The Spirit in the Bottle

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タイタンズを忘れない タイタンの逆襲

  日本はユーラシア大陸の東の果てなので様々な文化の流れ着く先でもある。神道始めとする土着の信仰の他に仏教を通してインド神話を、道教などから中国の神話なども摂取している。さすがに西欧文化の神話となると日本への伝来はそれほど古くまでは遡れないがキリスト教とともに西欧文化の根幹を成すギリシア神話は日本でもその他の神話よりは深く周知されている。さすがにギリシア神話は現在では主に文学上、芸術のモチーフとしてであって実際に信仰している人はいないと思うがそれでも影響力は圧倒的だ。というわけで現在でも影響を与え続けるギリシア神話モチーフの映画「タイタンの戦い」に続く第二弾「タイタンの逆襲」を観た。

物語

 神話の時代。人間は神々を崇拝しなくなり神々の力は弱まっていた。それに伴いかつてゼウスたちが冥界タルタロスに封印したタイタン「巨神」たちが解き放たれてしまう。
 かつてクラーケンを倒した半神半人の英雄ペルセウスは愛する妻イオを亡くしたが息子ヘレイオスとともに漁師生活を続けていた。オリンポスの神々の主神ゼウスは自分の息子ペルセウスに共に戦うことを提案するがペルセウスは拒否。しかしゼウスは息子で戦神のアレスと兄である冥界の王ハデスに裏切られ囚われてしまう。
 一方、ペルセウスが暮らす村にも魔物が襲いかかりペルセウスは久々に剣を取る。キメラを退治したペルセウスの前に瀕死のポセイドンが現れ事の次第を告げ息絶える。再びペガサスに乗って旅立ったペルセウスアルゴスの女王アンドロメダペルセウス同様半神半人であるアゲノールとともにクロノス打倒の鍵をにぎる「堕ちた神」ヘパイトスの元へ向かう・・・

 前作の感想はこちら、

ギリシア怪獣総進撃! タイタンの戦い - 小覇王の徒然はてな別館

タイタンの戦い [Blu-ray]

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 前作「タイタンの戦い」は1981年のレイ・ハリーハウゼンの「タイタンの戦い」のリメイク作だったが、オリジナルには続編はないので完全新作ということになる。とは言え元の神話におけるペルセウスの物語は改変されてるとはいえ前作でほぼ消化しているので、テセウスだったりヘラクレスだったり他のギリシア神話の英雄の物語・設定も取り入れている。
 物語の主軸が「ティタノマキア」であることやミノタウロスが出てくること。また「不死ではなくなった神々」などから「インモータルズ」を意識しているような感じもする。「インモータルズ」が芸術的な要素を目指したならこちらはとことん娯楽で攻めてやるぜ!という気合が感じられる。芸術的な評価はともかく個人的には徹底的に怪物たちを見せてくれる「タイタンの逆襲」のほうが「映画」としては圧倒的に優れているように思う*1
 それでは前回の記事同様にキャラクターごとに。

魔物たち

 出し惜しみしないのがこのシリーズのいいところ。意外と神話に忠実に造形されてます。

  • キメラ

 最初に現れて人々を襲った双頭の獣。かなり凶悪に醜くなったライオンと山羊の頭を持つ。尻尾は蛇。炎も吐くがあんまり頭は良くない。尻尾である蛇が牙を向いた時が一番3D効果が効いてたような。現代ではむしろ科学的な用語としてのほうが有名か。様々な動物の複合体であるため遺伝子操作で作られた生物などに「キメラ」の語が使われる。
 

 バッファローマン(ヅラ脱ぎバージョン)。なんの説明もなしに突然出てきてびっくりさせる。元はご存知クレタ島の半牛半人の怪物。ミノス王の娘であるアリアドネの導きによってテセウスに退治された。ここではタルタロスにつながる隠し通路がまるで迷宮のようになっていることからテセウスのラビリントスの物語からの引用だと思われる。「インモータルズ」では牛型兜をかぶったただの巨漢だったがここではきちんと化物。出番はわずかだがペルセウスとタイマン張って退場。
 

