The Spirit in the Bottle

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フランス革命ヴェルサイユの3日間 マリー・アントワネットに別れをつげて

 年末年始には「十戒」「レ・ミゼラブル」「もうひとりのシェイクスピア」そしてDVDで見たジェームズ・カヴィーゼルガイ・ピアース主演の「モンテ・クリスト伯」など史劇・文芸大作系の映画が続いていたのだが*12013年劇場鑑賞第2弾も史劇。フランス大革命におけるマリー・アントワネットとその侍女の物語、「マリー・アントワネットに別れをつげて」を鑑賞。

物語

 1779年7月14日、フランス王妃マリー・アントワネットの侍女で朗読係のシドニー・ラボルドは今日も王妃のために本を読んでいる。マリー・アントワネットシドニーの虫さされの腕に香油を塗ってくれたかと思えば唐突に刺繍の見本帳に夢中になってそっちのけになるような気まぐれな人物だが、シドニーはそんな王妃に心酔しているのだった。
 7月15日、民衆がバスティーユ監獄を襲撃陥落したという報告がヴェルサイユをパニックに陥れる。そんな中シドニーは王妃お抱えの服飾デザイナーベルダン夫人から王妃のための刺繍を依頼される。シドニーは自分の名前を出さないことを条件に引き受ける。彼女には刺繍の才能があったが、もし刺繍係に回されれば王妃に会えなくなってしまうからだ。夜になると民衆が作成した「殺すリスト」が貴族の間に出回り宮殿は騒然となる。王族の次に記されているのは王妃の友人であるポリニャック夫人。シドニーは王妃から逃亡のための地図を制作することを命じられ、更に呼び出しに応じないポリニャック夫人の呼び出しを買って出る。しかしポリニャック夫人は薬を飲んで熟睡。仕方なく戻るシドニーを王妃は「地図の制作ができていない」と叱るのだった。
 7月16日、ヴェルサイユは混乱を極め、ルイ16世は逃亡せず、パリに出向くことを決意。打ちひしがれる王妃に寄り添ったのは鮮やかな緑のドレスを着たポリニャック夫人だった。ヴェルサイユから我先にと逃げ出す、貴族や坊主たち。自殺者も出る中、シドニーも侍女仲間に時計を盗まれてしまう。そして運命の7月17日・・・

 「レ・ミゼラブル」は1815年から物語が始まる。1815年はナポレオンがエルバ島を脱出するも百日天下で終わりセント・ヘレナ島に流され皇帝位を退位し、フランス第一帝政が崩壊、一連のフランス革命の区切りがついた年と言えるだろう。一方、こちらの「マリー・アントワネットに別れをつげて」は1779年のフランス革命の始まりの年だ。一般に他のフランスで起きた革命と区別してフランス大革命などともいうが人類史においても最も重要な出来事の一つであると思う。
 革命の一方の主役、フランス王室ブルボン朝ルイ16世とその王妃マリー・アントワネットは日本でも知られている。僕なんかも池田理代子の「ベルサイユのばら」を熱心に読んだりした輩だが下々の民の気持ちが分からない根っからの王妃(逆に言えば贅沢に対して悪気が全くない無邪気さ)というイメージと革命によって命を散らした悲劇の王妃、という感じだろう。この映画でも大枠はそのイメージを踏襲している。

 例によってどんな内容で誰が出ているか、とか全く調べずに見たのだけれど(最近このパターン多いです)今回マリー・アントワネットを演じているのは「トロイ」でヘレネを演じ「イングロリアス・バスターズ」で連合国のスパイであるドイツ人女優を演じたダイアン・クルーガー。この人は確かドイツ人だったよなーとか思っていたが、元々マリー・アントワネット自身がオーストリア出身であるし、ある意味最もふさわしい女優かもしれない。最も当時のヨーロッパ社会ではフランス語は共通語的な位置を占めていたので貴族たちは大体話せたとか、国によっては母国語よりフランス語のほうが得意だった王様とかいたという事もあるようなので(たしかフリードリヒ大王治下のプロイセンはそうだったような)マリー・アントワネットも別にフランス語で苦労することは無かったのかもしれない。

