The Spirit in the Bottle

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蛮勇(バカ)が地球にやってきた! マイティ・ソー


 北欧神話というものを初めて知ったのは小学生の時でファミコンRPG「デジタルデビル物語 女神転生」というゲームでのことだった。そこの中ボスとしてロキが出てきたのだ。そこを出発点として北欧神話を知っていった(ちなみにエジプト神話のセトを知ったのもこのゲームがきっかけ)。北欧神話はその苛烈な物語で知られている。巨人と神々のいつ果てるともない戦い。他の神話に比べて陰鬱な主神オーディン。戦闘狂だが豪放磊落な雷神トール、誰からも愛される光明神バルドル、そしてトリックスター・ロキ。何より最後は巨人との戦闘の末に滅んでしまう「神々の黄昏」という世界観。お馴染みのギリシャ神話や日本神話とはまた違った魅力に溢れていた。
 で、そんな北欧神話の神様、雷神トールをモチーフにしたスーパーヒーローが今回映画化された「マイティ・ソー」である。

物語

 アイアンマンことトニー・スタークがパラジウムに変わる新たな元素を開発しようと躍起になってた頃、遠くニューメキシコ州の砂漠では天文物理学者のジェーン・フォスター一行が周辺で起きた怪奇現象を調べていた。奇怪なオーロラが発生し、その場に行くとジェーンは謎の男を発見する・・・
 地球(ミドガルド)から遠く離れた神々の世界「アスガルド」。かつては地球を氷の巨人から守ったが今は地球では伝説として語られるのみ。主神オーディンの息子ソーは今や新たな王にならんとしていたがその時、氷の巨人数人が宝物庫を襲撃した。被害は無かったが腹を立てたソーは仲間とともに勝手に巨人の住むヨートゥンヘイムを襲撃、再び巨人と神々の間に戦火が開かれた。息子の軽率で傲慢な行動に激怒したオーディンはソーから神としての力を奪い遥かなミドガルド・地球へ追放する。その武器であるムジョルニアに力を封印して。
 ジェーンたちに地上のことを教えてもらうソー。ソーの追放からまもなく、後を追うように落下したムジョルニアは政府の特務機関シールドに管理されていた。誰も持ち上げることが出来ないためその周りを囲うように施設が建てられて。ソーは自分の神としての力を取り戻すべくシールドの施設へ向かう。そして全ての裏にはソーの弟であるロキの陰謀があった・・・

「マーベル・シネマティック・ユニバース」において先行する「インクレディブル・ハルク」も「アイアンマン」もそれぞれバイオ方面、機械工学方面と方向は違っていても科学を基盤としていた点では共通していたが今回は思いっきりファンタジーである。それも「指輪物語」などにも影響を与えた北欧神話。勿論北欧神話はモチーフであって厳密には設定などでことなる部分もある。それはマーベル世界においては「実際の伝承が誤って伝わった」ということなのだろう。
 北欧神話がモチーフなのだけれど、この物語の設定だけ見ると むしろ別の神話に似ている。日本神話のスサノオに。建速須佐之男命ことスサノオ三貴子のひとりでありながら死んだ母親に会いたい*1と駄々をこね、姉(アマテラス)の住む高天原(現実にあるとかではなくそれこそ北欧神話のヴァルハラみたいなところと思えばよい)で乱暴狼藉を働いた挙句、力を奪われ地上に落とされる。そこからは一変、ヤマタノオロチを退治する英雄となる。元々荒れ狂う海の神でもあるしどこか今回のソーと共通している。ちなみにマーベル・ユニバースにはアスガルドの神々とは別にヘリオポリスの神々(エジプト神話)、オリンポスの神々(ギリシア神話)もいるのでもしかしたら高天原の神々がいてもおかしくは無い。ちなみにハーキュリーズヘラクレス)はソーの親友。
 北欧神話はよほど魅力的なのかDCでもオリオンやダークサイド、ハイファーザーが出てくる「ニュー・ゴッズ」はやはり北欧神話をモデルにしてるように思う。もしかしたら両方の作画を担当したジャック・カービーの趣味かもしれないが。
 で、本作の監督はケネス・ブラナー。これを聞いた時は納得だった。彼は演技者としても監督としてもシェイクスピア劇の第一人者として知られている。その上で「フランケンシュタイン」とかも監督してるのでこれほどふさわしい人物はいないのでは?と思っていた。特にアスガルドのシーンは「ニーベルンゲンの指輪」のようなオペラなイメージがあったので。実際はそういったビジュアル面だけでなく演出面でも功を奏したようだ。
 それでは例によってキャラごとの詳細。

