The Spirit in the Bottle

旧「小覇王の徒然はてな別館」です。movie,comics & more…!!!

十字傷ハ、マダ有ルカ? るろうに剣心

 僕としては珍しく邦画を立て続けに鑑賞。「桐島、部活やめるってよ」に続いて観たのは安定の漫画原作「るろうに剣心」。僕は元々原作の大ファンということもあって、またこの映画のアクション監督がドニー・イェン映画などで活躍する(「捜査官X」では冒頭の強盗の小柄な方として出演も)谷垣健治氏だということも興味を引いたから。後はやっぱり幕末/明治って気になる時代なんだよね。

物語

 明治11年東京。かつて最強の暗殺者として恐れられた「人斬り抜刀斎」を名乗る何者かが斬殺事件を繰り返していた。犯人に勝手に流派名を使われていた神谷活心流の師範代神谷薫は左頬に十字傷のある流浪人「緋村剣心」と知り合う。最初は犯人かとも思ったが、その穏やかな物腰は犯人とは思えない。
 その頃、阿片の売買で巨財をなした武田観柳は新型阿片を売りさばこうとしていた。開発に携わったものを口封じに殺し、一人逃亡した高荷恵も警察に保護を求めるがそこに凶刃を振るう鵜堂刃衛が現れる。彼こそ「ニセの」人斬り抜刀斎を名乗るものだった。殺される警官を目撃した薫は刃衛に襲われるが到底敵わない。そこに助けに入ったのが先ほどの流浪人。彼こそが本当の人斬り抜刀斎。幕末最強と恐れられた古流剣術飛天御剣流の緋村剣心だったのだ!

 原作は和月伸宏の大ヒット作「るろうに剣心-明治剣客浪漫譚-」。ちょうど僕が高校から大学にかけての頃の連載で僕も熱心に読んでいた。幕末を舞台にした物語ならそう珍しくもないが明治維新から10年、西南戦争直後の頃の東京を舞台にした剣戟アクションというのも少年誌ではなかなかないのではないか。とはいっても堅苦しい時代劇ではなく(もはや明治は時代劇の部類だろう)あくまでアクションメインの活劇。とはいえところどころに明治維新そのものに対する疑問まで提示された名作だといっていい。後は個人的にツボだったのはキャラクターのデザインにアメコミ(主にジム・リーによるX-MEN)が取り入れられていることだった。鵜堂刃衛はガンビット、赤松有人はオメガレッド、鯨波兵庫はアポカリプスといった具合。作者自身はどうやら日本で出版されたのを見ていたらしく、僕と同じレベルで読んでいるアメコミのデザインが作品に反映されていくのは見ていて楽しかった。
 実はこの原作は後半はあまり覚えていない。京都編が終わった後の人誅編に置いてヒロインである神谷薫が殺された、というエピソードがあったのだがそのあとしばらくしてから実は生きていた!という展開になって、当時の僕はあまりにその展開は酷いだろうとそこから読まなくなってしまったのだ*1。生きていたということにするなら少なくとも次の週には分からせておくべきではないかと当時の僕は思ったのだ。なんとなくアメリカで「スパイダーマン」の「クローンサーガ」に腹を立てたファンの気持は同じような感じかな、と思う。というわけで大ファンである一方、少しわだかまりもあるアンビバレンツな思いを抱く作品である。


