The Spirit in the Bottle

旧「小覇王の徒然はてな別館」です。movie,comics & more…!!!

神は与え奪いたもう LOOPER/ルーパー

 しばらく史劇・文芸大作系の鑑賞が続いていたけれど、久々のSF鑑賞。去年から一部で激賞されていた「LOOPER/ルーパー」を鑑賞。

物語

 2074年、未来から過去へのタイムトラベルが可能になる。2074年では不可能とされる殺人も対象を過去へ送り込むことで可能となるのだ。
 2044年、ルーパーと呼ばれる仕事人は未来のマフィアから送られてくる対象者を始末する。最年少でルーパーを務めるジョーもその1人。ルーパーは指定時刻に現れる袋を被され手足を縛られた対象をその場で射殺し、一緒に送られてくる銀塊を受け取る。ルーパーの仕事の掟、それは「対象を逃してはならない。必ず始末すること」。
 ルーパーの仕事は金塊を受け取る時まで続く。それは始末した対象が未来の自分であることを示す。ルーパーは金塊を受け取り、残された30年の余生を生きるのだ。これを「ループを閉じる」という。
 あるときルーパー仲間のセスが未来の自分を取り逃がしてしまう。セスを匿うジョーだったが未来からやってきたルーパーの元締めエイブとの取引でセスを引き渡す。そしてジョーがいつものように仕事に出かける、その時現れた対象は袋を被されておらず、驚いたジョーは彼を逃してしまう。彼こそ未来のジョーだったのだ。仕事のミスを犯したジョーをとらえるべくエイブの魔の手がジョーに迫る。ジョーも自分の手でオールド・ジョーを始末すると誓う。そしてオールド・ジョーにも2044年でやらなければならないことが待っていた・・・

 例えば大河ドラマなど一人の人物の幼少から死までを描くようなドラマではその人物の年代ごとに別々の役者を立てることがよくある(最近は少ないが)。最近は特殊メイクによる老けメイクで若い役者に晩年まで演技させることが通例のようだが、その人物のどの年代に焦点を置くのかによってもキャスティングの意図は変わるだろう。「信長は、人生五十年って歌ってるのに60越えてる役者を使うなよー」とか昔は思ったものだ。
 そういう伝記ドラマではなくSFなどでも若いころと壮年・老年時期を別の役者で表現というのはよくあって、例えば「スタートレック/ネメシス」ではトム・ハーディーがパトリック・スチュアート演じるジャン=リュック・ピカード艦長の若いころ*1を演じている。また「X-MEN ファースト・ジェネレーション」でもやはりパトリック・スチュアートの若いころとしてジェームズ・マカヴォイがチャールズ・エグゼビアを演じている。もっともこちらは作品中ではパトリック・スチュアートは登場しないこともあってそれほど似せているわけではない。

 最近の作品だと「ホビット」のイアン・ホルムマーティン・フリーマンがそれぞれビルボ・バギンズの晩年と若いころを演じている。しかし、近年最も見事な別々の役者によって演じられる同一人物の若いころと老年と言えば(作品そのものの出来はともかく)「MIB3」のエージェントKだろう。ジョシュ・ブローリン演じるヤングKは容貌もさることながら演技そのもので(トミー・リー・ジョーンズと言うよりも)Kの若いころに素晴らしい説得力をもたせていた。

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 この「ルーパー」も同じ人物の若いころをジョゼフ・ゴードン=レヴィットが、その30年後をブルース・ウィリスが演じている。どちらかというとジョゼフ・ゴードン=レヴィットが特殊メイクでブルース・ウィリスに似せているがもとより人格的には別人に近いのでそれほど演技で似せているわけではない。

 で、この作品、面白かったことは面白かったのだが、一部の人が絶賛するほどの作品とは僕には思えなかった。その理由はいくつかあって事前の予告編から感じた印象と異なる部分が多かったことも大きい。

 まず僕はこの物語が「30年後の未来から現代(2012〜2013年)ぐらいに送られてくる対象を殺すルーパーの物語」だと思い込んでいた。だからメインの舞台が2044年だと知って一気にガクッと来てしまったのだ。その割に未来っぽい描写が宙に浮くバイクぐらいしかないのでTK(テレキネシス)の設定を何とかしても全然現代で通用したしそのほうが面白かったと思う。また二人のジョー、つまり自分自身が互いに激しいアクションを繰り広げて一進一退の攻防や追いかけっこをするのだと思っていのだが中盤はほぼ別行動なのだな。後はもうちょっとコメディっぽい要素が多いとも思っていた。この辺は予告編で期待しすぎた反動というべきか。
 後は特殊メイクによってジョゼフ・ゴードン=レヴィットをブルース・ウィリスに似せている(主に鼻や眉間のあたり)のだが、そのせいで彼特有の愛嬌ある表情が消えていて魅力が半減してしまっていたこと。眉が余り動かないので表情が乏しい。せっかく彼を起用しているのにもったいない。それでも30年の歩みで23年後ぐらいから一気にハゲが進む描写は面白かったが。ブルース・ウィリスはまあ、いつものブルース・ウィリスでぼやきながら頑張る感じ。
 物語的にはいわゆる「親殺しのパラドックス」を扱っているが、微妙に雑で、かと言って「ターミネーター」や「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のような力押しでもないので見た後に違和感というかスッキリしないものが残る。SFとしての描写が雑ということでは「TIME/タイム」もそうなのだがあちらは寓話として開き直っていたように思う。しかしこちらはSFにしては雑、寓話にしては理詰めすぎ、という中途半端感が残ってしまう。色々と考えさせる部分は多いが個人的にはもっと力技で突き進んだほうが良いと思った。

