8BITで全力疾走! スコット・ピルグリムVS.邪悪な元カレ軍団
先日は栃木に住むいずむ君(いずむうびい)が東京に出てくるというのでお誘いをいただいた。何と彼はエドガー・ライト監督作品「スコット・ピルグリムVS.邪悪な元カレ軍団」を初日に観るため*1だけに出てきたらしい。凄まじいバイタリティの持ち主。僕自身は必ずしもすぐ観るつもりはなかったのだが折角なら一緒に観ましょう、というわけで初日にいずむ君とストロツェックさん(id:Stroszek)と一緒に「スコット・ピルグリム」を観てきたのだった。ちなみにいずむ君はTMRの人が物質転送機で移動しようとしたらそこにジョン・ヘダーが乗り込んできて転送先で合体したような好青年でした。
ストーリーは以前書いた原作の記事を参照。
原作は2巻まで読んで完結編になる3巻は購入していたけど保留した状態で鑑賞。とても楽しみにしていたし事前にすでに見た人の感想などで出来がいいとは聞いていたけれど、少し不安要素もあった。一つは原作を途中まで読んだ段階で主人公スコットにあまり感情移入できていなかったこと。結構女性関係にルーズな部分があったりして「ナイブス可哀そう!」と思っていた。また、写真などで見るスコットを演じるマイケル・セラ(つい、エリック・セラと間違えてしまう)があまり魅力的に見えなかったこと。例えば同じオタク系ボンクラ主人公を演じて名を馳せたジェシー・アイゼンバーグのチャーミングさに比べると目つきがあまり良くなく、とてもじゃないがキュートとは思えなかったのだ。
しかし、実際に動いているところを見たらそんな心配は杞憂だった。ストーリー的には途中まではかなり原作に忠実。後半は映画と原作で微妙に違う。場所や時間を示す字幕以外にキャラクターの説明(レベルとかRPGのステータスみたいなもの)だったり、リンリン鳴る電話の擬音だったりが画面にも表示されるがウザくは感じない。一番の心配だったマイケル・セラ演じるスコットは動くと実にキュートだった。全編にゲームへのオマージュがちりばめられている。しかもどちらかといえばファミコンとかレトロゲームへの思い入れが強いようだ。8BITなのにイマジネーションは64BIT!(今のゲーム機がどのくらいなのか分からない)。
僕がこの作品を見て連想したのはケビン・スミス諸作品で特に「チェイシング・エイミー」と「ジェイ&サイレント・ボブ 帝国への逆襲」。一目惚れした相手と結ばれるために障害を乗り越える、というのやメタフィクション的なところ(「マーク・ハミル登場!拍手!」)が被る。勿論こちらの方が現代的にテンポが良いのだけれど。
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ただ、個人的に一番良かったのはスコットのルームメイトでゲイのウォレスを演じたキーラン・カルキン。ほとんど感情的になることなく冷静につっこんだりする。キーランは(ルックス的に)ブシェミ化が進んだ兄・マコーレーに対して良いところだけを残したような美青年。クールに、でも友人思いな彼にはちょいとキュンと来てしまった。
原作がコミックスだけにアメコミっぽい要素も多いのだけれど、キャストに面白い仕掛けがしてある。まず邪悪な元カレの一人映画スターのルーカスを演じるのは「ファンタスティック・フォー」のヒューマントーチを演じたクリス・エヴァンズ。こいつはキャプテン・アメリカも演じる欲張り野郎。こんがらがるから一人一アメコミキャラに限定しろとあれほど・・・
そして、やはり元カレの一人でスコットの元カノ、エンヴィの今カレ、菜食主義者のマッチョベーシスト、トッドを演じたのは「スーパーマン・リターンズ」でクリストファー・リーヴの後を継いでスーパーマンを演じたブランドン・ラウス。スーパーサイヤ人を思わせる(この手の髪の毛が逆立つパワーアップ描写も今や世界的だ)容貌でスコットを苦しめる。残念ながら今企画されている「スーパーマン」の新作は仕切りなおしなので彼の出番はないようだ*2。
で、ノー・クレジットなので友情出演なのかもしれないがそのトッドが菜食の決まりを破った時「菜食主義者(ヴィーガン)警察」が登場。その警官の一人が2代目パニッシャー(初代はドルフ・ラングレン)のトーマス・ジェーン。この人の登場は完全に予想外だったのと「ミスト」の重厚なイメージがあったので、今回のコメディ演技は少し新鮮。まあ、言ってしまえばそうそうたるアメコミのスーパーヒーローたちがスコットの前に立ちふさがるわけだ。そういやカタヤナギ・ツインズを演じた斉藤兄弟も「タッチ」で一応漫画のヒーローを演じているなあ(最初「デビルマン」の双子かと思ったが違った、スマン)。この二人のキーボードの音量が龍の形を取り襲い掛かるシーンは「カンフー・ハッスル」で竪琴で襲う二人組の殺し屋を思い出した。
映画は独特なテンポも魅力。例えばスコットがいざ、出陣!という時彼の装備品をバン!バン!とクローズアップしておきながら靴紐を結ぶ描写で少し停滞させるとか、あるいはラストいかにもゲーム的なラスボスが出てきた後の外し具合とか。多分、映画館で一度見て満足、というよりはソフトで手元に置いておいて何度も見直したくなる魅力に溢れている。その辺も現代的だなあとは思う。
原作も映画も、最終的にスコットは自己反省するので僕が嫌だなと思った部分も解消されている。一度死んでやり直しがきく部分もゲームならではの展開がきちんと生きていた(この辺の開き直りは同じ監督の脳内世界の実現でも空想という形にして照れがあった「エンジェル・ウォーズ」とは違うところだろう)。
ただ、やはりカナダが舞台のカナダ人の原作をイギリス人がカナダ人を主役にして撮っている、ということでいわゆるアメリカの青春映画とは趣が違っている。これがアメリカ映画だったらそこそこ充実しているスコットじゃなくてバンドの取り巻きでスコット以上のボンクラ、ヤング・ニールをもっと重要な存在にするような気がする。とりあえず僕だったらボンクラ、ヤング・ニール(あるいはもっとギーク感が増したスコット)が憧れの女性(ラモーナ)と近づこうとするも彼女はイケてる先輩(別に邪悪な元カレでもスコットでも可)と付き合っている。一方彼を慕うのはまだ子供のナイブスであった・・・ってどんな「ルーカスの初恋メモリー」だよ!なストーリーを考えてしまう。
同じテーマを描いた「レスラー」と「アンヴィル」でも舞台がカナダというだけで大分穏やかになっていたなあ。まあ、「アンヴィル」はドキュメンタリーなのだけど。
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すっかりスコット・ピルグリム」にはまったいずむ君は原作コミックスやらポスターやらグッズをたくさん買っていた。映画を見た後は先の上映回を見たストロツェックさんの友人も参加しナベをつつきながら映画談義(ここにはかけないようないろんなこと)に花が咲いたのだった!
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