27年目のグリコ・森永事件 NHK未解決事件
いわゆる刑事事件の中で世界史上でもっとも有名な未解決事件はおそらく「切り裂きジャック事件」だと思うが、日本でも当然未解決事件というのがある*1。戦後すぐの陰謀論渦巻く鉄道関係の事件(下山事件とか松川事件など)もそうだが日本で一番有名なのはおそらく以前取り上げた「三億円事件」と今回の「グリコ・森永事件」だろう。NHKで放送された「未解決事件」を見た。
三億円事件は時効を迎えた時点で僕はまだ生まれていなかったので事件そのものが過去のものだが、グリコ・森永事件は違う。当時は小学校低学年ぐらいだがお菓子の心配こそしなかったものの(事件の中心である関西から遠く離れた東北であったことと親が元々あまりそういう駄菓子を買ってくれなかった)、「かい人21面相」の手紙に一喜一憂したのは覚えている。ただ、僕の認識だと「グリコ・森永事件」というのはいわゆる青酸ソーダ混入事件のことであってその前に江崎グリコ社長誘拐事件やカップル襲撃事件があったことを認識するのはもう少し後のことだ。
NHKの「未解決事件」はドラマ(勿論ノンフィクション)とドキュメンタリーの混合で展開される。ドラマ部分は読売新聞の大阪府警詰め記者加藤譲氏を主人公に主に読売新聞と毎日新聞の記者の目線で展開される。いわゆる警察や探偵物と違ってマスコミが主役の場合、単に事件解決だけを望むのと違って、「他のとこより先に、大きいスクープを挙げたい」という欲望も優先される。劇中でも毎日新聞が「犯人を捕まえた」というスクープが誤報(保護されたのは犯人グループに脅されたカップルの男性)だと知って読売記者が「助かった」と言うシーンがあったりする。
犯人の挑戦状がなぜか毎日と産経新聞にしか届かず、読売新聞の記者室(この時読売新聞は別の事件で報道協定を破ったため警察内のボックスから追い出されていた)で、
「何でうちには来えへんねん!」
「そんなん、知りませんわ!」
というシーンがあったりして、徐々に事件は「犯人VS警察VSマスコミ」という構図になっていく。
実際はグリコと森永の間に丸大食品もターゲットにされてたそうだが、子供心にもなんとなく犯人の真の標的はグリコなんだろうなあ、という雰囲気は当時から察していたように思う。その犯人、通称「かい人21面相」はあの独特な挑戦状で有名だ。方言というのは関西弁に限らず、実際に喋るときと違って文章にすると読みづらいものだ。だからどの方言に限らず地の文で方言を多用される物は好きではない。最近だと「ゾンビ映画大マガジン」の紅音ほたる氏の「ブレインデッド」評含めた文章がとても読みづらく内容以前に拒否反応を起こすものだった。この手の物で一番不快なのは不肖・宮嶋の文で内容と書き方があいまって醜悪そのもの文章だろう。
役者も豪華で普通にドラマとして見ても遜色ない出来。特に主要3人、読売記者加藤(上川隆也)、毎日記者吉山(池内博之)、大阪府警の特殊班係長辻(眞島秀和)は鬼気迫る勢い。ドラマの主要舞台が大阪なので当然台詞のほとんどは関西弁なのだが会話の中での関西弁は全然問題なし。
このドラマととても雰囲気が似ているのはやはり未解決事件を記者の目線から映像化した「ゾディアック」だ。あの事件も犯人から犯行声明の暗号文が届いた。勿論これも元祖は「切り裂きジャック事件」に辿り着くのだろう。あの頃はマスコミの倫理観など露ほどもなかったが、ドラマの新聞各社もむやみに報道することは逆に犯人を利することにならないかと悩んだりする様が描かれる。
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恐ろしいのはこの犯人グループはまだ、健在である可能性も高いことだ。例えば切り裂きジャックは単独犯だろうし、(一番つまらない答えだが)多分市井のサイコで犯人は自殺したか、自身も何らかの事故に巻き込まれて殺された可能性が高いと思う。だが、この事件は複数犯グループ(有名な「キツネ目の男」は犯人グループの一人に過ぎない)でしかもおそらく金銭目当てではないことが分かっている。わずか27年前の出来事であり、まだ生きている可能性は高いだろう。当然主犯ではなく本人も分からないまま利用されただけだと思うがテープの声を吹き込んだ低学年の少年などはおそらく僕と同年代だ。
あと少し疑問なのはこの事件当然TVメディア、それもNHKだって当時から取材していたはずなのに完全に新聞メディアの視点だけになってるんだよね。でもとても見ごたえある番組でした。おそらく近く再放送あると思うので見逃した方は是非。
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多分シリーズが続くと「三億円事件」はまず、間違いなく取り上げられると思う。渡辺潤の「モンタージュ」は現代を舞台にしているので何気に三億円事件とグリコ・森永事件が関連ある!という展開になれば面白いのになあ。
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*1:2010年に時効が亡くなったので便宜上、捜査を止める、という意味での未解決事件は今後登場しないことになる