 ちょい役だが贅沢な使い方をしているのがポール・ダノで彼の運命が全体のプロローグとなって同時に世界観の説明も果たしている。未来からやってきて逃げ出したセスを捕まえるのに現代のセスの体に傷をつけてメッセージを伝える。現代のセスの身体に損壊を加えれば未来のセスもこれまでなんともなかった身体が失われてしまう。これも冷静に考えればおかしな話でもあるのだが描写自体は後にジョーにも訪れるであろう運命と恐怖感を煽ってよかった。
 また、ジェフ・ダニエルズ演じる未来からやってきたルーパーたちの元締めであるエイブの存在が結構面白い。彼はおそらくすべての事情を知っている人物でもある。例えば「ループを閉じたらフランスに行きたい」というジョーに対して彼は「中国に行け」と勧め、実際無事ループを閉じた未来軸(オールド・ジョーが生きてきた時間軸)ではジョーはなぜか中国に向かう。これはジョーがエイブの勧めにしたがったから、というよりエイブはジョーが中国に行くことを知っていたから、と考えたほうが良いだろう(実際は当初フランスの予定だったのを中国資本が入ったので中国に変えたというのが裏事情のようです)。
 ルーパーたちはエイブの指示で仕事をこなし、彼の所で換金し、彼の店で金を落とす。まさにループ状態だ。
 また彼の部下にはガットメンと呼ばれるルーパーの上部組織があるのだが、そこのキャラクターでキッドブルーというぼんくらがいる。彼はルーパーに対し偉そうに振る舞うのに、自慢の銃で自分の足を撃ちぬいてしまうようなお馬鹿さんで誰からもバカにされているが、エイブにはなぜか厳しくされつつも愛されているように見える。だから僕はてっきり「キッドブルーはエイブの過去の姿に違いない」などと思っていたのだがそういう描写(というか別に違っていてもいいのだが、エイブの過去やキッドブルーその人のキャラクター説明が特に無い)はなかったのが残念。この辺もっと掘り下げれば敵側に深みが出て面白かったと思うのだが。
 ヒロインにあたる女性が三人いるのも微妙。1人は「アジャストメント」「砂漠でサーモン・フィッシング」のエミリー・ブラント。そしてパイパー・ペラーボ。この二人はその子供が未来のマフィアの大ボスになる可能性がある、ということでオールド・ジョーに子供が狙われている。パイパー・ペラーボはエイブの店で働く娼婦でヤング・ジョーの想い人という設定なのだがヌードを披露。しかし、これが見事な貧乳!まあそれはおいておいてこのパイパー・ペラーボの扱いが微妙でうまくエミリー・ブラントのキャラと統合させられたのではないかとも思う。
 後もう一人はオールド・ジョーの奥さんになる中国人。未来では殺人不可能、って言ってるのに(過去へ送る)ジョーを捕まえる際に未来のマフィアがジョーの奥さんを殺しちゃってるのがなあ。しかもそれがオールド・ジョーの動機になっちゃってるので。このへんが雑っぽく感じちゃう。
 後は未来に向けてのキーパーソンになる子供が中々に邪悪で良かった。ダミアンくん、あるいは「ブラック・エンジェルズ」の勇気を思わせる。個人的所感だが彼は、どういう経緯を経ようとも将来は悪の大物になる予感がするね。

こいつはくせえッー!ゲロ以下のにおいがプンプンするぜッーーーーッ!!
こんな悪には出会ったことがねえほどになァーーーーッ
環境で悪人になっただと?ちがうね!!こいつは生まれついての悪だッ!
byスピードワゴンジョジョの奇妙な冒険

って感じ。ちょっとひどいか。

 ちょっと否定的意見ばかりになってしまったが、面白かったのは間違いない。ただやはりもっと掘り下げられた部分も多く、SFとしては少し残念な作品。

スーパーこじつけタイム

 未来の自分を自分の手で消すことを「ループを閉じる」と劇中では言う。30年後には殺されることを前提とした仕事であって「前向きな人間には向かない仕事」だが、つまりオールド・ジョーは本来自分がいつかマフィアの手で過去に送られることを覚悟していたはずである。にも関わらず抵抗して妻を殺されてしまう。もちろん生き延びたいと思う心情は理解できるが、逆にジョーが最後の最後でプロに徹することができなかった証でもある。未来のボス「レインメーカー」が次々と元ルーパーを過去に送りループを閉じさせている、というのは別にルーパーなら覚悟のうえではないか?だからおそらくオールド・ジョーの動機として「妻が殺される未来を変えたい」というもっと強めの物が用意されたのだと思うが、先述の通り、「未来では殺害不可能」というルールに矛盾してしまう。奥さん(しかも堅気)を殺して問題ないならそもそもましてややくざ者をその場で処刑したほうが早いではないか。
 さて、仏教では悟りを開くことはすなわち「もう二度と六道のどれにも生まれ変わることは無い。一切の苦しみから開放される」ということである(大雑把ではあるが)。これを拡大解釈すれば自分で自分の運命を決めるルーパーたちは悟り予備軍と言えないこともない。物語のラストでジョーは遂に究極の手段でループを閉じる。彼は最後で悟りを開いたのかもしれない。
 キリスト教的解釈としてはあれだ。神は与え奪いたもうってことだ。髪の毛とかな!

*1:正確にはクローンだが、劇中ピカードの青年時代の写真が登場し、それもトム・ハーディが扮している