The Spirit in the Bottle

旧「小覇王の徒然はてな別館」です。movie,comics & more…!!!

髪と馬とフライパン 塔の上のラプンツェル

 震災が発生してからしばらく遠ざかっていた劇場での映画鑑賞。別に一ヶ月くらい劇場行かないとかはこれまでもあったけど今回は精神的に長いこと行ってない感覚だった。とりあえず絶対劇場で見たかったのが何個かあってその一つが今回見た二本。そのうちの一本がディズニーの長編アニメ「塔の上のラプンツェル」。

物語

 ある国に魔法の花が咲いた。魔女ゴーテルはその花を独り占めし歳をとるたびに花の魔力で若返っていた。あるときその国の身重の王妃が病気になり、国王は魔法の花を探させた。兵士がゴーテルの魔法の花を見つけ花の力で病気を治し、美しい金色の髪を持つ女の子が生まれラプンツェルと名づけられた。しかしゴーテルは王女をさらい人知れず高い塔に閉じ込め自分の娘として育てる。その髪に込められた魔法のために。
 18年の年月が経った。美しく成長したラプンツェルは塔の外に出たくてたまらない。毎年彼女の誕生日には夜空に不思議な灯りが現れる。その正体を知りたかったのだ。しかしゴーテルはそれを許さない。あるとき、お尋ね者フリン・ライダーがひょんなことから塔の存在を見つけ、侵入する。ラプンツェルはこれを撃退するが、彼を案内人に外の世界に出ることを考えつく。ラプンツェルの初めての冒険の始まりだ。

 元の童話はグリム童話で「髪長姫」として知られているものだが、童話と映画は大分違う。詳しくはこちら、

グリム童話 ラプンツェル

 なんとも不条理でかつアダルトな物語である。元の童話を出来るだけまろやかに性的な要素を外していたグリム童話としては珍しい。まあ、僕も全部読んでるわけではないですが。王子が夜な夜な(文字通り)夜這いに来て、その結果を

「ねぇお婆さんどうしてかしら、最近お洋服がきついの。」

で、知らしめるところなんかはラプンツェルの無知と成熟をあらわしているようで興味深い。そもそも元の童話では魔女は別に悪くない。何らかの条件のもとに生まれた子供を取り上げる(例えば美女と野獣のように成長したら嫁にもらうというのも含めて)という昔話は世界中にあるが、大抵親側が約束を破ろうとしたりするのが定石。この話の場合悪いのはエデンの園のイヴの如く、「禁断の野菜(そもそもラプンツェルの名はこの魔女の野菜「チシャ」にちなむ)」を食べてしまったラプンツェルの母親だ。だから、この映画版は上手く設定のみを利用して別の話に変えている。まあ、そもそも王子と王女の立場が変わってるし。
 テリー・ギリアムの「ブラザーズ・グリム」でモニカ・ベルッチが演じた鏡の女王の方が元の童話とは近そうだ。あっちは塔の上に魔女(鏡の女王)が住んでるけど。
 
