The Spirit in the Bottle

旧「小覇王の徒然はてな別館」です。movie,comics & more…!!!

20年目のシザーハンズ フランケンウィニー

 ティム・バートンというのは不思議な映画監督でメジャーで奇想天外な作品をまるでプライベートフィルムのように彼の個性に深く根ざした作品を撮りながら、それをヒットさせている監督だ。また、通常異業種から映画界に進出した場合でも監督デビュー作は長編一作目が取り上げられるだろうが、彼に関してはその処女作として認知されているのは5分程度のストップモーションアニメである「ヴィンセント」や30分に満たない短編である「フランケンウィニー」である。「ヴィンセント」は自分をヴィンセント・プライスだと思い込んだ少年ヴィンセントの顛末を描いたもの。ほぼバートンの少年時代であるのだろう。また「フランケンウィニー」は死んでしまった愛犬を電気で生き返らせ、そのことで町が大変なことになる、という1931年作品「フランケンシュタイン」のオマージュにあふれた作品でここにはその後のティム・バートン作品の基本になるような要素が沢山見出すことが出来る。長編としてのデビュー作は「ピーウィーの大冒険」*1だがバートンの場合、監督デビュー作といった場合「ヴィンセント」か「フランケンウィニー」を指すことが多い。
 ティム・バートンはメジャーでプライベートフィルムを撮ると書いたが、彼はそもそも(特にディズニーのアニメーターだったころは)コミュニケーションに難があり、そもそも自分で何もかも手がけなければならないインディーズでは作品を作ることすら出来なかったので無いか、とさえ思える。そういう意味ではメジャーでありながらティム・バートンのような異才を排除せず、取り込めるアメリカの映画産業の懐の深さは凄い、と捉えるべきかもしれない。
 さすがに21世紀に入ってからはビッグ・バジェット(とはいえバートン作品が低予算作品であったことなど無いのだが)が続いたためか90年代の痛々しいが素晴らしい作品群とは傾向が違ってきたが、そこでも映像やデザインではまごうこと無いバートン印を刻んできた。また、ディズニー時代のアイデアを当時の盟友と作品化した「ナイトメアー・ビフォア・クリスマス」で再びストップモーションアニメーション作品を手がけたが*2その後自分で「コープス・ブライド」を監督。これはもしかしたら21世紀のバートン作品では一番バートンらしさが表に出た作品かもしれない。
 そして、今年、ティム・バートンは再びストップモーションアニメーション作品を監督した。それも自分の原点とでも言うべき「フランケンウィニー」のセルフリメイクである。「フランケンウィニー」を鑑賞。

物語

 毎夜雷がなる郊外の町ニュー・オランダ、ヴィクター・フランケンシュタイン少年はやさしい両親とともに暮らしている。科学と映画作りが趣味だが人付き合いは苦手で愛犬のスパーキーだけが友達だ。今日もスパーキー主演による自作怪獣映画を両親に披露して賞賛を得るが、そんなヴィクターを父親は少し心配している。学校では新しい科学の先生、ジクルスキ先生が赴任。そのユニークな教え方に子どもたちの科学熱は増し、皆科学展でのトップを狙う。
 そんな時、悲劇が起きてしまった。父親の勧めでしょうがなく野球に参加したヴィクターだったが彼の打ったボールにスパーキーが反応して道路に飛び出してしまいクルマにはねられ亡くなってしまったのだ。落ち込むヴィクター。しかし、ジクルスキ先生の授業で動物の体は電気に反応することを知ったヴィクターは雷の力でスパーキーをよみがえらせることを思いつく。蘇生実権は見事成功しスパーキーは再び動きはじめる。ヴィクターはこのことを秘密にしてスパーキーを屋根裏で飼うことにするが蘇生されたことが分かっていないスパーキーはヴィクターが学校に行っている間に外に遊びに出てしまい、クラスメイトのエドガーに目撃されてしまうのだった。エドガーは秘密を守る代わりに科学展でコンビを組み自分にもペットを蘇らせる方法を教えてくれと迫るが・・

 公にはどうなってる分からないが、「フランケンウィニー」は実は一度ティム・バートン自身にリメイクされている。「シザーハンズ」として。「シザーハンズ」では人知れず作られ未完成の人造人間エドワードが町の人間に発見されて町に降り、そのキャラクターで一時的に人気者となるがやがて人々は彼を恐れ初め、追い立てられるようにエドワードは再び城に戻る・・・
 登場する郊外の町並みや外れにある風車小屋やお城といった共通点も多い。「フランケンウィニー」と「シザーハンズ」では最終的に人々に受け入れられるか否か、など違う点も多いがむしろバートンの個性が際立った少なくとも兄弟作といっても良いような内容だった。だからバートンが再び「フランケンウィニー」を長編化すると聞いてどういうふうにするのだろう?と期待半分不安半分だったのだが出来上がった作品はここ最近では一番ティム・バートンらしい作品に仕上がっていた。

