一山いくらの神々の戯れ インモータルズ -神々の戦い-
ギリシア神話がモチーフとなっている映画「インモータルズ -神々の戦い-」を観た。これ、宣伝文句が「『300』のスタッフがおくる!」、ということなんだけど、そう謳うからには残酷描写も厭わない肉体言語の世界が見れるのだろうと期待した。「300」のザック・スナイダー監督の「ガフールの伝説」の時は宣伝ではザックの名を出さずファミリー向けを狙っていた。それとは逆に「女子供は来るな!」*1という宣伝なわけですな(別にPG指定とかではなかったような)。案の定、客は男ばかりでした。
そして、出てきた映画は確かに首が吹っ飛び、血しぶきが上がる作品だったがどこかいびつな仕上がりであった。
物語
かつて神々は不死身だったがオリンポスの神々とタイタンの神々の間に戦争が起き神も不死身ではないことが判明した。ゼウス率いるオリンポス神族が勝利を収めタイタンはタルタロス山に封印された。
それから数百年イラクリオンの王ハイペリオン率いる軍が世界を席巻する。彼の目的は神々の作った最強の武器エピロスの弓を手に入れそれによってタイタンの封印をとくこと。それを予言したのはオラクル。
とある村ではテセウスという勇敢な青年が老人に姿を変えたゼウスによって剣の達人となっていた。彼はハイペリオンに母を殺され、奴隷として連行されるがそこでオラクルと出会い、ハイペリオンを倒すため旅に出る・・・
というわけで原題は「不死身の者たち」というタイトルだがむしろ「不死身ではない者たち」の物語である。ギリシア神話にネーミングなどは拠っているのだが、もしギリシア神話を知らず、これからこの作品を見に行こうと思ったら下手にギリシア神話を読んで予習しない方がいいです。全然別物です。名前借りてるだけです。
今回は字幕2Dで観たのだが独特な絵作りで目が疲れるので字幕よりも吹き替えに向いている映画だろう。また字幕がいちいち登場人物を説明してくれる親切設計なのだが、そうでもしないと登場人物(特に神々)の区別がつかないのだな。
全体的に金色のカラーリングで絵画的というか個人的にはクリムトの一連の絵を思わせるつくりで、おそらく「300」同様ほとんどのシーンをロケや大規模なセットなどではなくグリーンバックで撮影したのだろうな、と思う。ただ独特すぎてアクションのテンポは「300」の方が良かった。まあ「300」だって必ずしもテンポが良い作品ではなかったのでその辺は押して知るべし。
人間たち
主人公はテセウス。おそらく人間(半神だが)の英雄としてはヘラクレス、ペルセウスと並んで知られているほうだと思う。クレタ島の半牛半人ミノタウロスを倒したことで有名。個人的には世話になったアリアドネを捨てた(帰還途中でとある島に置き去りにした)酷い男として認識されているのだが彼が主人公である。役者は肉体的には素晴らしいが個性に乏しく次の映画に出ていても気づかないだろう。
本当の意味で主人公といえるのはミッキー・ローク演じるハイペリオンで完全にほかの若手俳優を食っている。彼に対抗できる個性を発揮していたのはスティーブン・ドーフぐらいなもので実質彼の演技が見所といっていいだろう。兜が妙にかわいいのだが。
そしてヒロインであり、テセウスを導く巫女であるオラクルのパイドラを演じているのが「猿の惑星 創世記」でもその美しさを見せてくれたフリーダ・ピント。ただ自然の陽光で映し出される顔の方がCGで陰影加工されているものよりずっと綺麗。テセウスとのラブシーンで後姿の全裸を見せてくれる。あれはボディダブルという説もあるようだがそんなものオレは信じない!