 さて、本作、まずなんと言ってもキャラクターが魅力的。主人公のラプンツェルはずっと塔の中にいたとはいえ天真爛漫でまっすぐに育っている。これは例え目的がいかがわしくてもゴーテルの育て方が良かったのだろう。いや、前提条件の「塔から出さない」ってのがそもそも間違ってはいるけどね。CGで描かれた人間のキャラクターというと最近は色々出ているが、髪の美しさ、肌の質感が本物みたい、じつに柔らかそうだ。はっきり言って僕は劇中ラプンツェルの胸ばかり見ておりました。かといってリアル一辺倒というわけではなくアニメならではのデフォルメが効いている。特に王妃が国王の涙を拭くシーンはしんみりした。余談だが予告編で流れた「少年マイロの火星冒険記 3D」みたいなリアルなCG人間が出てくる映画ってどこに需要があるのか疑問だ。監督はロバート・ゼメキスだが懲りないね。リアルなのに死んだ魚の目のような人間が出てくる映画なんて見たくないよ閑話休題
 ラプンツェルはその人物造形も巧みで塔から出たいと強く思っているにもかかわらず、母親(ゴーテル)への愛も決して脅迫ではなく効いており、いざ、塔の外へ出てもその嬉しさと母親の言いつけを破った罪悪感とで悩む。ここの躁鬱ループ(「外って最高!」「ああ、私は悪い子だわ・・・」みたいなのの繰り返し)がカットバックの巧みさもあって実に愉しい名シーンになっている。
 ラプンツェルの美しく長い髪は魔法の花の力を受け継いでいてラプンツェルが歌うと光り輝き触れているものに癒し(治癒、若返り)を施す。しかし一度斬るとその髪は黒く(茶色だったかな)なり二度と力を発揮すことはないため生まれたときから伸ばしっぱなし。18歳にして20m以上の長さに伸びている。この髪を使ったアクションも見所である。
 本来なら塔の上の囚われの姫君を助け出す王子様であるはずのフリン・ライダーは盗賊のお尋ね者。平気で仲間も裏切るような奴だ(とはいえ裏切られた奴も立場が違えば同じことしたような奴)。手配書の似顔絵を「鼻が似てない」とかいうサンジみたいな奴である。いわゆる正義の王子様でもなければ「プリンセスと魔法のキス」のダメ王子でもない。現実的な大人の男だ。ところで向こうのアニメは先に声を録ってそれに合わせて絵を作るのが一般的。また、声を担当する役者に合わせてキャラクターのデザインをするという。そんな風に思ってたせいでフリンの役者はエイドリアン・ブロディだと思ってた。だって似てるんだもの


 似てるでしょ?とはいえここで声を担当してるのはザッカリー・レヴィという人(フリンに似てないわけでもない)。こんな感じで他にもゴーテルはスーザン・サランドン(これは「魔法にかけられて」の影響)だなあ、とか思ったりした。
 後は「ヒックとドラゴン」に出てくるヴァイキングのような強面軍団。顔に似合わずロマンティックな夢を持ってます。このシーンで思い出したのは「ハイスクール・ミュージカル」で自分の所属するグループに似合わない夢を語るシーン。
 
 そのほか、ディズニー定番の動物キャラもいてカメレオンのパスカルと元は敵だが最終的に頼もしい味方になる馬のマキシマス。二匹とも喋らないのだが(魔法が存在する世界なのだから喋れてもおかしくはないと思うが)これが喋らない代わりにジェスチャーで魅せてくれる。特にマキシマスは最初フリンを追う兵士団の団長の愛馬として登場するが、その後この団長を放って置いて縦横無尽に活躍する。フリンと死闘を繰り広げ、ホームズばりの名推理をし、最後は頼もしい仲間となる。くーっ!かっこいいよあんた!
 
 そして、魔法の髪、マキシマスと並んでもっとも活躍したのがフライパンである。その威力は「呪怨2(ビデオ版)」において若妻がぐうたら夫を一撃で倒せることでも証明済みなのだが、ここでも最強の武器として様々に役に立ってくれる。何と言っても最終的に王国の兵士用武器として正式採用されるぐらいである。フライパン恐るべし。
 
 最終的にフリンはラプンツェルの魔法の美しい金髪を切り取ることによって彼女を自由にする。ここ物語的に他にもやりようがあったんじゃないかなと思う気もするが、最後は元の童話を踏襲してるのだなあ。騙されたと思うかハッピーエンドでよかったと思うかは貴方次第。

 む、この予告編、本編で出てこなかったシーンがあるような・・・
 
 ちなみに今回は(というか基本的に3DCGアニメ映画は)日本語吹き替えで見たのだけれど、ラプンツェルの声は中川翔子です(歌部分は別の人)。しょこたんの声は最初予告編が出回ったころはかなり不安だったんだけどその辺は杞憂に終わりました。タレント吹き替えだからと躊躇してる人(吹き替え版しか上映してないところも多かろう)は問題ないと思う。
 
 さて、同じ日に見たもう一本は我らがヒーロー、クリスチャン・ベールの「ザ・ファイター」。趣が180度違うがこちらもいい映画だった。「魔法にかけられて」のジゼルも出てるよ!

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さあ!夢を見よう!