The Spirit in the Bottle

旧「小覇王の徒然はてな別館」です。movie,comics & more…!!!

傑作四月バカ映画 トロール・ハンター

 例によってさぼりぐせがついて4月1日に見た3本の映画のうち最後の一品「トロール・ハンター」が後回しになりました!しかし、これこそ4月1日エイプリルフール、通称四月バカの日に見る映画としてはふさわしいものといえるでしょう。騙される事の心地よさ、みたいなものがあるとしたらそれはこれです。

物語

 2008年10月13日ノルウェー、匿名の283分のテープがフィルムカメラーテネ社に届く。これはそのテープに手を加えることなく100分前後に編集したものである。
 ヴォルタ大学の学生、トマス、ヨハンナ、カッレの三人は課題制作で熊の密漁事件を追っていた。目星をつけたのはいかにも怪しいハンスという男。彼にインタビューを試みるが彼の態度はつれない。彼を追って森の中に入っていく3人。するとハンスが突然かけ出してきて叫んだ。「トロールだーッ!!

 というわけでいわゆるPOV(ポイント・オブ・ヴュー)というやつである。僕的には「食人族タイプ」の映画と言った方が親しみが持てる。これもここ最近縁がある北欧の伝説に則った映画で今回はRPGやファンタジー映画でお馴染みのトロールが登場する。映画でのトロールというと「ハリー・ポッターと賢者の石」で鼻鉛筆されたトイレに出没した奴(うろ覚え)や「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズの日野日出志デザインかのようなトロールが出てきていた。またパンフレットにも載っていたが僕は童話「三びきのやぎのがらがらどん」を思い出す。
 まあ、POVのノルウェー映画ということで低予算なのだろうし、劇場まで行って観る価値あるのかな?という思いも多少はあったのだが、やはりそれでも惹きつけられるものがあって、まずはポスターにも使われたビジュアル。

 このあまりに絵画的で美しいシーンが実際にはどうなるのだろう、と思ったこと。シーンを静止画で切り抜けば魅力的なものなどたくさんあるがいざ動いているところを見ると「なんだ、大したこと無いな」という映画もたくさんある。ましてやPOVって低予算の典型だし、いかに(モンスターの類を)見せないか、という部分に重点を置いている作品も多い。この映画ではヴィジュアルでここまで見せちゃった以上どう動くのかということに興味がそそられたわけだ。
 物語は冒頭のナレーションや学生の数が3人ということなどから「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」プロジェクトを強く意識してると思う。まああの作品は色々とその後の映画に影響を与えてるし、実にやりやすい手段だからパロディ含め模倣作品も多い。実際この映画でもおおまかなストーリーは役者に教えているけど実際のやり取りはほぼアドリブだそうだ。ただ、「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」がある種本気で客を騙そうとしていたのに対して、本作はウソに自覚的だ。「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」の時、友人が嘘だと知って「騙された!」と本気で怒っていたものだが、これを観て「騙された!」と怒る人はいないだろう。

 物語は最初の最初(余談だが聞き慣れない言語の映画は慣れるまで眠くなってしまうね)こそ、実際にあったことなのかな?と思わせるがハンスが「トロールだーッ!」の一言で駆け出してからは、もうネタの連続。怖いというよりユーモラスな展開で要所要所でつい声に出して笑いそうになってしまうシーンが多々有った。
 登場人物は学生3人が結構うざくて、トロール・ハンターであるハンスが素性を露わにしてからは、ハンスが頼もしい(ちょっとロン・パールマンぽい感じ。役者はノルウェーの人気コメディアンらしい)一方、トマスがうろちょろしてるのがうざったく、トマス早く死ねよ、とか思ってしまう。ノルウェーらしく皆金髪白人ではあるのだが総じて地味で後半に登場する女性カメラマン(アラブ系?)のほうが美人だったな。
 TST(トロール保安機関)という組織が出てきてトロールの存在をひた隠しにしようとしたりするのだが、これがお粗末でよく今まで隠蔽できたものだな、と思う。ハンスは国内唯一のトロール・ハンターで何十年も密かにトロールを狩り続けてきたのだが嫌気がさして学生たちの取材に応じる。彼によれば見る人が見ればノルウェー国内での事故(橋の倒壊や不自然な木々の倒れ方)などはトロールのしわざだそうだ。トロールを倒した後は一匹一匹詳細な報告書を書かなければならないとか、細部もしっかり設定されてる。が、そういう細部がしっかり描写されればされるほど不思議な可笑しみが湧き出てくる作品でもある。
 