 映画化は佐藤健という俳優を得て製作が決定したという経緯を持つ。監督はNHK大河ドラマ龍馬伝」で知られる大友啓史。その他青木崇高香川照之が出演者にいることで舞台になっている時代も含めて龍馬伝のリアルな雰囲気が継続している。佐藤健は僕が平成仮面ライダーシリーズを再び見るきっかけになった「仮面ライダー電王」の主人公野上良太郎を演じている。この作品では複数のイマジンが特異点である良太郎に次々と憑依しその都度外見は良太郎でも人格はそれぞれのイマジンに変わってしまう。佐藤健でありながら他の声優が声を当てるという複雑な事態で、僕なんかTVを見ながら「器用な役者だなあ」などと思っていたものだ。今回は電王ほどではないものの、人斬り抜刀斎であるときと流浪人緋村剣心であるときとでセリフや表情を使い分け、その差をうまく表現していた。原作の緋村剣心幕末四大人斬りの一人、河上彦斎をモデルにしているそうだが、こちらは「龍馬伝」の延長で(龍馬伝の)岡田以蔵(やはり四大人斬りの一人)っぽくもある。小柄で優しい顔つきながら、いざとなれば凛々しくあるいは殺気漂う表情に変化する剣心をうまく演じている。アクションも単なる剣技だけでなくスライディングしながら集団を突破したり剣心の小柄で素早いアクションが多い。相楽左之助との対決シーンは橋の上で、襲ってくる左之助を剣心がかわす、ということもあってまるで牛若丸と弁慶の五条大橋の対決を思わせる。
 衣装が原作の赤い着物になるまでにエクスキューズ(薫の父親の着物だが剣心より大柄だったので合うのが若いころのしかなくそれ故に少し派手目)があったのが今風の漫画原作の映画化という感じか。
 「龍馬伝」では後藤象二郎を熱苦しく演じていた青木崇高相楽左之助。原作では赤報隊の生き残りという過去を持つが映画では語られず、いつの間にか(一応簡単な経緯はあるが)仲間になっていた。赤報隊のエピソードは欲しかったな。衣装とかも原作まんまで予想以上に左之助に(似ているではなく)似合っていた。
 やはり「龍馬伝」からの継続参加組は高荷恵役の蒼井優。予告編などを見たときはあんまり似合っている感じがしなかった。イメージとしては女性キャラでは薫と違って妙齢(実際の設定は22歳だがイメージではもっと落ち着いた感じ)の美女。だから演じるなら背の高いモデル系の役者さんのほうが良かっただろう、と思ったのだ。蒼井優の幼いルックスは違うのではないか、と。とはいえ実際に見たらなかなかに妖艶でこれはこれで良かった。
 ヒロインである神谷薫はTVでは見ない日のないくらい人気の武井咲が演じているが映画では「愛と誠」に続いて二作目。微妙な前髪やどう見ても強そうには見えない動きだったりする(原作ではそれなりに強い)が可愛いことには文句はつけようがなく序盤、猫と戯れる一瞬のシーンは素晴らしい。
 後は明神弥彦が登場するがマンガの少年では違和感ないことが実写になると違和感出まくりなんだよなあ、ということが実感させられる。マンガでは子供にどんな大人っぽいことや無理をやらせても違和感なくできるが実写で本当の子供にやらせるとちょっとなあ、という感じ。原作では重要人物だが特に必要ないかもしれない。

 映画は原作の初期のエピソードをうまく合成している。最初の偽抜刀斎が神谷活心流を名乗る話、凶刃黒笠、そして武田観柳の話しである。この内偽抜刀斎は比留間五兵衛、武田観柳の話には四乃森蒼紫と御庭番衆が出てくるがこれを全て鵜堂刃衛にすることでうまく話をつないでいる。
 四乃森蒼紫は人気キャラだが彼を出すと物語が複雑になりすぎるので出さなくて正解だったと思う。彼と御庭番衆を出すならただ出すだけでなくその背後にある物語まで描いて欲しいが二時間の映画でそこまで出すのは難しいだろう。また美形悪役というのはマンガやアニメでは様になるが実写では難しいもの*2。今回は全体的な悪役を武田観柳、アクション上のライバルを鵜堂刃衛に絞ったのは正解だと思う。
 御庭番衆の代わりに人誅編のキャラクター、外印(ゲイン)と戌亥番神が登場する。戌亥番神は左之助の相手役、ボクシングを元にしたような格闘技を使い須藤元気が演じている。ところで須藤元気は役柄的には「仮面ライダーW 運命のガイアメモリ」で演じた泉京水に似ていてあの時のイメージが強烈なのでオネエ口調じゃないと物足りなさを感じてしまう。
 戌亥番神はほとんどドラマを背負っていないが外印*3は多少(原作とは無関係の)ドラマが有り、若干四乃森蒼紫と般若を合わせたような感じ。恵と因縁があるようなないような・・・ただこの外印に関してはもっとただの用心棒扱いにとどめておいたほうが良かった気もする。
 武田観柳は香川照之。名前は新選組武田観柳斎から取られているが、香川照之が演じていることもあって「龍馬伝」の岩崎弥太郎が悪の道に入ったら、という感じに仕上がっている。阿片を元に金を稼ぎそれを武器に投資する死の商人。原作同様最後はガトリングガン*4を行使し、あの辺りのノリノリ具合は楽しそうだ。ただ、その側近の3人が妙にキャラが濃かったりして先ほどの戌亥番神と外印もそうだが妙に脇役が濃すぎて疲れる印象は有る。
 
