The Spirit in the Bottle

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半径1mそれぞれのリアル 桐島、部活やめるってよ

 今年観た邦画の中では僕としてはとても珍しい、特撮でもなければ漫画原作の映画でもない一作「桐島、部活やめるってよ」を鑑賞。これも以前の「サニー」同様ツイッターで絶賛されているので観る気になったもの。おそらく以前だったら特に劇場で見ることはない作品だっただろう。

物語

 高校。金曜日、いつもの放課後。映画部の前田と武文、野球部の幽霊部員宏樹とその友人グループ、宏樹の彼女もいる女子グループ、宏樹に思いを寄せる吹奏楽部の部長沢島。それぞれのグループがいつもの放課後を過ごすそんな時とある情報が学校を駆けめぐる。「桐島。部活やめるってよ」
バレー部のキャプテンでエース、宏樹の親友、学年一の美人を彼女に持つ桐島が突然の退部によって学校が動き出す・・・

 僕は以前こちらで書いたことがある通り、日本の高校生の映画は苦手。特にスポーツを題材にしたものと恋愛がメインのもの。日本の高校スポーツって精神論が酷すぎてとてもじゃないけど好きになれなくて(「おれはキャプテン」みたいなタイプの理詰めの高校スポーツ題材の映画化ならみたいかも)、また恋愛物も苦手。スポーツはともかく恋愛に関してはアメリカの高校=学園モノは比較的平気なのに日本のがダメなのはほとんどの高校が制服着用義務があり、おそらくその制服が「まだ一人前ではない子供」を表している(と僕は思っている)のでセックスを伴う恋愛には早い、と思ってしまうのだな。以前も書いてる通り、僕が嫌だな、と思うのはあくまでフィクション上の描写であって現実の高校生が恋愛したりそれに伴いセックスをしたとしてもそれは全然構わない(けど色々気をつけてね)。
 で、どちらかといえば好きな高校舞台の映画は「文化系部活映画」とでも言うべきジャンルで一番は「スウィングガールズ」ということになるのだな。あの映画はほとんど恋愛描写ないしね。

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 で、「桐島、部活やめるってよ」、面白かったです。異なるグループに所属する生徒たちがとある出来事によって翻弄され、最終的に一ヶ所に集まるクライマックスは非常にカタルシスをもたらすものだった。桐島という劇中には名前しか登場しない(桐島じゃないか?と思われる人物は一瞬登場する)人物に翻弄される生徒たち。中でも一番本当の意味で翻弄されたのはそれまで桐島を中心とした枠組みの外側にいた映画部の面々だろう。他の連中は元々桐島と関わりが深いので翻弄されるのはある意味当然だ。

 映画部は顧問の先生が書いた脚本によって映画コンクール一次予選を突破したが、本当は恋愛ドラマなどでは無くゾンビ映画を撮りたいと思っている。しかし顧問の先生は「ゾンビなんて非現実的なものよりも自分の半径一メートル以内の物語を撮れ」という。僕はこの時点で「この顧問、わかってないなー」と思ってしまった。そりゃ、青春を謳歌し恋人もいるようないわゆる「リア充」ならそのほうがリアルかもしれない。でも青春を惨めにひっそりと過ごし、異性との接点なんてほとんどないような映画部の高校生にはむしろその思いをゾンビに託した作品のほうがよほどリアルなのだ。少し話はずれるが昔、僕が「装甲騎兵ボトムズ」というアニメを見ていた時、母に「そんなありもしない話、見てて面白いの?」というような事をよく言われた。母にとっては単純に「月九トレンディドラマ」のような「現在の日本」を扱ったもののほうが「リアル」であったらしい。しかし、一方内戦直後のカンボジアでも「ボトムズ」は放送され、同時期に放送された「東京ラブストーリー」よりも圧倒的にリアルなものとして受け入れられたらしい。そりゃそうだ。当時のカンボジアの人々にとってはトレンディドラマなど非現実的なファンタジー以外の何物でもないだろう。学校の人気グループのリアルと底辺に位置する物のリアルは違う。
 物語は例えば金曜日の出来事を異なる視点から繰り返す。それぞれのキャラクターは自分の視点から動かないが、観客だけは俯瞰して見ることが出来る。このへんは劇中でも名前が出てくるがクエンティン・タランティーノの諸作品に近いし多分意識しているのでは無いかなあ、と思う。いわゆるスクールカーストものとは少し違うが運動部、リア充帰宅部、女子グループ、文化部みたいなものの位置関係がうまく表していてよかったと思う。
 
 前田は映画オタクとしてはジョージ・A・ロメロタランティーノを語り、映画秘宝を読み、フィルムにこだわるなどというのはステロタイプな描写のように思える(休日は名画座で「鉄男」鑑賞)。彼を演じているのは神木隆之介で(元々モデルやスポーツマンタイプというふうではないが)メガネをかけ精一杯オタクを演じているが、神木くんはとてもキュートで*1彼が演じていることでオタクの持っている底意地の悪さ、醜さみたいなものは中和されている。このへんは「スーパー8」とも似たような部分が有るね。むしろ彼の友人である武文のほうが我々のイメージするオタク像とは近いだろう。僕は彼を見て「母なる証明」を思い出した。あの作品では同じ知的障害者でありながら、一方は美青年ウォンビンが演じ、真犯人として出てくる青年は救い用のない風貌で絶望させられたがそれに似たものを感じた。
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 劇中登場する女生徒は皆美人ばかりである。しかし宏樹の彼女沙奈にしても桐島の彼女梨紗にしても美人ではあるがどこか俗っぽい。ただ1人東原かすみを演じる橋本愛だけは役柄と関係なくこの世ならざる美貌と雰囲気を兼ね備えている(髪型もそれに拍車をかけていると思う)。だから彼女が前田に理解を示すのを理解できる一方、男子グループ竜汰と交際している描写に不自然さすら感じてしまう。僕はまだ見ていないが同時期の「アナザー」のようなこの世ならざる映画なら彼女の神秘的な雰囲気と美貌を活かせるかもしれないがちょっと普通の美人女子高生には見えないなあ(ボンクラに理解を示す女神としての描写のみなら完璧)。もちろん、橋本愛が普通のドラマではダメ、ということではなくメイクや演出の方法。とにかく美少女過ぎます。ちなみに僕のイチオシは吹奏楽部沢島さんの大後寿々花

桐島、部活やめるってよ (集英社文庫)

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 ちなみに劇中で帰宅部ボンクラ二人が「あの吹奏楽部の沢島さんが実はヤリマンだったら」みたいな会話をしてるけど、お前ら分かってないなあ、吹奏楽部が実は一番男を知ってるんだよ!元吹奏楽部所属の僕が言うんだから間違いない!「アメリカン・パイ」でも見ろよ!
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 見てから大分経ってて記憶が薄れてる部分もあるので短いけれどこんなところで。「サニー」や「最強のふたり」同様普段あんまり見ないジャンルだけど見てて良かった作品でした。

*1:今度大河ドラマ平清盛」で源義経を演じるみたいですね