トロール

 で、真の主人公はトロールたちだろう。ここでのトロールはあくまで自然の生き物たちで知性はほぼ無く、紫外線を浴びて石化するのにも一応もっともらしい科学的説明が付けられる。その割にキリスト教徒の匂いに敏感、とかよく分からない。「キリスト教徒はダメでムスリムは多分大丈夫」ってどんな基準だよそれ?ところでノルウェーって普通にキリスト教国だと思っていたけれど学生3人のうち一人しかクリスチャンがいないってのは現実を反映してるのだろうか。ノルウェーといえばブラックメタル!という印象もあるけど、それだってキリスト教徒が多いことへの反動であるだろうし。現在では若い人中心にそうでもない人が増えているのかな。大したことでは無いけど意外に思った部分。閑話休題
 学生のうちの一人主にカメラを担当する(故になかなか顔が出ない)カッレが実はキリスト教徒なんだけど彼はキリスト教徒だから、というよりむやみにトロールを恐れすぎて勝手に自滅した感じだったな。なんでキリスト教徒を積極的に襲うのかは説明されない。
 トロールは種類も様々で最初に登場するのが顔が3つあって、森の木々と同じくらいの大きさのトッサーラッド。こいつを皮切りにユーモラスなトロールが次々登場する。トロールは成長すると顔が増えるが目など器官があるのは最初の顔だけで後は飾り、角みたいなものらしい。トロールは種類(大きく山トロールと森トロールに大別される)によって大きさも容貌も違うがどれもユーモラスで映画「かいじゅうたちのいるところ」に出てくるかいじゅう達を少しリアルにしたような感じ。どれも鼻が大きいのが特徴か。

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 で、冒頭の話題に戻る。ポスターにもなっている巨大トロール、ヨットナールだ。こいつは本当に巨大でまあ普通に怪獣である。そしてこれが動く動く。おそらくCGなのだと思うが毛むくじゃらでシルエットは人間なので動きが着ぐるみっぽい、あるいは時折ストップモーションアニメみたいなぎこちない動きも折曲ぜつつよく動く。それを遠くから俯瞰で収めたり車で接近して足元をすり抜けるさまを映したりとサービス満点。余談だがカッレ退場して途中参加の女性カメラマンになってからカメラのブレが少なくなって安定した絵になったのは学生であるカッレとプロのカメラマンの腕の差みたいな感じが出てて良かった。とにかくクライマックスに超巨大な怪獣を持ってくる、というサービス満点な描写にもう満足してしまった。先にも述べたがPOV映画なんてできるだけ見せないことに全力を注いでいるのが多いなか出し惜しみせずドンドン見せてくれるんだから最高ですよ。
 ハンスの手作りアイアンマンマーク1な格好やデッドレコニングなクルマの描写もよかったね。

 観る前ははっきりってここまで楽しめるとは思ってなかった。でも予想以上にしっかりした作品。エンドクレジットに軽快なロック(ちょっとメタルっぽい)のがかかった時点で誰もが上手く騙されたことに満足するだろう。ホラーだと思わずに怪獣映画として見たほうがいいかもしれない。普通に怪獣映画でもあるし(しかも出来のいい)。
 最後は少し驚きがあってノルウェー首相が記者会見で「トロール」に言及する部分があるがアレは実際の映像だそうだ。勿論、ここでのトロールは化物のことではなくて「トロール油田」という油田をさしている。最後までネタと知りつつ現実との境界線が曖昧だが、ここまで笑って許せるウソも珍しい。個人的には「モンスターズ」より全然面白かったなあ。