 そして!やはり一番の見せ場は吉川晃司演じる鵜堂刃衛だろう。このキャラ原作では外見のモデルに「X-MEN」のガンビットが使用されており、特に顔部分はガンビットそのものだ。ガンビットといえば映画「ウルヴァリン」ではテイラー・キッチュが演じていたがこの吉川晃司の鵜堂刃衛も原作の容姿をうまく再現している。もちろんそれだけでなく鵜堂刃衛の狂気や剣技もうまく再現、剣心を幕末の人斬りの顔に戻し壮絶な戦いを繰り広げる。この剣心VS刃衛は原作を見事に映画に置き換えており、クライマックスでありながら一番の見所だろう。二人のどす黒い命のやり取りは僕は見ていて「侍戦隊シンケンジャー」終盤の志葉丈瑠VS腑破十臓を思い出した。思えばこの二人は電王VSスカルという仮面ライダー対決でもあるのだなあ。
 
 映画では原作の京都編に関する序章で登場する斎藤一が最初からずっと出てくる。主要人物の中では唯一の実在の人物で元新選組三番隊組長。斎藤一自身はこの漫画で知った人も多いのではないだろうか。江口洋介が演じていて雰囲気はなかなかなものの肝心の活躍としては今ひとつでせっかくの牙突もイマイチな使い方。先ほどの外印は剣心と戦って敗れるのだが、どうせならこの外印を斎藤が引き受ければよかったのではないか。観柳が剣心にやられた後、「後は任せた」という形で剣心は鵜堂刃衛との戦いに赴くのだが、僕はここで剣心の「不殺(コロサズ)の誓い」とは別の斎藤の理念が見られると思っていた。すなわち「悪・即・斬」。
例えば、斎藤と二人きりになった観柳が斎藤に命乞いし、買収しようとする。ここで原作の名台詞「犬はエサで飼える。人は金で飼える。だが壬生の狼を飼うことは何人にも出来ん」を発して斬り捨てる。結果として後味が悪くなるかもしれないが剣心の「不殺」、鵜堂刃衛の「所詮人斬りは人斬り」、そして斎藤の「悪・即・斬」という同じ剣客でありながら異なる3つの思想の対比が際立つと思うのだが・・・しかし、普通に警察が観柳一味を捕えるだけで終わったのは残念。
 
 僕は旧会津藩出身。白虎隊や二本松少年隊の話を小さい頃から聞いて育った。だからかどうか明治維新や明治政府ひいてはその後の大日本帝国については懐疑的な見方を主としている。もちろん評価部分も多いが大日本帝国は出発点からして血まみれでそれをきちんと精算してこなかった(靖国神社なんてその最もたるものだろう。あそこには旧幕府軍側の死者は祀られていない)。この映画では維新の元勲の一人として山県有朋が出てくるが演じる奥田瑛二ともあいまって「誰かさっさと斬れよ!」とか思ってしまう。 
 
 原作が踏み込んだ明治維新の功罪についてはほとんど触れられていないのは残念(左之助赤報隊、恵の会津戦争などなど)だし、色々と文句も付けたが全体的に面白かった。武田観柳の陰謀が「バットマン・ビギンズ」のラーズ・アル・グールみたいになってるぞ!とか不殺の逆刃刀といえど、あれでは相手は致命的なダメージ背負っちゃうんじゃないか*5、とかツッコミどころも多い。説明ゼリフやドラマシーンのいかにも日本的なカメラワークなど問題点も多い。でも漫画の映画化としては及第点だと思うし特にアクションには希望を感じた。

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*1:これが「魁!!男塾」なら腹も立たないのだが

*2:だから「アベンジャーズ」のロキは素晴らしい

*3:このキャラクターのモデルはあのエド・ゲインですよ!映画ではほぼ無関係だが

*4:時代設定は「ラストサムライ」とほぼ同時期だがあの映画でもガトリングガンが武士の時代の終わりを告げる印象的な使い方がされていた

*5:このへんもバットマンと共通するなあ