ペックス万歳!試される倫理観 スプライス
皆さん、お正月はいかがお過ごしですか。え?もう過ぎたって?ご冗談を。まだ4日ぐらい・・・え、もう8日ですって!嘘だ!俺は信じない!時間が経つのが早すぎるよ!
という冗談はさておき(あながち冗談でもない)、2011年二度目の劇場鑑賞は「スプライス」。
元日に見た「キック・アス」は2度目の鑑賞なので、実質最初の劇場鑑賞。今回、いつもの劇場で上映していなかったので「横浜ブルク13」という劇場まで遠征。凄い綺麗な映画館でした。
この作品、本日公開なのですが、全然がらがら。まあ、ほとんど宣伝とかないしなあ。僕もヴィジュアル一発で見るの決めたようなものだし、一般にはアピールしないとは思う。とはいえ、何か強く惹きつけられるものがあるのは確か。
物語
「スプライス(SPLICE)」とは「結合」と言う意味で様々な生物の遺伝子を結合させることを指す。
大手製薬会社傘下の研究所で働くクライヴとエルザは数種の生命の遺伝子を結合させた新生命体を誕生させる。ジンジャー(メス)とフレッド(オス)と名づけられる。次は人間の遺伝子を結合させあらゆる病気に対応する段階だが会社に止められる。反発した二人はひそかに実験を開始、そして新生命体が誕生。驚くべきスピードで成長するその生命体は「DRENドレン」と名づけられる。研究所に置いておけなくなり、エルザが昔暮らしていた廃農場に移動するのだが・・・
この現実には存在しないのに妙に存在感がある新生命体「ドレン」*1が肝。艶めかしい。
最初は子猫ぐらいの大きさで、手も無いのだが・・・
やがて成長すると手も生え知能も発達し、
最終的には普通の大人サイズに。妙に色っぽい。地獄のミサワなら「目が離れすぎている」というだろうが普通に感情移入できるキャラだ。
とはいえ最初のビジュアルと人造生命体という設定で最初に思いついたのは「エイリアン」シリーズとか「スピーシーズ」などのH・R・ギーガーのクリーチャーたち。あっちはバイオメカノイドというころでメカニカルな装飾もあるのに対しこちらとは大分違うんだけどその生命体としての説得力、生命力と言う点では共通だ。特に中盤、翼を得たシーンでは「究極生命体だ!」と興奮してしまった。
キャストは「ドーン・オブ・ザ・デッド」のサラ・ポーリーと「プレデターズ」のエイドリアン・ブロディ。なんか最近はこの手の映画でブロディを見かけても違和感なくなってきたね。この二人がドレンを作り出す。登場人物の倫理観というものがめまぐるしく入れ替わり、観客を戸惑わせる。サラ演じるエルザは上司や恋人であるクライヴ(ブロディ)の制止を振り切ってドレンを創りだす。そしていざ誕生すると今度はドレンに感情移入するので「処分しよう」と言うクライヴが悪者に見えてくる。農場に移ると今度はエルザの様子がおかしくなる。ドレン誕生に使った遺伝子はエルザのものだったのだ。徐々に美しく成長していくドレンに対するエルザの態度がおかしい。
劇中で明確には語られないが、おそらくエルザは幼少期に育児放棄、あるいは虐待を受けている。きちんとした子供を持つ勇気は無いが実験動物なら可愛がれるしいざとなれば処分してしまえばいい。中盤でエルザはそんな狂気を撒き散らす。この辺の母、女、マッドサイエンティストとしていろんな顔を見せるサラ・ポーリーの演技は見所。
一方ブロディは最初はドレンに対し冷たく当たるものの中盤ではよき父親になり、ドレンに惚れられてしまい、あまつさえセックスしてしまう始末。
この後衝撃のラブシーンが!
最初の人造生命体「ジンジャー&フレッド」は大きめの猫ぐらいの大きさで肉塊、というかぶっちゃけ巨大な男根を想起させる。この二体が後に壮絶な殺し合いを見せてくれる。正直悪趣味極まりない映像。
ジンジャーとフレッドは最初こそ仲睦まじくしてるものの、そのうちジンジャーがメスからオスに変態してしまい、二度目に出会ったお披露目の際には客の目の前で壮絶な殺し合い。そしてこれが複線となる。
物語は、ドレンとブロディのセックスシーンを目撃したサラに言い訳(どう言い訳しても変態です)して、「しょうがない、ドレンを処分しよう」と合意したところから装いを変える。農場に帰るとドレンは水死(?)しており、二人はドレンを埋葬するのだが、ここに上司とブロディの弟がやってきて唐突にホラーに変わる。実はドレンは死んでおらず、性別をオスに変え、今度はブロディたちを襲い始める。そしてサラに対して性行為を働くのだ。個人的にはこの最後の展開は残念。普通のホラー映画になってしまった。これまで、精一杯感情移入してきたドレンが普通の怪物(それも強姦魔)になってしまう。そうなると幾ら水中、陸上、空中と全てを制覇する究極生命体としての美しい姿をさらしても全然格好よくない!
さらにオチとして待っているサラの妊娠も中の子供がドレンの子なのかブロディとの子なのかぼかした方が良かったと思う。
オチには少し不満も残るが全体としては傑作といっていいと思う。とりあえず登場人物の倫理観がすべてどこか狂っている上に最後は観客の倫理観に衝撃を与える作品。異形の物を愛でる人は是非観てほしい。
監督は「CUBE」のヴィンチェンゾ・ナタリ。で、製作としてギレルモ・デル・トロも関わっている。ナタリの次回作はウィリアム・ギブソン原作「ニューロマンサー」だ!
ところで僕が「ジンジャー&フレッド」を最初に観たとき思い出したのは手塚治虫の「ペックスばんざい」だった。これは手塚治虫の大人向け漫画で風刺色が強いもの。ペックスという生命体(オスは男性器型、メスはお尻&女性器型)がフースケの前に現れ、彼らはゴミを集め巣を作る性質があるため重宝されるが繁殖力が強いためやがて害獣として滅ぼされるという話。
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