ソー

 雷神。オーディンの息子で次期国王。筋骨隆々の大男で金髪ロン毛のまさにヴァイキングといった容貌。三度の飯より暴れることが大好きで考えるより先に手が出るタイプ。その傲慢を父たるオーディンに咎められ神としての力を奪われ(それでも屈強なプロレスラー並には強い)地上に追放された。最初のうちはそのギャップが見所で地上に落ちても自信満々だったのだが、いざ、ムジョルニアに辿り着いてもそれを手にすることが出来なかった。
 原作ではもう少し複雑でソーはドナルド・ブレイクという脚の悪い医者に転生する。彼は昔から北欧神話に惹かれていたがあるとき絶体絶命のピンチに杖を投げ捨てソーに変身する。映画ではこの設定を見事に捨てソーのキャラクターをそのまま使っている。短い映画ではこれで成功だったと思う。ドナルド・ブレイクの名前はヒロインジェーンの元彼として、またシールドに対するソーの偽名として使われている。名前といえば劇中で本名「ソー・オーディンソン」と名乗るがこの「オーディンソン」は姓というより「オーディンの息子ソー」というような感じだろう。後述のコールソンに対して「コールの息子か」という台詞があったりする。
 モデルになっているのは日本ではトールの名の方がお馴染みであろう雷神。主神のオーディンが貴族・支配層の信仰を集めていたのに対して庶民に絶大な人気を誇った。ロキとは親友であった。
 使用武器はムジョルニア(ミョルニルの英語読み)という槌。アダマンチウム並みの硬度を誇り、投げても相手に当たった後持ち主の下に戻ってくる便利な武器。高潔な神にふさわしい人物にしか持ち上げられず、劇中でも様々な人物が(スタン・リーも!)挑戦するがダメだった。ロキも挑戦。ソーもこれを手元に戻せばすぐに元の力を取り戻せると地上に落とされても最初は傲慢なままだったが手にしても持ち上がられないと分かり謙虚さや弱者への慈しみを学んでいく。
 演じるクリス・ヘムズワースはオーストラリア出身。「スター・トレック」のカーク船長の父親役で出ていたがアメリカでは実質的にこの作品が最初の大作での大役だろう。いかにもオーストラリア出身の役者らしいワイルドで(これもステロタイプな見方ではあるが)とにかく底抜けに明るく豪快なソーを演じている。
  

オーディン

 ソーの父親で慈悲深く智慧に満ちたアスガルドの国王。そのパワーは絶大だが使いすぎると冬眠するようだ。ソーを後継にして王位を譲ろうとするがソーの短気に腹を立て追放した。その後眠りに付きロキの専横を許した。
 実際のオーディンはある意味トール以上の戦闘狂。地上で蛮勇を奮った戦士たちをコレクションしたりしている。どちらかといえば陰鬱な陰謀を好む神様といえそうだ。またその知識に対する欲はとてつもなく、最高神(つまり自分)に対して自分をいけにえにしてルーン文字(そういやこの映画の中では英語を喋るのは良いとして普通にアメリカの度量衡が通じていたな)の秘密を得たり、また映画の中では巨人との戦いで片目を失ったかのような描写があるが、これも神話では片目と引き換えに知識を得ていたりする。
 演じるのはアンソニー・ホプキンス。威厳と優しさを備えた神々の王を見事に演じきった。実際撮影現場では若手俳優にとっての主神、という感じだったのではないだろうか。
 