そのほかテセウスを助けるスタブロスにスティーブン・ドーフ、最初の登場の時は顔が汚れていたので気づかなかったけど(出演していたの知らなかった)一度認識すればテセウスより格好いいです。
たとえばトロイア戦争を舞台にしたブラッド・ピット主演の映画「トロイ」は神話にもかかわらず神々の存在を無視しあくまで史実(ぽいもの)として描いている。あの映画の場合それが徹底されていたのでまあいいのだが(本当は良くなくてトロイア戦争はその発端から神々が深く関わっている)、現実に神々が存在する前提の「インモータルズ」であのミノタウロスの描写はないんじゃないの?と深く文句を言っておきたい。
今回のミノタウロスはハイペリオンの部下の巨漢で牛の頭部を模した兜(それも有刺鉄線で編んだようなもの)を被っているだけという設定なのだ。つまんないよ!なんでクリーチャーを出さないの?神様がいる世界なんだから怪物の一匹や二匹出してよ!もちろん名前を借りているだけなのでラビリントスなど一切なし。そしてそんなつまらない設定の極みが神々である。
神々
テセウスに剣を教えていた老人(ジョン・ハート)の正体が神々の主神ゼウス(ルーク・エヴァンス)なのだが、一般に我々がゼウスと聞いてイメージする姿とは大分違う。ゼウスといえば白い髭と髪を蓄えた中年〜初老ぐらいの姿を思い浮かべる人が多いと思うがこの映画では月桂樹風の冠に黄金のマントの若い青年風でありどちらかというとこの姿を見てイメージするのはアポロンのほうである。
そしてもう一人重要な神は戦争の女神アテナで「トランスフォーマー・リベンジ」「デイブレイカー」のイザベラ・ルーカス。この人もなかなか普通の人間演じてないね(僕が観た映画がたまたまというだけだと思うが)。アテナも初登場のシーンは裸。その後オリンポスにいる時のシーンでも我々のよく知るパルテノン神殿のアテネ像の衣装とは全然別物。さらに最後は別の衣装に着替えてしまう。とはいえ女神は彼女しか登場しないのでまだ区別がつく。そのほかポセイドン(津波を起こす!)が少しばかり活躍。彼もトライデント(三叉矛)を持ってなければそうとは分からない。そして登場だけはするのがアポロンにヘラクレス。ヘラクレスがすでに神様になってるということは「タイタンの戦い」に出てきたペルセウスよりははるかに後の時代(ヘラクレスはペルセウスの子孫でもある)なんだがテセウスって神話でいつぐらいのひとだっけ?
そしてひときわ悲惨な目にあうのがアレスだ。この戦いの神はアテナと一緒にテセウスに加勢したらなぜか怒ったゼウスにアレス一人だけ消されてしまうのだ!アレスはゼウスと正妻ヘラの子供でいわば嫡出子。戦争における破壊や狂気をあらわす神様で同じ戦争の神でも戦術や知略をつかさどるアテナとは仲は悪い(トロイア戦争でもアテナはギリシア連合軍、アレスはトロイア側についた)。はっきり言って当時から現在に至るまで嫌われ者なのだけれど(そして別に僕も好きな神様というわけではないけれど)、この映画の彼の扱いは理不尽!アテナにそそのかされたんじゃないかと邪推したくなる。
彼らは派手な格好の美男子ばかりなのに個性がゼロで神話で伝えられる基本的な意匠を無視されているので誰が誰だか分からない。そりゃ人物紹介のテロップが必要だよなあ。だって神様だけど一山いくらだもん。
一山いくらなのはタイタン神族も一緒でこれまた個性がなくただの凶暴で頑丈な人に過ぎない。封印されてる時のギョロギョロした目で整列してる時はまだ格好いい。しかし封印が解けたところとか「魔法戦隊マジレンジャー」の冥府十神登場シーンを見習ってもらいたい。その後の人間の戦いは無視しての神々の戦いも全然神様らしさがない。ゼウスなら雷ぐらい発生させろや!
せっかく神々という格好の題材を手にしているのに全然人間を超越してる感じがしないのだ。これなら史実を題材にした物語である「300」の方がよほど凄かったしギリシア神話題材ならクリーチャー盛りだくさんの「タイタンの戦い」の方が面白かった。あっちの方がよほど神話に忠実だしね。これに比べればまだ「マイティー・ソー」の方が神話映画としてはマシだと思う。
一応褒めておく部分はフリーダ・ピントの出演シーン全部とテセウスがギリシア軍を演説で鼓舞するシーンは格好いい。後物語的にはほとんど意味のなかった股間つぶされた裏切り者とかはキャラ的には面白かった。残酷描写はふんだんにあったが絵画的過ぎて痛さとは別次元かな。
でもね、全体的にはダメでした。今年観た映画では三大がっかり映画(期待に反してという意味で)。残り二つは「グリーン・ホーネット」と「カウボーイ&エイリアン」。あ、監督はターセム・シン。インド出身です。
後は僕は石岡瑛子はダメ!受け付けない!ということが今までも薄々分かってはいたけど今回ではっきりしたです。
パンフレット見たらこの手の映画にありがちな元ネタ・神話の解説が一切載ってない・・・知られたらギリシア神話とは名ばかりとばれるから?
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今回は2Dで観たのでもしかしたら3Dで観れば多少評価が変わったかもしれません。画作りは構図含めてかなり独特だったので。
*1:ええ、もちろん比喩であってそういうのが大好きなお子様、女性は大歓迎ですよ