The Spirit in the Bottle

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吸血鬼、魔女、幽霊&・・・ ダーク・シャドウ

 僕が映画を観ることを一生の趣味にしようと決めたのは89年にティム・バートンの「バットマン」を見てからなのだが、それ以降はずっと彼の作品を追い続けている。さすがに1990年代前半のルサンチマンを思いっきり映像にぶつけたような痛々しい傑作はもう撮れないだろうけど、それでもヴィジュアル的には未だにバートン印は健在だし、逆にその安定した映像は円熟味を増しているように思える。僕はティム・バートンを愛しすぎているがゆえに、そして基準を90年代前半の作品群(シザーハンズバットマン・リターンズ)に置いているのでどうしても見る目が厳しくなってしまうが一方でどんなに駄作を撮ったとしても完全否定は決して出来ない監督である。
 そんなティム・バートンの最新作「ダーク・シャドウ」を観た。

物語

 18世紀半ば、イギリスのリバプールからアメリカに渡り事業に成功したコリンズ家。御曹司バーナバス・コリンズは召使のアンジェリーンを捨てジョゼットと恋落ちる。裏切られたアンジェリーンは実は魔女で呪いによってジョゼットを飛び降り自殺匂い込み、バーナバスをヴァンパイアにした。アンジェリーンに煽られた村人によってバーナバスは棺に閉じ込められ長い眠りに落ちた。
 1972年、今やすっかり落ちぶれたコリンズ家に家庭教師の職を求めヴィクトリアと名乗る女性がやってくる。現在のコリンズ家は当主のエリザベスと15歳になるその娘キャロリン、エリザベスの弟ロジャーとその息子デヴィッド、そして住み込みの精神科医ホフマン博士。
 工事現場でバーナバスの入った棺が掘り起こされ200年ぶりに目覚める。コリンズ家にやってきたバーナバスはエリザベスを納得させ再び一族に繁栄を取り戻すべく動き始める。しかし現在街を経済的に支配しているのはアンジーと名を変えた魔女アンジェリーンなのだ・・・

 原作は1966〜71年に放送されたTVシリーズ「ダーク・シャドウズ」で、日本で言うところのいわゆる昼メロ(アメリカでも石鹸会社がスポンサーを勤めてることが多いことからソープオペラと呼ばれる)でゴシック・ミステリーとロマンス、メロドラマが融合したようなものであるらしい。僕自身は存在は知っていたし、ティム・バートンがこのドラマを原作とした映画を撮るらしいとはかなり前に聞いていたのだが、実際のものは見たことがない。まあ1200回以上話数があるらしいし数話だけ見て面白い/つまらないを判断するものでもないだろう。イメージとしては「アダムス・ファミリー」なんかが近いのかな。なんとなく通常の吸血鬼映画が正統派「吸血鬼ドラキュラ」だとすればTVシリーズの「ダーク・シャドウズ」は「吸血鬼ヴァーニー」といったところか。余談だがブラム・ストーカーの「吸血鬼ドラキュラ」は非常に読みにくい小説で逆にメアリー・シェリーの「フランケンシュタイン」は非常に読みやすい。ロバート・ルイス・スティーブンソンの「ジキル博士とハイド氏」はその中間といった感じである。
 ところで稀代の映像魔術師のように言われるティム・バートンだが意外に完全オリジナル作品は少なく、特に21世紀に入ってからはほとんどがリメイクや原作付きばかりである。フィルモグラフィー全体を見回しても完全なティム・バートンオリジナルって実は「シザーハンズ」(と製作総指揮の「ナイトメアー・ビフォア・クリスマス」)ぐらいのものではないか。あれにしたって自作短編「フランケンウィニー」のリメイクみたいな趣もあるし*1そもそもそれすら「フランケンシュタイン」の影響の強い作品。実は映画監督として成功したバートン監督。自分でやりたいことが出来るようになればなるほどオリジナルよりも小さい頃好きだった作品を手がけたくなるのかなあ、などと思う。