 主演は「ミッション・インポッシブル:ゴースト・プロトコル」でロリータ殺し屋を演じたレア・セドゥ。僕が最初に認識したのはリドリー・スコット監督の「ロビン・フッド」におけるジョン王の王妃としてだがこちらもまた「イングロリアス・バスターズ」に出てたらしいがちょっと記憶にない。ここではヴェルサイユ宮殿マリー・アントワネットに使える侍女で直接お目見え出来る朗読係という設定。彼女自身は刺繍が得意だが、それがバレると刺繍係にされてしまい、王妃に会えなくなるので黙っている。レア・セドゥは可愛いが地味な感じで演じている。途中男を放置したりしてたな・・・あの男どうなったんだろうか。
 マリー・アントワネットルイ16世は派手な王妃と地味な王様(錠前づくりが趣味)という感じで不釣合いで有名だったがその分マリー・アントワネットには不穏な噂がついて回る。完全な冤罪である「首飾り事件」などもそうだが、スウェーデンのフェルセン伯爵との仲は「ベルサイユのばら」でも取り上げられたので日本でも有名。この映画ではポリニャック夫人とのレズビアン的な仲が取り上げられている。ポリニャック夫人は王妃の浪費を加速させたということで王妃の悪評に拍車をかけた人物。この人は革命勃発3日目で王妃の元から逃げ出したためさらなる悪評を買うがその部分が今回の映画になっているわけだ。ポリニャック夫人はヴィルジニー・ルドワイヤンという人が怪しげな美貌で演じています(ヌードあり)。
 前回見た「もうひとりのシェイクスピア」や「リンカーン/秘密の書」でもそうだっったが、この映画でも侍女はともかく貴族レベルになると全て実在の人物でこういう実在の人物の使い方が上手いなあと思う。

 映画は実際のヴェルサイユ宮殿で撮影したそうなのだけれど、豪華な表部分の他に宮殿内での貴族の部屋や侍女たちの部屋など裏部分の地味な部分もきちんと移っているのが良かった。
 で、話をレア・セドゥに戻す。彼女が演じるシドニーは王妃に憧れを越えた魅力を感じている。王妃は気まぐれでシドニーに優しくする一方、気にもとめていなかったりする。王妃はヴェルサイユを脱出するポリニャック夫人に同行し革命派に見つかった際にはポリニャック夫人の身代わりとなれ、とシドニーに命令する。彼女はそれでも言うことを聞くが・・・
 実際の歴史ではポリニャック夫人はこの時点では生き延びて王夫妻の処刑の二ヶ月後にウィーンで死去している。もしかしたらこの時にシドニーが身代わりになったおかげかもしれない。映画ではそこまで描かれない。ただ、孤児だったシドニーの独白で終わる。映画としてはふわっとした終わり方で「え?もう終わり」という感じなのだが、そのへんはきちんとオチを付けるアメリカ映画というよりいかにもフランス映画という感じではある。
 そして、下世話な話になりますが、レア・セドゥ!さすがフランスの女優!きっちりヌードを見せてくれます。フランスの女優さんはシーンに意味があれば脱ぐ、意味がなくても脱ぐ、というイメージがあるのだが、今回もそのイメージを踏襲してくれました。ポリニャック夫人の緑色のドレスに着替えるシーンできっちり全裸になるのですね。それも後ろ姿だけとかではなく前を向いてきっちりと!はっきり言って全身を(カメラの前で)見せる意味は殆ど無いように思うのだけどそれを見せてくれるのがフランス映画ですね。

 ちなみにルイ16世マリー・アントワネットが処刑されたのは単に彼らが王政の打倒の犠牲になったわけだからだけではない。確かに彼らはその浪費によって民衆の恨みをかってはいたが同時に畏敬の念も受けていた。マリー・アントワネットが宮殿のバルコニーから押し寄せる民衆にお辞儀をした途端歓声とマリー・アントワネットを称える声が起きたのは有名だ。ルイ16世は決して悪い人では無かったが絶対君主である以上無能であることは有害である。世襲王朝であるからといってそれが許されるわけでもない。
 ルイ16世はフランスブルボン王朝最後の絶対君主であるが同時に最初の立憲君主でもある。革命初期のころはあくまで民衆も議会の設立と貴族の打倒は念頭にあっても王政の打倒までは念頭に無かった。それが共和制の設立と処刑という手段に至ったのは王夫妻がフェルセンの手引きでパリ脱出を計ったためである。このヴァレンヌ事件によって国王に裏切られたと感じた民衆は国王の処刑という行動に至った。ルイ16世は処刑の時に「私は無実のうちに死ぬが民衆を恨まない」というようなことを言ったとされるが国民を裏切り亡命を企てたという意味で確かに彼らには罪があったのだ。
 功罪相半ばしてもフランス革命にはその後の人類の指針となる出来事が多い。もしもフランス革命が起きなければその後の人類の歴史はだいぶん変わっていたはずである。

*1:ホビット」もある意味文芸大作みたいなもの