実録モダンアメリカ忠臣蔵 ゼロ・ダーク・サーティ
さて、米アカデミー賞の季節ということで、受賞作、ノミネート作ですでに公開されたもの、これから公開されるもの色々ありますが、今回は現在公開されている作品賞ノミネート「ゼロ・ダーク・サーティ」を鑑賞。結果として受賞したのは「アルゴ」*1とのことで時代は違えど何かと似た題材であるこちらの方は余り受賞出来なかった模様です。実は監督キャスリン・ビグローの前作「ハート・ロッカー」も未見で本作も実はスルー予定だったのだが、とある理由で鑑賞決行。その理由とは・・・
ということで、あのアイドリング!!!21号橋本楓さんが観たというのでね、あの楓ちゃんが観たのなら僕も観ねばなるまい、と理由なんてそんなもんですよ。「ゼロ・ダーク・サーティ」を鑑賞。
物語
2001年9月11日、アメリカ同時多発テロ事件勃発。アメリカはテロの首謀者オサマ・ビンラディンをとらえるためあらゆる方策を取っていた。2年後、パキスタンのアメリカ秘密施設にCIAの新米情報分析官マヤがやってきた。アルカイダの金の運び屋をやっているアンマルを激しい拷問で尋問するダニエルに眉をひそめるが上司は彼女のことを「ああ見えて冷血だ」と評価する。
やがて、幾多の犠牲と時間を経て死んだと思われていた連絡員の名を知り、その連絡員絡みでビンラディンが潜伏していると思われるパキスタンのイスラマバード郊外アボッターバードにある豪邸を特定する。後は乗り込むばかりだが、ビンラディン潜伏の確実な情報が無い以上実行はできない。いたずらに時間ばかりが過ぎていく・・・
「機動武闘伝Gガンダム」というガンダムシリーズでも異色の作品があって格闘家の乗ったガンダムが国を代表して戦い合って最後まで勝ち残ったものの属する国家(コロニー国家)が世界の覇権を4年間握れる、という設定なのだが僕は常々、「もう各国の元首が互いに殴りあって覇権を争えばいいのじゃないか」などと冗談交じりに思っていたりする。そうすると一番強いのはロシアのプーチンかなあ、などとも思うがビンラディンもかなりの威丈夫である。ビンラディンはサウジアラビアのビンラディン一族という大富豪の一族の出身でこの一族は大統領や州知事を多数輩出したアメリカのブッシュ一族とも強いつながりがあるため、時にテロなどはアメリカのマッチポンプではないか、という陰謀論もあったりする。まあ、そこまで言わなくてもそれこそ「アルゴ」の時点でのイランとの対立からイラクを支援したり、ソ連のアフガン侵攻に対抗してムジャヒディンに武器支援したりしていたのはアメリカなので自業自得という一面は確かにあるのだが(ただし、オサマ・ビンラディンは早い段階でビンラディン一族から破門されているはず)。
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監督のキャスリン・ビグローはジェームズ・キャメロンの元奥さんでキャメロン同様強い女性の映画を撮る印象。僕は「ブルースチール」「ハートブルー」「ストレンジ・デイズ/1999年12月31日」しか過去作は見ていないがおおよそで間違っていないと思う。今回も直接アクションをするわけではないが女性主人公マヤを中心に綿密な作戦を描いている。
主人公のマヤを演じたのはジェシカ・チャステインでこの人は「ヘルプ〜心がつなぐストーリー〜」で美人で頭もあまり良くないけれど心が綺麗な女性を演じていた。今回はその時とは対照的な頭がもよく、いざとなれば冷酷にもなれる仕事のできる女性。当然同じ役者であるので美人ではあるがその部分は殆ど強調されない。びっくりしたのはこのマヤ(おそらくモデルになった人も)高卒でスカウトされたという設定であること。この設定があることで、CIAが彼女を使い捨てにした、という解釈もあるらしい。
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主人公以外のキャラクターとしては前半で捕虜を拷問尋問するダニエル。演じるのはジェイソン・クラークで前半の髭をはやしジャージで仕事に当たる姿とワシントンに戻ってからきちんと髭も剃って背広を着て行動する姿でだいぶん印象が違う。ちょっと太ったパトリック・ウィルソン、あるいはクリス・ペンのような雰囲気。そして「アルゴ」でも上司役だったカイル・チャンドラーもやはりマヤの上司として出演。ほぼ「アルゴ」と同じような役回り。話は変わるが「ルーパー」のジョセフ・ゴードン・レヴィットは特殊メイクでブルース・ウィリスに似せていたが*2、僕はあのメイク(日本人が担当したらしいね)はJGLの豊かな表情を消していてやる必要を感じなかったのだが、あのメイクをしたJGLはむしろカイル・チャンドラーに似ていたような気がする。