  • マカイ

 クロノスの身体から飛び出た突撃兵。背中わせになった対の上半身に下半身を共有する。別名サタンクロスバージョン2。元の神話では不和の女神エリスの子供。エリスは神様の結婚式に招かれなった腹いせに「最も美しい女神」宛に黄金の林檎を贈って間接的に「トロイ戦争」の原因を作った女神。予告編とかでは多面多臂なその外見から「ギリシアというよりインドの化物みたいだなー」とか思っていたが実際はギリシアの兜といえばお馴染みのコリュス式の兜をかぶってるのでそんなにインドっぽくはなかった。
 

  • ペガサス

 前作から引き続き登場のペルセウスの相棒。全身真っ黒なのであんまり善良っぽくない。案の定最初にアルゴスの兵士の前に現れた時は敵魔物と間違えられた。前回同様クライマックスで大活躍。よく見るとこのペガサス鞍も手綱もついていなくてペルセウスはたてがみを掴んで操縦してるのだな。
 

 一つ目巨人。妙に生活に疲れたおっさん臭いルックスの二人と教養の有りそうな老人タイプの3体が登場する。ヘパイトスの住む島の森にベトコン並みの罠を張って外敵から守っている。神話ではガイアとウラノスの子供たちというそれこそクロノスの兄弟であり魔物と分類してしまっていいのか多少悩んだのだが、まあ映画での扱いはこっちかな、という感じ。鍛冶におけるヘパイトスの弟子ということなっている(後述)。 

人間たち

 ゼウスと人間の間に生まれた英雄。前作の後養父の後を継いで漁師として生活。亡きイオとの間にはヘレイオスという息子をもうける。10年前はヒゲ・長髪が流行する世の中でクールカットで通したが、今回はちょっとだけ髪も伸ばした。それでもヒゲは生やさないのがちょっとしたポリシーさ!アルゴスの戦士たちの間では顔は知られているようで最初から英雄扱いされているのが前作とは大きな違い。
 演じるのはご存知サム・ワーシントン。この間観た2006年の「マンイーター」とほぼ髪型が一緒なので年代ずれてると頭では分かっていても繋がって見えてしまう。今回は主にトライデントを主武器に相変わらずの「神の子&主人公パワー」で突き進む!息子は神の子クォーター。
 前作で神話のペルセウスの逸話はほぼ使いきったのでミノタウロス絡みではではテセウス、また「来るべき時には神には殺せぬが半神であるペルセウスになら云々」というのはヘラクレスをモデルにしていると思われる。実際はヘラクレスは(人間側の系譜では)ペルセウスの子孫に当たる。
 

  • アゲノール

 ペルセウス同様半神半人の盗賊。父親はポセイドン。父譲りなのか航海士の異名を持つ。アンドロメダにちょっかい出して投獄されてた。レゲエ風味漂う自由人。それでもいきなりペルセウスに「俺達は従兄弟だ」って自己紹介されても面食らうと思うよね。「ヒ…ヒーローの中にだって わたしみたいなおちこぼれがいるんだ!!」byキン肉スグル。(ヒーローを半神に置き換えよう)
 

