雷兄弟離れ TEDテッド
なんだか日本では洋画としては異例の大ヒットを飛ばしているようですが、僕は遅ればせながらやっと見て来ました。マーク・ウォールバーグ主演のコメディ映画「テッド」を鑑賞。
物語
友達のいないジョンはクリスマスに両親に貰ったテディベアをテッドと名付け友達のように大事にしていた。あるとき、ジョンがテッドに命が宿るよう願うとその願いは聞き届けられ、朝になるとテッドが本当に生きていたのだ。テッドは一躍有名になるが、二人はそれからずっと親友として暮らしていた。
2012年、35歳になったジョンは恋人のロリーとテッドと3人で生活。テッドも見かけはかつての愛らしいヌイグルミそのものながら中身はマリファナを嗜む不良中年に。ジョンもテッドもいまいち成長しきれていない。交際4周年記念の食事を終えてジョンとロリーが帰宅するとそこではテッドが娼婦を呼び寄せ乱痴気騒ぎをしていた。怒ったロリーはジョンにテッドを出て行かせるように進言。仕方がなくテッドは初めて一人暮らしをし働き始めるのだったが・・・
最初に予告編などを見て思ったのは「これは裏『ザ・マペッツ』ではないか」ということ。あの作品でも人間とマペットの兄弟がいて人間のほうには恋人がいて、でも常にもう一人がついてきて・・・という似た構図の作品だった。あちらの世界観ではマペットの存在が他にもいたが、こちらはテッドのみ。そして「ザ・マペッツ」のウォルターは純粋な意味で子供のままだったが、こちらは悪い遊びは覚えているけど精神的には子供のまま、というよりたちの悪い方向へ。もちろんこちらのほうが大人向けの作品であるからなのだが。
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映画には色々なアメリカのサブカルチャーが散りばめられており、いかにもタランティーノ以降のコメディ映画という感じなのだけれど、その中心になるのが「フラッシュ・ゴードン」。元はアメリカの古いコミックスで劇中で出てくるのは「スターウォーズ」によるSFブームの中、大プロデューサー、ディノ・デ・ラウレンティスによって制作された1980年のスペース・オペラ。マックス・フォン・シドーのミン皇帝は暗黒皇帝(id:globalhead)陛下として馴染みが深いですね。一般に金はかかっているけどそれだけ、という作品としてあげられることが多く、クイーンによる主題歌だけは今でも有名である。
劇中で本人として出てくる主人公フラッシュ役のサム・ジョーンズは当時でもちょっと時代遅れなハンサムという感じである。個人的には同じフラッシュ・ゴードンでもポルノパロディとして作られた「フレッシュ・ゴードン」の方が出来がいいのでおすすめ(小さいお子様でも安心してご覧になれます。責任は取りません)。ジョーンズつながりでもないのだろうけど「テッド」にはノラ・ジョーンズも本人役で出てます。
その他ライアン・レイノルズも本人役(?)でゲスト出演。後はなぜか劇中大物俳優・セレブの代名詞的役割でトム・スケリットが出てきたりする。
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映画ではジョンがテッドを手放すことによって35にしてやっと成長するという物語でもある。ジョンは愉快なやつだが堪え性がない。友達がいなかったジョンがそれなりに職場では重宝され美人で遣り手の恋人まで出来るようになったのはおそらくテッドとの長年の交流によるものだ。しかし一方でテッドとは離れられなくなっており仕事中や恋人と一緒にいてもテッドから呼び出しがあるとすぐそっちに行ってしまう。予告編などではジョンがテッドを追い出してテッドのほうが大変なように見えるが実は(互いに依存している中でもより)依存しているのはジョンの方である。テッドはその傍若無人な態度がなぜか上司に受け出世したりすぐに恋人ができたりするように実は彼自身はジョンなしでもうまくやれる。この辺は最近の「シャーロック・ホームズ」の方で実はホームズこそワトソンに依存している、という構図に似ているかもしれない。関係ないけど劇中のマーク・ウォールバーグが歌うシーンでその音痴っぷりが笑いどころだが、マーク・ウォールバーグは元々歌手(ラッパー)出身なのでそれ自体がギャグなんでしょうね。
映画は面白かったし、テッドの(見た目)可愛いキャラなどもあって大ヒットしたのはわかるけれどやはりそこはブラックすぎる部分もあってあんまり笑えない所もあったりした。誰にでも勧められる映画かというと、ちょっと違うと思う。
字幕問題
今回は散々迷った結果、吹き替え版で鑑賞。というのも映画評論家の町山智浩さんが監修したという翻訳が事前の噂を聞く限りとても僕には許容しがたいものに思えたから。いわゆる「アメリカの文化が下敷きになっているので、日本人にはわかりづらい。そこで日本人にも分かるよう一部固有名詞をローカライズした」というもの。例としては「誰かがジョーン・クロフォードにならなきゃ」というところを「星一徹」に変えていたりします。いわゆる子供を殴ってしまうシーンでのセリフだけど、僕は全く変える必要を感じなかった。ジョーン・クロフォードは日本でもそれなりに有名だと思うし(養女を虐待していたエピソードはともかく)、そもそも星一徹とジョーン・クロフォードでは全然意味が変わってしまわないか?
急いで言っておくと吹替で見る分には違和感はさほど感じませんでした。もちろん、「ああここが日本向けに変えてあるな」という部分は見当がつくんですがもとより日本語で言っているため違和感は薄いのです。またお笑い芸人有吉弘行によるテッドの吹き替えも予想以上にうまかったこともありました*1。吹替でやる分にはこういう試みは成功と言えます。ただ、字幕ではちょっとありえない。大体、字幕至高主義者の人って俳優の口から直に出てくるセリフのニュアンスを楽しんだりするんでしょう?俳優の口からは「ジョーン・クロフォード」という固有名詞が出てくるのに字幕が「星一徹」で違和感を感じないんでしょうか。耳から入ってくる情報と目から入ってくる情報が違ったら異物感が激しくて混乱すると思うのですが。それともセリフなんて聞いちゃいなくて字幕を見ているだけなのですか?ちょっと厳しい言い方になってしまったけど、これはない。また僕にとっては「テディ・ラクスピン」も「くまモン」も認知度としては最初から大差ないですし。大体「くまモン」って最近のキャラクターでしょ。あれは変えるにしてもジョンが子供の頃(80年代)のおもちゃにしなければ意味がつながらないじゃないかと思います。単に熊の見た目の外見からくまモンを選択したのでしょうがあれだったら当時大ブームだった「トランスフォーマー」とかのほうがよほど意味が通ったと思います。
個人的には極端な意訳や冒険的おふざけはTV放送では許されると思いますがオフィシャルなソフトで永遠に残る可能性が高いものはできるだけ実直に真面目に直訳に近いぐらいでやるほうがいいと思っています。吹き替えのほうで日本語のニュアンスに近づけるのはむしろ必要なことだと思いますが。
というわけで町山さんの監修については(字幕の方は特に)異議あり!ですね。
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*1:有吉とテッドのキャラがピタリとはまっていたのも良かったのであって、有吉が必ずしも声優として優秀というのとは少し違う