ハリー・オズボーンを演じていて今回は再び「オズ」という名前を演じた、とも言える。
 今回は正直サム・ライミの「オズ」への思い入れというのは余り感じられない。実際パンフでも「原作は読んだことはないし1939年の映画は大好きだけれど、あくまで脚本に惹かれたから監督した」というようなことを言っている。むしろ「オズ」なのに「スパイダーマン」愛を十分に感じてしまうほどではあったが、それでもライミ印は確かに刻まれているし、作品は面白かった。

 3人の魔女を正ヒロインとすれば陶器の少女は副ヒロインとでもいう位置づけなのだが、この子、英語では「CHINA GIRL」という。チャイナと言っても中国人ということではなく、陶磁器のこと。陶磁器といえば中国製が一番、ということでそのままチャイナと呼ぶのだな。ちなみに「ジャパン」だと漆器のこと。この陶器の少女は固有名詞はないがジョーイ・キングが声をあてているとおり、カンザスで車椅子の少女と対になっている。彼女は足が壊れてしまったが、オズは接着剤でくっつける。実際の人間相手には嘘をついてごまかすしか無かったが、ここではきちんと願いを叶えてやれる。主に彼女を通して嘘をつくにしてもうまいやり方みたいなのを学んでいくのだな。この陶器の少女が最初は泣いた状態で登場するためおしとやかなイメージだが、中々にやんちゃでもし実際の子供が演じてたらちょっとイラッとしたかもしれないが、陶器人形であることでいいマスコットとなっていると思う。
 クライマックスの煙の中に巨大な顔が浮かび上がるオズ一世一代のペテンはとても興奮する。このシーンだけ何度も観たいと思うほど。ただ魔女同士が戦うときに手から炎出したり、雷出したりするみたいな表現はちょっとゲームっぽくて残念だったかなあ。

 
 今回はIMAXの3D字幕版で鑑賞。冒頭から3Dを意識したタイトル・ロールでワクワクしてしまう。「『アリス・イン・ワンダーランド』のスタッフが贈る」という宣伝文句は正直あんまり惹かれないのだが、確かにCGをふんだんに使ったオズの国の描写はそれっぽかったが、不安にさせた妖精も出てきたのは一瞬だけだったし、全体としてはとても良く出来ていたと思う。
 少し前までは「3Dである必要を感じない。2Dで十分」というような作品が多かった気がするが、最近は「3Dが生かされていて2Dでは本当に見たとは言えない」というような作品も増えてきた。これはある意味ではイイ現象だと思う。もちろん理想は「2Dで観ても十分おもしろいが3Dだと更に楽しさが倍加される」と言うようなのがベストだとは思うが、今回も3Dで観なければその魅力は堪能出来ないだろうなあ、というシーンも多い。こういう形での3Dなら今後も増えて欲しい。もちろんIMAXは限られているし、値段も高くなってしまうが、普通の劇場での3D鑑賞なら対応メガネを持参すれば通常料金で鑑賞出来るというようになってほしいなあ。

オズの魔法使 [Blu-ray]

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 僕は誰にも負けないぐらい「オズの魔法使」を愛している自負があるが、だからといってこの作品が一概にダメだとは思わない。娯楽作品として普通におもしろい作品だった。
 ところで北の魔女って何やってたんだろう?

*1:当時はともかく今考えるとフェアルザ・バルクがドロシーって凄いキャスティングだな