The Spirit in the Bottle

旧「小覇王の徒然はてな別館」です。movie,comics & more…!!!

エメリッヒよ!貴方は偉かった! バトルシップ

 先日、観た「ジョン・カーター」と日本では同日に公開されたのがやはりテイラー・キッチュ主演の大作「バトルシップ」。そのもうひとつのテイラー・キッチュを観てきた。で、結論から言うと僕的にはこれはダメでした。自分の好き嫌いは必ずしも世間の評価とは一致しないものだが、「ジョン・カーター」は事前にどんなに悪く言われているのを聞いてても好きになれる予感はあったが、「バトルシップ」はTwitterのTLで先に観た人が面白い、と言ってても不安が消えず実際に見たらダメだった映画。

物語

 ハワイで演習してるところに宇宙人の船が落下してきて侵略を開始。宇宙人のシールド内に閉じ込められた各艦が宇宙人と戦います。

 原作は「トランスフォーマー」のハスブロ社のボードゲーム。垂直に立てたボードを挟んで互いに向い合って相手の艦の位置を探るゲーム。日本では「レーダー作戦ゲーム」と言う名で売られているそうだ。僕自身は遊んだことはないが、アメリカでは一般的なゲームらしくTVドラマや映画のなかでは時折出てくる。ゲームは対戦型だから当然宇宙人などは出てこない。この作品では機械文明の発達したエイリアンが攻めてくる。まあ「世界侵略:ロサンゼルス決戦」とかとよく似ている。
 近年における、この手のエイリアンの大々的な侵略SFは1997年のローランド・エメリッヒ監督作「インディペンデンス・デイ(ID4)」が火付け役となったと思うが、あの映画も(例えばティム・バートンの「マーズ・アタック!」などと比べて)「大作で中身の無い映画」などと必要以上に悪く言われてきたように思う。実際物語は合ってないようなものだし登場人物は類型的だが、それでもエメリッヒはドラマ部分が陳腐なら陳腐なりに飽きさせない手腕があったのだなあ、と思い知った。今までバカにしてた部分もあったけど類型的な設定、物語、人物を飽きさせずに演出するのは才能なのだ。そしてエメリッヒはその才能に秀でている!

 「バトルシップももとより物語などには最初から期待していなかったのではあるがそれにしてもきつかった。主役であるアレックスは冒頭のコンビニ強盗(便宜上こう呼ぶ)のシーンで客の共感を遥か彼方に置き去りにする。ヒロインはこんな男に惚れるアホと言う印象を抱かせる。はっきり言ってこの一連のシーン要らない。もし主人公のダメ人間描写が目的だとしても、軍に入ってからの*1サッカーでの自己中ぶり、遅刻、喧嘩などで充分だろう。
 勿論、SFX満載のエイリアンの戦闘シーンはそれなりに見所なのだが、エイリアンのメカはともかくエイリアンそのものは魅力に欠ける。こいつらが目の前に人間がいてもなかなか攻撃しないんだよね。それで人間の反撃にあったりする。これが「スタートレック」シリーズのボーグみたいに専守防衛であることが徹底されてるか、プレデターさんたちみたいに狩人としてのマナーなのかはっきりしなくていらいらする。ここ最近へなちょこ侵略宇宙人見るたびプレデターさんたちの生き様がいかに素晴らしいか噛み締めてますよ。
 全体的にメリハリがなく中だるみ。途中互いにレーダーによる位置測定ができず、浅野忠信のアイデアでブイに対する波の強さで位置を特定しミサイルを放つのは実際のゲームの再現で少し面白かったし、終盤戦艦ミズーリ号で逆襲に出る際AC/DCをバックに退役軍人と現役軍人が一緒になって出航の準備をするシーンは持ち直したんだけどなあ。
 主演のテイラー・キッチュは「ウルヴァリン」「ジョン・カーター」の長髪ヒゲをやめて、今回は短髪(一応軍人だからね)。「スピード」の頃のキアヌを思わせるルックスだが二日酔いのような浮腫んだ感じでキアヌの精悍さには届かないかな(キアヌも私生活時の乱れは結構凄いが)。この人は短髪に合わない気がする。あとリアーム・ニーソンと兄貴役のアレクサンダー・スカルスガルドステラン・スカルスガルドの息子)がでかいのだと思うがその二人と横並びになるシーンが多いので必要以上にキッチュがちびに見えてしまう罠が。
 キッチュに続いて主役級の活躍を見せるのは浅野忠信。合同演習に参加した日本の艦長さんを演じてます。ハリウッド進出2作目でぐっと出番は増加。キッチュのライバル兼相方的な役割で、とあるシーンではキッチュに指揮官の座を譲られたりする役所。ちなみに今回の彼の扱いをみて「マイティ・ソー」の扱いは酷かった、などという人もいますがあれ(ホーガン役)はもとより小さな役であって勝手に日本で公開される時に日本側が彼を前面に押し出した宣伝をしていただけです。ポスター等で彼の顔が入っていたところには本来メインヴィランであったロキが入っていたわけで割りを食ったのはロキ役のトム・ヒドルストンです。
 ヒロインは二人いてキッチュの恋人役のブルックリン・デッカーはモデル並の美人だが劇中では完全に義足の元軍人に食われてました。キッチュにしてもブルックリン・デッカーにしても主役より脇にいる巨漢のほうが頼りになるんだよね。魅力的なのは歌手のリアーナが演じるレイクスでミニマムな感じの姉御という感じで軍人としてのリアリティはミシェル・ロドリゲス姐さんにはかなわないけどこの映画の人類側の描写では一番だったかな。後はマット・デイモンを更に不細工にしたような軍人が必要以上にウザく見ながらさっさと死ねよ!とか思ってしまった。この映画主要人物が一人しか死なない。他の部分では何万人も死んでるって説明があるのに。
 後全体にゲーム「メタルギアソリッド」シリーズの影響、特に「MGS2」「MGS4」の影響を強く受けているように思う。エイリアンの手足がないカエルみたいなメカはメタルギアレイを彷彿させるし、ラストにミズーリが出てくるところも一緒だ。ところでエイリアンのメカ自体はとても格好良かったのだがなんであのメカびょーんびょーんって小刻みに移動するんですかね。空飛ばないの?
 以上全体的に否定的に書いたが、これらを笑ってツッコミながら楽しんだという人も多いだろう。この辺は相性の問題になってしまうが僕はダメだったと言うこと。監督のピーター・バーグは前作「ハンコック」も僕好みの題材でありながら全然乗れずダメだった。多分この監督の次回作があってももう観ないだろう(と言いつつ題材によってはまた騙されるんだろうなあ)。はっきり言ってビッグバジェットムービーの作り手としてはこの人はエメリッヒやマイケル・ベイの足元にも及ばないと思いますよ。
 テイラー・キッチュ自体は「ジョン・カーター」の大勝利があるので一勝一敗。今回は役柄が頭悪すぎてダメだったが次回作には期待します。

*1:そもそもなんでこいつ少尉にまでなれたんだ?