 ちなみに僕はオールタイムベストにバートンの「バットマン」二部作(特に「リターンズ」のほう)を挙げる、というのはちょくちょくこのブログ上でも書いているが、これが中々思いは複雑で、バットマンの映画としては最近の「ダークナイト」や「ダークナイト ライジング」の方が優れていると思っている。逆にティム・バートンの作品の中から最高傑作を挙げろ、と言われたら僕は「シザーハンズ」と「ビッグ・フィッシュ」を選ぶ。でも全てひっくるめてベストを、と言われれば迷わず「バットマン リターンズ」を挙げる。言葉で説明するのは難しいがなんとなく分かっていもらえるのではないかと。さらに言うとティム・バートンが90年代初頭に続けざまに制作した「シザーハンズ」「バットマン・リターンズ」「ナイトメアー・ビフォア・クリスマス」の3本はすべてクリスマスを舞台にしているので僕は勝手に「バートンのクリスマス3部作」と呼んでいる。
バットマン リターンズ [Blu-ray]

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オリジナルの「フランケンウィニー」と「ヴィンセント」はこれに収録されていると思います。

 30分の短編を87分というおよそ三倍の長さの作品にするに当たってバートンは最初と最後は変えていない。中盤にオリジナルとはぜんぜん違う要素を入れることでもたせている。すなわち「スパーキー以外にも次々ペットが蘇る」のだ!しかも大いなるアクシデント付きで!
 ヴィクターのキャラクターは映画とスパーキー好きという点は変わらないものの、上映会に近所の子供も招いていて友達がいたオリジナルに比べると、内向的になっており、よりティム・バートンの少年時代に近いのではないかと思う。
 ヴィクターのクラスメイトがなかなか個性的でオリジナルの隣の少女をヒロインのエルザ・ヴァン・ヘルシングとフシギちゃんで分け合っている。エルザの苗字、ヴァン・ヘルシングはもちろん「吸血鬼ドラキュラ」のエイブラハム・ヴァン・ヘルシング教授から。そして名前のエルザは1935年の傑作「フランケンシュタインの花嫁」でタイトルロールの怪物の花嫁やメアリー・シェリーを演じたエルザ・ランチェスターからの引用だろう。彼女の飼っている(そしてスパーキーの恋の相手)犬ペルセポネ(ギリシア神話における冥界の神ハデスの奥方!)は復活したスパーキーのボルトに触れて髪にメッシュが入るがこれは「フランケンシュタインの花嫁」における怪物の花嫁のメイキャップである。エルザは一応ヒロインであるが彼女の声を「ビートルジュース」「シザーハンズ」に出演したウィノナ・ライダーが演じている。後述するがこの作品、最近のバートンの映画の常連より、初期作品の常連が出ていることも特徴だ。
 もう1人の女子フシギちゃんはティム・バートンの絵本「オイスター・ボーイの憂鬱な死」に出てきそうな目をカッと見開いた文字通り不思議な子。猫のうんちが示すアルファベットで吉凶を占ったりしている。この子はなんの説明もなく唐突にペット蘇生組の一員として存在しているがそのへんもフシギちゃんだから、で納得しそう。
オイスター・ボーイの憂鬱な死

オイスター・ボーイの憂鬱な死

 そして蘇ったスパーキーを目撃し、ヴィクターに無理やり再実験を強要するのがエドガー。外見は1939年の「フランケンシュタインの復活」に出てくるせむしの男エドガー・イゴールがモデルだろう。フランケンシュタインに実験を強要するという役割も一緒だ。フルネームはエドガー・E・ゴアでおそらくエドガーはエドガー・アラン・ポーも兼ねている。ゴアは血糊を意味するゴアからの引用か。そして「E・ゴア」を続けて発音すると「イゴール」というわけだ。
 その他長身でゴスな生き方をしているナソルは外見がボリス・カーロフフランケンシュタインの怪物まんまである(ナソルという名前については分からないが何かありそう)。そしてエリートっぽいトシアキ(日本語をしゃべるシーンがある)や太っちょのボブなどがクラスメイト。この中ではトシアキが一番その強烈な競争心で悪役ぽい部分が見える。
 一方大人はヴィクターの両親であるフランケンシュタイン夫妻はエドワードとスーザン。エドワードというのはエドワード・シザーハンズでありエド・ウッドでも有りそうだ。オリジナルより若干若くなった印象。
 そして隣に住むエルザの叔父で町長や永井豪作品のちい子先生を思わせる女体育教師などがいる。彼らが一応の悪役を演じており、科学を恐れる古い人間でもある。一方見かけは古いが進歩的な科学教師ジクルスキ先生がヴィクターを導く。ジクルスキという名前は「ジキール博士とハイド氏」のジーキル(ジキル)に東ヨーロッパ・スラブ系っぽい響きの「〜スキー」を組み合わせたものかなと思う。
 