ロキ

 オーディンの息子でソーの弟。豪快なソーに比べて知恵と話術で乗り切るタイプ。「いたずら好き」とは言及されるが享楽的な他の神などよりよほど考えている。その出生には秘密があって本来は氷の巨人の首領ラウフェイの子である。オーディンに拾われ実子として育てられた。その出自故ソーにコンプレックスを抱き父の愛情に飢えている。ドラマという面では彼こそが見せ場である。一応、今回のヴィランではあるが十分に共感できるものになっているだろう。
 実際の神話のロキはトールではなくオーディンの義兄弟であるが神ではなく巨人の息子というのは変わらない。ギリシア神話で言うところのプロメテウスとヘルメスを足したような存在で神々に様々文物(ムジョルニアやグングニルの槍など)をもたらしたのは彼である。トールとは特に仲が良かったのだが、光明神バルドルの死と復活に関与したことで決定的に邪悪な存在となった。
 演じるトム・ヒデルスンはヘムズワースと対照的に静かな演技で印象深い。この人はブラナーと過去に仕事をしておりシェイクスピア俳優でもあるそうだ。その意味でもソーとは対照的である。「アベンジャーズ」でも登場するはずである。
 

フリッガ

 オーディンの妻でソーたちの母親。演じるのはレネ・ルッソ。実際の神話ではバルドルの母親でトールの実母ではない。
 

シフ

 ソーの幼馴染で戦の女神(というか北欧神話は基本戦の神で、それ以外に別の属性を持っている感じがする)。常にソーとともに戦い、今回も三戦士とともに追放されたソーを追ってニューメキシコに。その姿から「ジーナ」と地球人に揶揄された。
 演じるのはTVシリーズ「カイルxy」の美人女優ジェイミー・アレクサンダー。本当に美人で今回の僕の一押しです。
 

3人の戦士

 口の減らないファンドラル、ずんぐりむっくりのヴォルスタッグ、寡黙なホーガン。それぞれ個性は違うが3人とも優れた戦士でありソーとともに戦う。ヴォルスタッグを演じているのはレイ・スティーヴンソン。血まみれヒーロー「パニッシャー:ウォーゾーン」で主人公フランク・キャッスルを演じていた。だから一人一ヒーローだとあれほど・・・と言いたいが全然分からなかったのでよしとしよう。モンゴル人を意識したと思われるホーガンは日本でのポスターではロキより目立っている浅野忠信。あくまで脇役なのでこういうのはどうかと思うなあ。けっして彼の演技が悪いわけではないけどね。
 

ヘイムダル

 アスガルドと他の8つの世界をつなげる虹の橋、ビフレストを守る守護神。他の世界で起きたことを見聞きすることが出来る。
 演じるイドリス・エルバはイギリス出身の黒人俳優で原作では白人風の神ヘイムダル(まあ、北欧の神話なのだから基本白人なのだ)を黒人が演じるということで良くも悪くも話題になった。でも威厳は備わっていて悪くないと思う。ちなみに映画の企画にあわせてスタートした「ソー:マイティ・アベンジャー」では映画準拠の設定になっているのでヘイムダルも最初から黒人風になっている。
 ヘイムダルは結構複雑な神で起源はオーディンより古いともされる。「ラグナロク神々の黄昏」で最終決戦の角笛を鳴らすのは彼の役目だ。
 