 アルゴスの女王。前作ではクラーケンヘの生贄になって喰われかけ、惜しくもヒロインの座はイオに持っていかれたが今回は堂々ヒロイン。10年経って独身のまま女王に即位。襲い来る魔物たちとの戦いの陣頭指揮を執っている。ペルセウスにはずっと想いを寄せていたよう。前作までのひ弱さはどこへやらすっかりたくましくなっている。アルゴスの王女ということになっているが神話ではエチオピアの王女。ヘパイトスにはアフロディーテに似てるとか言われてたが、つまりエロい。
 役者は前作のアレクサ・ダヴァロス(「ミスト」のスーパー店員)からロザムンド・パイクに変更。黒髪から金髪、囚われの姫君から戦友へ、役柄のイメージもガラッと変わっている。ところで前作のヒロイン、イオ役は「007 慰めの報酬」でサブボンドガールを務めたジェマ・アータートンが演じていたが、ロザムンド・パイクも「007 ダイ・アナザー・デイ」でサブボンドガールを務めている。このシリーズのヒロインはボンドガールのメインじゃない方を起用するというルールでもあるのだろうか?
 ちなみに前回僕が「アンドロメダより美人じゃねーか」と思った侍女はカヤ・スコデラリオという人です。ちょー美人。
http://www.imdb.com/name/nm2546012/
 今回も侍女(そこそこ可愛い)出てきますが別人で厄介さんでした。
 

神様

 オリンポスの神様(+その他)たち。前回はわずかながら輝かしいオリンポス十二神が総登場したのに対し、今回は約1/3のみ登場。しかも地味なおっさん系神様ばっかり、衣装も地味になったので神々しさには欠ける。

  • ゼウス

 毎度おなじみ永世浮気名人。今回は力を失いつつ孫の顔(ヘレイオス)をこっそり見に来たりする好々爺の一面も。なんだか謝ってばかりいる印象も。助けられ役という意味ではまさかのヒロイン。神様である前にジェダイでもあるので手から光線出す。
「人間が神様崇拝しないから力落ちたじゃないか」
「だってあんたら崇拝に値しないし」
「・・・」
 前回は光り輝く聖衣をまとっていたが今回はかなり地味に。演じるのは問答無用師匠役者のリーアム・ニーソン。今回は結構出ずっぱり。
 

  • ハデス

 名前を言ってはいけないあの人。第一次ティタノマキアで大活躍したのにもかかわらずクジで一番厄介な冥府に追いやられたため屈折している。前回のことは水に流して一緒に親父を懲らしめようや、というゼウスの申し出を断って父親側につく。この時点ではルックスから見ても「指輪物語」のサルマンそのもの。とはいえ、兄弟愛は完全には捨ててはおらず、最後は弟側についた。シンドラーとアーモン・ゲートの和解!
 演じているのは前回に引き続きレイフ・ファインズ。クライマックスではヤミヤミの実の能力者として頑張った。
 

  • ポセイドン

 海神。兄ハデスと弟ゼウスの間でなかを取り持ちつつ、不詳の息子アゲノールも心配する心遣いも。事の次第をペルセウスに伝えて息絶えた。ポセイドン本人の印象は薄いが有名なその武器三叉槍トライデントが物語を通じてペルセウスの主要武器として活躍する。
 大体、あれだ。ハデス、ポセイドン、ゼウスの3兄弟はハデスが基本愛妻家なのを除くと皆鬼畜。この兄弟は反省点多数だよ。
 

  • アレス

 主神ゼウスと正妻ヘラの間に生まれた不肖の嫡男。軍神ペルセウスのことばっかり気にする親父に反抗してタイタン側についた。最初は叔父を立てていたが最終的に叔父も日和ったので自分がおじいちゃんの愛を独占するぜ!
 何度か書いているがこの人は戦場における狂気や暴力を象徴する神で同じ戦争の神であるアテナと比べて力押しに終始するタイプ。オリジナルのギリシア神話でも全く良い逸話を持たないキャリアの持ち主。ただ美貌だけはギリシア神話一で後述のヘパイトスの嫁さんアフロディーテの浮気相手でもある。この辺を予備知識で知っていると物語に深みが増す?劇中ではペルセウスに「アレスに祈りを捧げるとアレスに居場所感づかれるから祈るなよ!」と念押しされてるにもかかわらずアレスに祈ってしまう人たちが登場するが嫌われ者でもそれなりに信仰はされてたんでしょうか。アンドロメダの侍女もアレスに祈りを捧げる。まあアテナの場合女神のくせに男尊女卑の考えに凝り固まって女性に酷い報復ばっかしてるから女性からしたら美男子で女には優しいアレスのほうがいいのかもしれない。
 ラスト近くはペルセウスと一騎打ちして敗れるが実際の神話でもヘラクレスとタイマン張って負けてるんだよねえ。とはいえローマ神話ではマルスとなって圧倒的な人気を誇りローマ建国の父ロムルス父親とされる。
 

