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これぞ雑踏アクション! 孫文の義士団

 折角のGWだというのに腹を壊して(原因はユッケ!ではなくおそらく賞味期限間近で半額になっていたマグロ。焼きが足りなかったか)寝入っていたわけですが、そのおかげで大分感想が遅れてしまった。映画の日(5月1日)に観ていた「孫文の義士団」。今年に入ってから絶賛続出のドニー・イェン先生出演の傑作活劇。

物語

 1906年、英国統治下の香港。革命家の孫文が亡命先の東京から香港へやってくることになっていた。中国各地の革命指導者と会合を持ち、革命の計画を立てるためだ。北京西太后は暗殺団を香港に派遣した・・・
 革命軍の支援者である新聞社社長のチェンはオーナーのリー・ユーワンに援助を要請。リーは息子を巻き込まないことを条件に許可する。一方チェンは劇団を隠れ蓑にしたファンに護衛を頼んだ。そんなチェンを尾行するのはリーの妻ユエルの元夫であり博打で身を崩した木っ端役人シェン。
 劇団が暗殺団に全滅させられ、チェンも行方不明に。リーは自ら孫文の護衛を指揮することになる。少林寺崩れの臭豆腐。劇団の生き残りホン。今は乞食に身をやつしたリウ。リーの忠実な車夫アスー。一方チェンは暗殺団を指揮するものがかつての自分の教え子イェンだと知る。
 脱出したチェンは確実な護衛のために孫文の影武者を立てることを計画する。クジの結果影武者に選ばれたのはリーの息子チョングワンだった。また、ユエルは娘を連れて元夫シェンの元を訪れる。この子はシェンとの子であり、この子の未来のために現夫であるリーを守って欲しい、と。
 そして遂に孫文が香港にやってくる・・・

 孫文(中国では孫中山で知られる)は近代中国の父で大陸・中華人民共和国でも台湾・中華民国の両方で「国父」と仰がれ尊敬を集める人物。同時期には李鴻章など中国を改革しようと言う人物はいるのだが、そこで打倒清朝という風になるのはやはりこの人がハワイで教育を受けたということも大きいのではないだろうか。
 清朝というのは僕は個人的に好きな王朝。半世紀ほどずれているが徳川幕府とほぼ同時期の政権で共に東アジアの政体の一つの到達点だと思う。前半に有能な君主(ヌルハチ雍正帝*1)が多くでた、いわゆる征服王朝の中でも最も成功した部類といえるだろう。しかしどんな優秀な政体でも250年も続くとボロが出てくるのは必定で、しかもそれ以前の王朝にはなかった西洋列強の外圧とも立ち向かわなければならなかった点でも徳川幕府と共通してる。香港がイギリス領となった原因のアヘン戦争1840年なので映画の66年前。この間に日本では明治維新が起こり、日清戦争清朝が負け改革・革命運動が活発になる。

義士と暗殺者

 今年は「イップ・マン」二部作が評判を呼び(評価は勿論、単館上映としてはヒットした方ではないのかな)これもドニーさん主演という感じで売り込まれてる気がするがどちらかというと特定の主役がいないアンサンブル作品。英題が「Bodyguards and Assasins 護衛と暗殺団」で邦題における「義士団」以外に暗殺団にも重きが置かれている。そしてその中間にいるのがドニーさんというわけだ。しかし、ドニーさんとレオン・ライニコラス・ツェー、「レッド・クリフ」で趙雲を演じたフー・ジュンはすぐ分かったけどずっと出ずっぱりだったチェン(社長さん)がレオン・カーフェイというのに最後まで気付かなかった・・・結構この人の出演作見てるはずなのに・・・
 義士団のほうは理想に燃える志士、というのは主要人物のホンの一握りで大部分はそれぞれの理由で参加している。いわゆる打倒清朝の革命に燃えるのは社長さんとチョングワン(亀田興毅が優しくなったような顔)ぐらいで、後は様々。ある意味一番格好いいレオン・ライ演じる鉄扇子使いリウ若君はかつては裕福な家の後継者だったが父の妻(という書き方をしている以上実母ではなく継母だろう)を愛した挙句二人を死なせてしまったためそれ以来乞食をしている。彼がリーに協力するのはいわば一宿一飯の義理のようなものである。車夫のアスーは大切な旦那(リー)のため、そして写真屋の娘との仲を旦那に取り持ってもらったため(「オレ、これが終わったら結婚するんだ」)。巨漢の臭豆腐少林寺を追い出された武蔵坊弁慶のような存在。西洋嫌いでリーという個人にシンパシーを抱いて協力する。紅一点(というには華がないが)のホンは父親の復讐の為、とそれぞれ参加理由が異なる。
 一方暗殺団のほうはもっと単純に国家の為、である。現在だと明らかに敵役だがこの時点では清朝が健在なわけで国家に忠義を尽くし、国家転覆を図る孫文の暗殺というのは一方の正義ではあるのだ。特に暗殺団の団長であるフーは儒教精神を体現するような人物である。
 いずれにしろ肝心の孫文は顔を見せず、最後までこのままで行くのかな、と思ったら最後で顔を見せた。 

雑踏アクションの金字塔。

 この映画のメインアクションは当然ながら、香港に着いた孫文を巡る義士団と暗殺団のやりとりである。港から各省の革命指導者が集まるところまでの護衛、そしてそれ以後の影武者を囮に暗殺団の目をこちらに向けるため。当然、その道中には何も知らぬ市井の一般人がたくさんいる。それらを巻き込み、あるいは利用してアクションが行われる。この辺の雑踏を舞台にしたアクションが香港アクションの素晴らしいところであり、「KG」など日本のアクション映画に足りないところだと思う。
 武蔵坊弁慶を髣髴させる臭豆腐。泥臭いカンフーを見せるドニーさん。しかし一番格好いいのは鉄扇子の使い手リウである。乞食時代のボサボサ髪にひげ面を一新、ストレートロングにきちんとした身なり(あの服欲しい!)で暗殺団を待ち構える。一人でたくさんの暗殺団を相手にし最後はフーに敗れる。面白いのは護衛が死ぬと一人一人「1870年〜1906年」とか生没年が出るのである。「仁義なき戦い」?
 
 ラストはその後の辛亥革命に至る経緯が簡単に触れられる。しかし革命には軍閥である袁世凱の力が必要であったし、結果袁世凱は皇帝に即位して革命に逆行している。しかし袁術といい袁姓の人は「自称皇帝」だな。その後の混乱は「イップ・マン序章」の通り。戦後も国共内戦文化大革命と不安定な時代が続く。現在はなんだかんだ言われてるし、問題も多いが実はこの百年で中国は今が一番安定している時期なのかもしれない。
 孫文の意思は百年経っても色あせることはない。

鉄は熱いうちに打て!

 今回の反省。僕の場合やはり映画感想は観てすぐ書いたほうがいい。長いこと放置して頭で色々考えるのよくない。
 

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