 僕は根っからの猫派で犬にはそれほど興味が無いのだが、バートンの犬好きは有名である。作品にもこれまでたくさんの犬が登場し人気を博していた。有名どころでは「ナイトメアー・ビフォア・クリスマス」のゼロや「コープス・ブライド」のスクラップスあたりが有名だろう。「シザーハンズ」でもエドワードが犬と佇む名シーンがある。もちろんその最初はスパーキーといえるのかもしれない。スパーキーはもうちょっとしつけをしておいたほうがいいんじゃないか、と思うくらい落ち着きのない犬だが実写だったオリジナルよりもっとキモかわいいという感じに仕上がっている。決してただ可愛いだけでなく無関係なものにはおぞましく感じるようなデザイン。つぎはぎの体はエドワード・シザーハンズ、サリー、キャットウーマンといった歴代のバートンの作品のキャラクターを連想させる。つぎはぎの尻尾が尻を振ったと拍子にちぎれて飛び、ヴィクターが「後でまた付け直してあげるよ」というシーンなどは自分の腕を修復する「ナイトメアー・ビフォア・クリスマス」のサリーを思い出すだろう。このもう一人の主人公スパーキーの微妙な多少グロい可愛さがバートンデザインの真骨頂とも言えるかも。

 エドガーがヴィクターに再実験させ蘇ったのが透明な金魚。これは「透明人間」からかも知れないが個人的には1954年の「ゴジラ」で芹沢博士の実験室でオキシジェン・デストロイヤーによって白骨化する魚を連想させる。
 そしてエドガーが皆にばらすことでクラスメイトが各々死んだペットを蘇らせるのだが、これがまた往年の怪奇映画などを連想させて楽しい。エドガーが蘇らせるネズミの死体はまるで狼男のようになるが、「ナイトメアー・ビフォア・クリスマス」にも出てきた狼男まんまというデザイン。そしてボブのシーモンキー軍団はその数でやイタズラ、はじけ飛ぶ最後といいおそらく「グレムリン」。あるいはもっとずばり「マーズ・アタック」の火星人を思わせないこともない。
 そしてナソルが大仰に蘇らせるコロッサスはその名前と墓の大きさに反して小さなミイラ風、コロッサスとは世界七不思議の一つに数えられるロードス島の巨像のことで聖書においてダヴィデが倒したゴリアテ(ゴライアス)などと並んで巨大なものによく使われる名前でそのギャップがすでにギャグになっているのだろう。
 トシアキが蘇らせるのは亀のシェリー。シェリーという名前は当然「フランケンシュタイン」の原作者メアリー・シェリー(あるいは夫で詩人のパーシー・シェリー)からの引用だろうがその亀のシェリーが巨大化して怪獣になるのはもちろん日本の「ガメラ」シリーズ。「ガメラ」のアメリカでの認知度はどのくらいのものかは分からないがそれでも昭和・平成含めてそれなりに知られているはずである。化学物質的なものの影響というのは「ティーンエイジ・ミュータント・ニンジャ・タートルズ」も影響してるか。そしてこうもり猫も登場。
 このように「フランケンシュタイン」を中心としつつ様々なSF・ホラー映画のオマージュが見て取れるのも楽しい。

