The Spirit in the Bottle

旧「小覇王の徒然はてな別館」です。movie,comics & more…!!!

親が死んでもボンクラは治らない グリーン・ホーネット

 僕は基本的に無神論者ではあるのだがあえていうならブルース・リー信者である。彼を主神としてその周りをスティーヴ・マックイーンとかブロンソンとかコバーンとか(要するに「荒野の七人」メンバーはみんな神様!)とかが並び立つパンテオン、といった感じ。
 で、そんな神・ブルース・リーの出世作として名高い「グリーン・ホーネット」の最新映画版を観てきたのであった。

グリーン・ホーネット」と言うと一番印象が深いのは先のブルース・リー出演で有名な60年代のTVシリーズなのだが、これも同時期のTVシリーズ「バットマン」にゲスト出演した奴ぐらいしか見ていない。歴史そのものはバットマンより古く1930年代のラジオシリーズまで遡れるようだ(バットマンのデビューは1939年)。

物語

 LAの新聞社デイリー・センチネル社長の放蕩息子、ブリット・リードは父の死後、新聞社を継ぐが使用人カトーの発明の才能と格闘技術を見て、正義のヒーローとなることを思いつく。ガジェット(武器含む)を満載した自動車ブラック・ビューティーを駆りカトーと共に町の悪党と戦うが敢えて一般市民には自分達も悪党でギャング同士の抗争だと思わせる。自らの新聞でグリーン・ホーネットと名乗り存在を大きくしていく。
 やがて、町の犯罪王チュドノフスキーがグリーン・ホーネット狩りを宣言し、抹殺しようとする・・・

 結論から言うと少々残念な出来です。中身としては「ダークナイト」以降の「実際にヒーローが存在したら」という路線かと思われ金持ちの息子が財力を駆使して最新装備をし犯罪と戦う、というバットマン、アイアンマンの系譜なのだが主人公のブリット=グリーン・ホーネットが非常に情けなく、そのほとんどを相方(助手となっている。その昔は召使、という設定だったはず)のカトーに頼りっぱなし。コメディに徹すればよかったのかとも思うが中途半端な感じ。
 
 カトー役のジェイ・チョウは良くやったと思う。たとえどんな役でも過去にブルース・リーが演じた役をやるというのは非常にプレッシャーだったと思われる。最初「スター・トレック」に引き続いてもう一度二代目カトー(「スター・トレック」の方はスールーだが)か!と思ったのだがあっちはジョン・チョーで違う人でした。
 後は「イングロリアス・バスターズ」のランダ大佐ことクリストフ・ヴァルツが犯罪王の役で出てる。この人少し顔がでかくて「007/ダイアモンドは永遠に」のチャールズ・グレイを思わせる。「イングロ〜」の時もそうだけど芝居がかっているけれどそれが凄みにつながる人で、今回も非情ながらカリスマがあり、どこか愉しい犯罪王をコミカルに、しかし凄みをもって演じている。面白いのはこのキャラは登場最初からボスなのだが、度々若手から古いだのと揶揄されてそのたびに自分の立ち位置(「俺は怖がられているか?」)を気にしたりする。ミドルクライシス?
 ところで、この犯罪組織はミキサー車に何か思い入れがあるのだろうか。中盤以外に終盤でも出てくるししかも必然性がない。最初の方は工事現場だし穴埋めるときに使うのかと思ったら違うし(セメント責めにすりゃ良かったのに)。
 ヒロイン(?)はキャメロン・ディアスで主人公二人に比べると少し年齢が上(劇中でもブリットより上と明言されている)なので不自然ではあるのだが、ブリットとカトーは共に小さい頃に母親をなくしており、その代替要素もあることと、恋愛対象というより仕事の上での仲間という印象の方が強いので問題なかったと思う。
 いいんだよ!きっとこの二人は熟女好きなんだよ!世の中が全員ロリコンだと思うなよ!
 メインどころではないが編集長役に「バトルスター・ギャラクティカ」のアダマ艦長。そしてブリットの父親役に「バットマン・ビギンズ」のドン・ファルコーネ。この辺り(ランダ大佐含む)のおっさん俳優連中がいい味出してます。ファルコーネは正義の新聞社社長とかなので「うっそでー!」と思ったら途中で怪しくなって「やっぱりな」と思ったら結局良い人だったという良い感じに騙されます。
 
 一応IMAX3D版での公開もあるのだが今回は事前の予告編とかでまったく3Dである必要性を感じなかったので出来れば2Dで見たかったのだが安く見れるいつもの劇場が3Dしかなかったので仕方がなく(普通の)3Dで鑑賞(それでも他の劇場で観るより安い)。映像的に面白い部分はあったのだが3Dを意識した映像はエンドクレジットぐらいのものでした。
 監督はミシェル・ゴンドリー。映像的に興味深い部分は幾つかあって特にヴァルツが「グリーン・ホーネット」抹殺宣言をし、それを部下が伝聞で広げていくシーンは面白かった。どんどん枝分かれしていく度に画面が分割されていくのだ。そしてそこで出てきたアジア系の女性が色っぽいのにそこしか出てこないのがもったいない。
 
 さて、こういう言い方は嫌いだが戦犯をはっきりさせよう。キャラクター設定、演技共に主人公であるブリットがいけない。最後の最後まで全然成長しないし、カトー頼りっぱなしのクセに彼を下に見てたりする部分もあるので感情移入もしづらい。セス・ローゲンは主演・脚本のほかに製作総指揮まで兼ねているのでやはりこいつが戦犯だろう。ルックスをさらに野卑にしたようなウィル・フェレルレベルまで行けばむしろ最高だったと思うが。ゴンドリーもコメディがしたいのかシリアスがしたいのか良くつかめない。ヨーロッパ映画風のこじゃれた感覚とハリウッドの娯楽性が拒否反応を起こしたみたいだ。
 開き直って明確にカトーを主人公、グリーン・ホーネットを脇役として描けば良かったのになあ。 

 ラストにどこかで聞いた曲が流れてきたので思わず
ミシェル・ゴンドリーの野郎、「キル・ビル」パクリやがったな!」
とか思ったけど冷静に考えるとこれが元々の「グリーン・ホーネット」のテーマ曲であって、タランティーノの方がクレイジー88のテーマとして流用したんでした。

 今年最初のがっかり映画ではあったなあ。もちろん、最初から期待値のレベルを下げておけばそこそこ楽しめる。