マヤの同僚だったやはり情勢の分析官であるジェシカ役のジェニファー・イーリーはチャステインとは反対の豊満なタイプの美人で僕は彼女のほうが好みかな。
そして、マーク・ストロングも出ています!なんと髪がある!髪の御加護が!中々マヤを認めない上司役ということで悪役でもないが一概に善玉とも言えない役柄。スキンヘッド時のマーク・ストロングはほぼ悪役ばっかりなので、スタンリー・トゥッチの悪心が分離した姿などと言われているが、髪があるバージョンのストロングはそれなりに善悪の間で悩む役が多い・・・?ちなみに髪のあるマーク・ストロングはトゥッチよりスティーヴ・カレルに似ていると思います。
この映画上映時間が158分もあってちょっと長め。僕は最近の、「映画は短いほうが(90分ぐらい)良い」、という風潮には全然賛成できなくて別に長くても全然平気、というか逆に短いと物足りなさを覚えてしまう。もちろんすべては作品の出来によるので短くても満腹な作品も長くてダメな作品も、その逆も当然ある。だから長いからダメ、とは全然思わないが、この作品においては少し辛かったかもしれない。全体が重い雰囲気で後半の襲撃シーンまでアクション的な盛り上げる場所がほとんどないし(爆発シーンはちょっとある)、似た名前の人たちが多いテロ組織の人脈をたどるので分かりづらい。なので映画の前半は正直結構たるい。一応かなり実際の作戦に忠実ということなのだが、物語が2003年から2011年までの長きに渡る上、それが飛び飛びで描かれ、また非常に分かりづらい設定なので、もうちょっと劇映画用に期間を短く分かりやすく整理すればよかったのではないかと思う。中盤の潜伏先を特定するあたりからはずっと一定の時間軸で展開されるのでそこからはずっと集中力が続くが前半はちょっと散漫だったかな。
途中で「エリア51」が出てきたりして、またそこで極秘裏に開発されたステルスヘリなどが出てきてちょっと胡散臭く感じたのだが、いわゆるUFOなどの都市伝説で有名なエリア51というのは実際に存在して最新兵器の開発・実験機地なのだという。この辺僕はUFO関連での知識しか無かったのでつい失笑してしまった。ステルスヘリというのも実際に使用されたようだ。プロペラの音がうるさいヘリコプターのステルスというのがどのくらい意味のあるものなのか僕には理解が足りないが、劇中ではデビュー戦で一機不時着し、作戦終了時に機密保持のためか惜しげも無く爆破したりしている。
現代アメリカの忠臣蔵
さて、「アルゴ」やゲームの「コール・オブ・デューティー」などが見ながら連想した作品なのだが、実はクライマックスの特殊部隊の作戦シーンで連想したのは「忠臣蔵」。ご存知日本の復讐譚の代表とでも言うべき物で、冷静に考えれば狂気極まりない物語だが誰もが知っている冬の風物詩でもある。復讐に燃える赤穂浪士が1年越しに敵役である老人吉良上野介の屋敷の間取りや滞在する日を探り出し、夜中に奇襲をかける。この「ゼロ・ダーク・サーティ」も1人の老人ビンラディンを数年がかりで突き止め、綿密に捜索し夜襲をかける。
現在アメリカではキアヌ・リーブスがハーフのサムライというトンデモ設定で「忠臣蔵」を製作中とのことなのだが、それよりもこの物語をもっと整理、わかりやすくして現代の忠臣蔵として仕立てたほうが良かったような気がする。忠臣蔵だって元々は実録物だしね!
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「アルゴ」もそうだがこちらについてもアメリカのプロパガンダだ云々という意見は当然出てくるものと思われる。とはいえ、アメリカ人がアメリカの観客向けに作るんだし、政府から金をもらってこう作れ、と指図されたわけではない以上、そういうのは厳密にはプロパガンダとは言わないよ。もし気になれば逆の立場の本なり映画なりを読んでみて自分で調べてみればいい。別にこの映画を鵜呑みにしろ、とは誰も言っていないわけだし。
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