  • ヘパイトス

 鍛冶の神様。劇中では触れられないがギリシア神話オリジナル通りならこの人も一応ゼウスの息子(正確にはヘラの息子)。かつてハデスに協力したため地上に落とされたということになっているが実際には生んだものの醜かったからって理不尽な理由で落とされたんじゃなかったっけ?こちらではサイクロプスたちを弟子にしているが実際は逆。ゼウスの雷霆、ポセイドンのトライデント、ハデスの二又の槍を作ったのも彼とされる。この3つの武器が合体してラストクロノスを倒す必殺武器になる。この武器を作ったのも実際にはサイクロプスだったはず。ヘパイトスの工房には前作にも出てきた金属製フクロウも出てきます(元々はハリーハウゼン版のキャラ)。アフロディーテの夫でアンドロメダにその面影を見出す。アフロディーテはアレスと浮気。
 演じるのは変幻自在な怪優ビル・ナイ。というかですね、エンドクレジット見るまで彼だと気づかなかったですよ。僕のなかではクリストファー・ロイドあたりと並んでパッと見では分からない、でも強力な個性を持つ俳優という感じになりつつある。
 

  • クロノス

 ティターン神族の主神。岩石大首領。完全に人間態ではなくどうしたらあの姿からゼウスたちが誕生するのか不思議と言っちゃあ不思議だ。神話ではあそこまでバケモノでは無いはず。有名なゴヤの絵画「我が子を食らうサトゥルヌス」では引きちぎって食い殺してるが実際は丸呑みじゃないとその後の整合性つかないよね。まあ、あの絵画は丸呑みでは衝撃がうすいのだが*2。その姿はまさに岩石大首領、といった感じなのだが仮面ライダーでああいう描写が出来れば鳥肌モノだなあ。
 
インモータルズ」では決定的に欠けていた見世物としてのモンスターや神々がおもいっきり映像化されているのは嬉しい。「インモータルズ」でも封印されてる時のティターン神族の描写は良かったけど復活してもあのまんまってのは面白くなかった。今回はクロノスの封印状態も絵的に充分素晴らしかった。あえて言えばクロノス以外のティターン神族も見せてくれると良かったなあ。
 物語が壮大な割に実はほぼ身内のゴタゴタなんだよね。クロノスから始まって息子(ゼウス、ハデス、ポセイドン)孫(アレス、ヘパイトス)隠し子(ペルセウス、アゲノール)が争う。アンドロメダだってペルセウスの嫁になってるわけだし。まさに骨肉の争い。でもそこに人間世界そのもの存亡が関わってくるというのが実に神話らしい。
 監督は前回のフランス人監督ルイ・ルテリエから「テキサス・チェーンソー・ビギニング」「世界侵略:ロサンゼルス決戦」のジョナサン・リーベスマンに。乾いた作風が反映されてか前作で神々が着用していた煌々と輝く鎧とかが無くなってかなり色合いは地味に。アルゴスの兵士とマカイとの戦闘シーンなどは現代戦闘的ですらあった。
 とはいえモンスターもたくさん出てくるし、僕は充分楽しめました。今回は3Dで見たんだけど、後付3Dで酷評された(あくまで3Dについてだと思う)前作に比べると最初から3Dとして計算されて撮られているので飛び出る部分はしっかり飛び出ていて効果も抜群だった。 

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 巨人や巨神は大好きさ!(ただし読売巨人軍除く)

*1:まああちらは去年の僕のワースト作品ですから

*2:元になったルーベンスの方でも丸呑みではないんだよね