 で、本作はジョニー・デップとの8回目のコラボ作品ということらしいのですね。まあそれ以前にヘレナ・ボナム・カーターも「猿の惑星」以来ずっと出てるし、原案のジョン・オーガストとも4作目だし、美術のリック・ハインリクスもずっと一緒だし、だいたい、ダニー・エルフマンとはもう何作目だよ!という感じでバートン・ファミリーが相変わらず元気に集結。クリストファー・リー御大も出てるよ!
 映画は予告編から想像するほどコメディ色は強くない。かと言ってシリアス一辺倒というわけでもなく18世紀の古めかしい喋り方をするバーナバスが1970年代のヒッピー文化の中で体験するカルチャーギャップとか(マクドナルドのMはメフィストフェレスのM!)は面白いが大爆笑するという感じではないオフビートな感じ。
 雰囲気的に18世紀が「スリーピー・ホロウ」っぽいのは当たり前として1970年代に舞台が移っても主にゴシックな中世風の城が舞台で終盤街の民衆がしろに押し寄せるところとかは「シザーハンズ」を思い出した。
 後はジャッキー・アール・ヘイリーがいい味出してたよ!アリス・クーパーも出てるよ!本人役だよ!


 実はティム・バートンって女性の描写が上手い。例えば「バットマン」におけるキム・ベイシンガーの見せ方、特徴的な厚い唇、太もも、そういったものを上手く映して映画の中で美人を魅力的に撮ることが出来る。以前、何かのインタビューで自分の女性の好みを「ペイルリー・ルッキング(青白い肌)」な人とか言っていたので彼自身の好みは「バットマン・リターンズ」のキャットウーマンだったり「ビートルジュース」のリディアだったりするのだと思う(究極的には「ナイトメアー・ビフォア・クリスマス」のサリーだろう)。ただ、彼自身が相当な映画マニアでもあるのでどういう美人が映画を彩るかをよく知っているのだな。そのせいか彼自身はいわゆる金髪美女をうまく撮れる。「ダーク・シャドウ」では女性が多く登場するが、一番魅力的に映っているのは肉感的にバーナバスを誘惑するエヴァ・グリーンだろう。その生き生きとした演技は実際にヌードになった「パーフェクト・センス」などよりもエロティックで魅力的だ。
 実際のバートンの私生活でのパートナーであるヘレナ・ボナム・カーターは「アリス・イン・ワンダーランド」のハートの女王がそのまま普通の人間になった感じ。「リターンズ」以来となるミシェル・ファイファーが実は一番普通か。クロエ・グレース・モレッツはまさに成長期という感じで伸びやかな脚で魅了してくれる。今回は実は・・・という展開だが(この辺はもう少し伏線が欲しかった)そうすると彼女も吸血鬼と人狼を両方演じたことになるね。次はミイラだ!
 で、ここ最近のティム・バートンの好みのタイプはベラ・ヒースコート演じるヴィクトリアなのでは無いかと思う。「ビッグ・フィッシュ」のアリソン・ローマンや「アリス・イン・ワンダーランド」のミア・ワシコウスカと同系統の一見地味で清楚な美人。あんまり肉感的ではない。ところで彼女は家庭教師ヴィクトリアとバーナバスの想い人であるジョゼットを演じているがジョゼットの幽霊?がシャンデリアから落ちて消える、というのはてっきり落ちたところ、つまり地下に何かあるよ、と知らせているのだと思ったら全然その後出てこなかったのでびっくりした。
 
 全体としてティム・バートン映画としては及第点だと思う。思うにTVドラマのリメイクって基本クリフハンガー方式でいつまでも続けられきちんと終わらせる、ということをしないTVシリーズと一本約2時間の中できちんと結末を付けなければならない映画の違いが如実に反映される気がする。特に「特攻野郎Aチーム」とか「チャーリーズ・エンジェル」のような一話完結のエピソードなら映画オリジナルで話を作れるが「宇宙家族ロビンソン」「ワイルド・ワイルド・ウェスト」のような多少なりともTVの長期ストーリーを反映させなきゃならないものは厳しい*2。今回どこまで原作となるTVシリーズの物語を反映しているのかわからないがやはりとっ散らかっている部分はある。

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 音楽はいつものようにダニー・エルフマン。今回久しぶりにエルフマンとしてはテーマ曲が耳に残るものだったのだがTVシリーズのテーマをアレンジしてる部分もあるようだ。
DARK SHADOWS

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*1:ティム・バートンの次の作品はストップモーション・アニメーションによる「フランケンウィニー」のリメイクらしいですよ

*2:「ロスト・イン・スペース」及び「ワイルド・ワイルド・ウエスト」の一番の見所は若い頃のジョン・ウィリアムスが手がけたテーマ曲をアレンジしたものに乗せて描かれるオープニングクレジット!