時をかける入浴 テルマエ・ロマエ
古代ギリシア文明とキリスト教文明がヨーロッパ文明の基本二大柱となっているわけだけれど、その二つが一つになった場所、それが古代ローマと言える。ローマの文化は未だに我々を魅了し続けるわけですがそれは単に過去の文化としてだけではなく、現在も法律などに影響を与えている。そんな古代ローマを舞台にした日本の映画、「テルマエ・ロマエ」を観てきた。
物語
ハドリアヌス帝統治下のローマ帝国。浴場設計技師ルシウス。仕事熱心だが時代の変化についていけない彼はある時公衆浴場で溺れ、現代日本の銭湯にタイムスリップ!そこで得た知識でローマに戻ると一躍人気設計士となる。その後も古代ローマと21世紀日本を風呂限定で行き来するルシウス。やがて皇帝も巻き込んでローマの命運が彼の風呂への知識欲に託される!
というわけで原作はヤマザキマリによる人気マンガの「テルマエ・ロマエ」で現在4巻まで発売中。古代ローマと現代日本、ともに風呂文化が盛んだった、というその一点でこれを結びつけたアイデアが見事で生真面目なルシウスのキャラと相まってカルチャーギャップコメディとでもいう感じの作品に仕上がっている。
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一方、現在日本のパート。上戸彩演じるヒロインである山越真実は原作の第4話、ショールームの店員である女性(マリ)を元に漫画家希望ということにして原作者であるヤマザキマリのキャラと原作4巻の小達さつきのキャラも少し混じっている感じか*1。彼女がルシウスのワープする先にかならずいるという形である。後はルシウスが「平たい顔族」と故障する日本のおじいちゃん達がたくさん出てくるのだが、このおじいちゃんたちの過剰な演技は相性もあるだろうが僕はちょっと辛かったかな。日本人のおじいちゃんはどちらかと言うと笠智衆風の乾いた演技が好きです。
原作は連作短編という感じだしまだ完結していないので(原作者の中ではもう終わりは決まっているそうですが)当然映画オリジナルの結末が出てくる。後半は上戸彩やおじいちゃんたちが古代ローマに逆ワープしてくる展開。湯治場を作り上げる、という展開。
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ローマの浴場といえばカラカラ帝(在位209年 - 217年)の巨大浴場が有名だがこの物語の舞台になっているのはそれよりもう少し前いわゆる五賢帝と称されるネルウァ・アントニヌス朝のハドリアヌス帝(在位117年 - 138年)の治世の末期。ルシウスはハドリアヌス帝に仕えていることになっている。五賢帝時代は直系によらず養子縁組で帝位をつないでいて結果として名君が相次いで誕生したためこう呼ばれるが、これはたまたま直系の子供がいなかったからで意図したものでは無いらしい。また五賢帝最後の皇帝マルクス・アウレリウス帝の子供コンモドゥスが暴君(映画「グラディエーター」でお馴染み)だったため特に理想化されている。
映画でも描かれているがハドリアヌス帝は同性愛者でアウンティノウスという少年と熱愛関係にあった。彼がナイル川で溺れた時は彼の彫像を作ってローマ中に設置したり、ワニに食べられたことにして神格化を測ったりもしている。映画ではハドリアヌス帝のその点についての描写をきちんと描いたのは評価できる一方、それゆえにルシウスが皇帝の愛人と勘違いされる、というギャグが抜けいていたのは残念。
あとは原作では女好きで軟弱ではあるものの別段敵ではないケイオニウス(北村一輝)が敵キャラという位置づけになっている。また原作では4巻で登場し取り立てて出番の無いアントニヌス(宍戸開)が重要な役割になっている。原作ではまだ少年の後のマルクス・アウレリウスが登場し、彼の皇帝即位までのつなぎとしてケイオニウスが皇帝の後継者に指定される。ケイオニウスが史実通り死なないとアントニヌスが即位できず歴史が変わってしまう・・・というのがクライマックスになるのですな。映画では少年マルクス・アウレリウスが登場しないのであれだが、アントニヌスも最初から「マルクス・アウレリウス成長までのつなぎ」としてハドリアヌス帝の後継者に指定される。アントニヌスは即位して後元老院に嫌われていたハドリアヌス帝の神格化に尽力しアントニヌス・ピウス(慈悲深いアントニヌス)と呼ばれることになる。
「のだめカンタービレ」のスタッフが手がけているだけあってTVドラマ的ではあり日本映画特有のモッサリ感は少ない。勿論注文はいくらでも付けられるだろうが漫画原作の映画としては及第点だと思う。
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*1:製作が始まった時点では2巻までしか出ておらず、原作者から今後の展開(3、4巻)も聞いた上で作ったそうだ