  • ミドガルドの人間たち

ジェーン・フォスター

 天文物理学者。ニューメキシコの砂漠で気候観察中に落ちてきたソーと出会う。ナタリー・ポートマンが「ブラック・スワン」とは何かに執着しているという点では共通だがキャラ的には全然違う感じで演じている。結構おっぱいがでかい。また助手の女性ダーシーも結構可愛い。とはいえ、今回僕の一押しはやはりシフなのだ。
 セルヴィグ教授はジェーンの恩師。彼女を心配しつつソーの面倒も見るがラストでは・・・
  

コールソン

 「アイアンマン」シリーズでも活躍したS.H.I.E.L.Dの捜査官。「アイアンマン2」でトニー・スタークを監視中にニューメキシコ転属を命令された。それは落ちてきたムジョルニアを調べるためであった。今回はジェーンの研究機器等を強制的に取り上げたり若干高圧的。施設に忍び込んで職員をバッタバッタと倒すソーを見て「傭兵か?」とか言うけど銃を一切使おうとしない時点でソーはおかしいと気付こうよ。演じるクラーク・グレッグはこれまでのシリーズでも同役で登場。
 

クリント・バートン

 施設に侵入したソーを弓矢で狙おうとするシールドの凄腕捜査官。「だんだん奴が気に入ってきた」は名台詞。今回は顔はあんまり見えないし出番も少ないが実は彼はマーベルではれっきとしたヒーロー・ホークアイである。演じているのはジェレミー・レナー(ノー・クレジット)だが彼は「アベンジャーズ」にも出演が決定しているので当然次はホークアイとしての登場となるのだろう。
 

ニック・フューリー

 ご存知シールドの長官。今回はラストに少しだけ登場。しかしシリーズも4作目なのに未だクレジットが始まった途端帰る人たちがいるのだなあ。演じているのは勿論説教俳優サミュエル・L・ジャクソン叔父貴。全9作品に登場する契約だが、遂に「ニック・フューリー」というタイトルも発表された?
 
その他

ラウフェイ

 ヨトゥンヘイムに住む氷の巨人達の首領。ロキの実の父親でもある。政権をとったロキの手引きでアスガルドに潜入するが・・・

デストロイヤー

 アスガルドオーディンの宮殿の宝物庫の番人。オーディンが作った金属体。オーディンが眠りに付き、代わりに王となったロキの命令で地上にソーを始末に向かう。顔部分は空洞だがそこにエネルギーを集中させて顔全体から熱線を放つ。
 
 シリーズも4作目ということで、世界観も他との関連を隠さなくなってきた印象。シールドとかもいちいち説明しなくなったし。セルヴィグ教授がブルース・バナーと知り合いっぽかったりする。でも一見さんお断りの作品にはなってないと思う。世界観の共通していない直近作品「X-MEN FC」に比べると社会的なテーマを負っていない(代わりに普遍的な人間ドラマはふんだんに入っている)分、物語としては非常に明るい。特に地上に落とされたソーが現代地球の文化との間のギャップが面白い。ダイナーでお代わりするのにわざわざ床に叩きつけてカップを割ったり、ペットショップで馬を買おうとしたり。この明るい雰囲気は暗く悩めるヒーロー映画とはまた違い魅力的だ。後はソーが空を飛んだりするシーンで彼こそはマーベルユニバースにおけるスーパーマンであるのだなあと改めて思った。
 音楽も最近のアメコミ映画にありがちなハードロック主体のものではなくオーケストラによる壮大なスコア。これも雰囲気に合っていて良い。

 次回は過去編。いよいよマーベル世界最初期のヒーロー「キャプテン・アメリカ:ザ・ファースト・アベンジャー」が登場。予告編を見た限りではWW2を舞台にし現在編は無さそう。多分ラスト近くでキャップが氷付けになってしまうものとも思われる。で「アベンジャーズ」で発見・解凍されるんだろうなあ。一応原作や今回の終わり方を考えるとロキがハルクをソーにけしかけ、それとキャップの復活がきっかけになると思われます。そういや「サブマリナー」って映画化されないんですかね?実写でネイモアが見たいです。

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