声の出演その他

 今回は3Dの字幕版で鑑賞。字幕と吹き替え、2Dと3Dについては色々な考えがあるだろうが、個人的にはアニメーションや3D作品は吹き替えで観る方が好きである。今回はおそらく3D吹替という形式で上映しているのが一番多いのではないかと思うがあえて字幕を選択した。というのも吹替にはあのハリセンボンの二人が出ているとのことなのだな。キャスティング表を見る限りどうやらさほど重要な役では無いようだが(ちい子先生(もう面倒臭いのでそう命名)と特に役名のないクラスメイト)、何しろ以前に見た「呪怨パンデミック」における酷さが半端ではなくトラウマになっているので今回は吹替はスルーした。とはいえ、吹替の評判も上々のようではあるので「吹替だから観ない!」というのはもったいないかも。
 で、ここ最近のティム・バートンの常連といえば盟友ジョニー・デップと、プライベートでのパートナーであるヘレナ・ボナム・カーター、そして老いてますます盛ん「ホビット」にも出ていた白のサルマンことクリストファー・リー御大、といったところだが、今回はリー御大が特殊な形で出演した以外はデップもカーターも出演していない。代わりというわけではないが、最近ではなくちょっと昔の常連が出演している。
 先程も書いた通り、エルザ役にウィノナ・ライダー(愛称ノニー)。初期バートン作品でヒロインを務め(「ビートルジュース」のリディア役は当初脚本にはなく、バートンが付け足した要素だという)ご存知のように「シザーハンズ」で共演したノニーとジョニー・デップは婚約までしていたのだがその後破局している。万引事件の後最近は「ブラックスワン」で往年のプリマドンナという自虐的な役柄で注目を浴びたがまだまだノニーの時代は終わっちゃいませんぜ。繰り返すが僕の初恋の人。
 ヴィクターの母親スーザンやフシギちゃん、ちい子先生などをキャサリン・オハラ。一般的には「ホーム・アローン」のお母さん役で有名だが、この人も「ビートルジュース」でノニーの母親役を演じ、「ナイトメアー・ビフォア・クリスマス」でヒロインサリーを演じたバートン初期作品の常連。そして、父親エドワード、ナソル、町長をマーティン・ショートが演じている。彼は常連というわけではないが「マーズ・アタック」で大統領広報官を演じている。
 更に、一番渋い役であるジクルスキ先生。僕はてっきりこの役が今回はクリストファー・リー御大なのかと思っていたのだが、演じていたのは「エド・ウッド」「スリーピー・ホロウ」などに出演しティム・バートンが制作した「9 〜9番目の奇妙な人形〜」でも声の出演をしているマーティン・ランドー。ちなみに「エド・ウッド」ではベラ・ルゴシを演じた。「エド・ウッド」でのエド・ウッドとルゴシの関係はバートンとヴィンセント・プライスを連想させて切なかったな。娘のジュリエット・ランドーも「エド・ウッド」に出演していて、その後TVシリーズ「バフィー〜恋する十字架」で妖艶な女ヴァンパイア、ドゥルーシアを演じています。
 そして劇中フランケンシュタイン夫妻が見てる映画として英国ハマー社の「吸血鬼ドラキュラ」が流れる(唯一の実写シーン)。こういう形でクリストファー・リー御大も若かりし姿で出演しています。
 
 音楽はオリジナルの「フランケンウィニー」では デヴィッド・ニューマンとマイケル・コンヴェルティーノが担当していたが、今回は当然のようにダニー・エルフマン。そういえば今回は全然ミュージカル要素は無いんだけど(ちょろっとエルザが歌うぐらい)少し、「シザーハンズ」を思わせるメロディがあったりしてニヤッとさせられる。

フランケンウィニー オリジナル・サウンドトラック

フランケンウィニー オリジナル・サウンドトラック

これはスコアではなくコンピ・アルバムです。

 ラストはオリジナルのまんまなのでこれが一部で論議を起こしているとか、あの終わり方はどうなの?とか言っているのを聞くとい「いやいや、あれが元々の終わり方だから」と言いたくなる。この映画中盤にオリジナル要素を持ってきているものの、最初と最後はオリジナルまんまなのだから。スパーキーがおとなしく死ぬような悲劇がみたいならそれこそ「シザーハンズ」を観ればいいじゃん!と思うよ。
 正直最近は「ヴィジュアルだけは相変わらず凄いけど・・・」という感じになっていたバートンの久々に「これぞティム・バートン」という作品だと思う。白黒作品であるが長年のバートンファンとして強くおすすめしたい。

オリジナルの「フランケンウィニー」を全編貼っちゃうのは気が引けるので「ヴィンセント」の方を。こちらも今見ても素晴らしい。個人的にはむしろこっちをセルフリメイクしてくれないか、と思ったりするのです。
 最近の評価は色々だけどやっぱり僕はティム・バートンが大好きです!
フランケンウィニー ビジュアルブック (ShoPro Books)

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*1:これもバートン印満載の映画だがおどろくべきことに脚本から何からほとんどピーウィー・ハーマン側の持ち出しでバートンはあくまで雇われ監督という立場だったらしい。ティム・バートンピーウィー・ハーマンという二人の異形の才能がピタリと合致したというべきか

*2:ナイトメアー・ビフォア・クリスマス」の監督は「コラライン」「モンキー・ボーン」のヘンリー・セレックだが実質バートン作品といって差し支えないと思う