The Spirit in the Bottle

旧「小覇王の徒然はてな別館」です。movie,comics & more…!!!

死霊まつり

 アニメとか漫画は当然のことながら「絵」が重要なジャンルである。で、「絵」は物語以上に生理的に受け付けない、というものもある。以前にも書いたのだが、僕はいわゆる「萌え絵」が苦手でどんなに「話が素晴らしい」とか言われても絵によって拒否してしまうことがある。まあ、とはいっても「ハルヒ」は受け付けないけど「けいおん!」はOK、という自分でも基準は曖昧なんだけど。
 

屍鬼

 実は藤崎竜の手による漫画「屍鬼」も本来は受け付けない絵柄である。僕はこの作品をドラマ版「もやしもん」の延長で見ていた(というかTVをつけていた)のだが、はっきり言って当初は全然興味がなかった。一気に引き込まれたのは第惨話で武藤徹と結城夏野が乗る車を嫉妬から乗車拒否した村迫正雄の描写を見てからだ。正雄の独特の風貌、ホモ的な嫉妬、兄嫁と家族に対する鬱屈した感情、そういったものに惹かれてしまった。そこからアニメを集中して見るようになり、原作漫画もチェックし、それだけでは飽き足らず小野不由美の原作小説にも手を出してしまったのである。
 で、小説の方を読み終わったのだが、文庫本で全五巻、一巻あたりも500頁ほどあるのだが一気に読めてしまった。

屍鬼〈1〉 (新潮文庫)

屍鬼〈1〉 (新潮文庫)

屍鬼 1 (ジャンプコミックス)

屍鬼 1 (ジャンプコミックス)

村は死によって包囲されている

 最初にタイトルの脇に「−To 'Salem's Lot」とある。これはスティーブン・キングの「呪われた町」のことである。するとこれは「呪われた町」の日本版といったとこなのだろうか。
 漫画に比べると物語の進行速度は遅い。1巻では旧弊の残る村で例年より死者が多いというので伝染病を疑うという「医療サスペンス」として読むことが出来る。2巻に入ると今度は病気になった人間がなぜか死ぬ直前に仕事を辞めている、ということから単なる病気ではない、と言う話になっていき、3巻でやっと屍鬼の存在に気付く。
 前半と違って後半に入ると屍鬼の感情描写も描かれ屍鬼に共感を寄せる室井静信の存在もあって宗教的な善悪ではなく単に生物的価値観が違う(それゆえに個人はともかく集団として分かり合えることはない)生物同士の生存競争と化す。
 5巻の村人達の反撃は快感というよりも魔女狩りに近い不気味さを感じさせる。
 
 それにしても事前にアニメと漫画を見ておくと大量に登場する登場人物が比較的把握しやすい。で、意外と日本の過疎ぎみの村が舞台なのに藤崎竜の無国籍風な登場人物で思い浮かべても小説を読んでても違和感がない。最初の清水恵の描写はまんま「下妻物語」だったね。
 原作と大きく違うのは尾崎敏夫と室井静信の2人の主人公のほかに結城夏野を大きく取り扱っているところだ。もちろん原作でも夏野は活躍するがメインで活躍するのは3巻だけでしかも早々に退場してしまう。ところが漫画の方では人狼として復活してしまう。このことで漫画の方は原作と違う結末を迎えることが予想される*1
 久しぶりに長編小説を読んだのだが知的興奮という意味ではここ最近で一番だった。
 

死霊伝説

 で、以前に見た事はあるんだけどすっかり内容を忘れてた「屍鬼」のアイデアの源泉スティーヴン・キングの「呪われた町」の映画化(正確にはTVドラマ化)「死霊伝説」を借りて見た。監督はトビー・フーパー

死霊伝説 完全版 [DVD]

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 以前に見たのは2時間ぐらいの奴で今回は3時間ある「完全版」。話の展開は「屍鬼」とほぼ一緒。アメリカの田舎町「セイラムズロット」が徐々に吸血鬼に侵食される。さすがに低予算ドラマなので奥行きは足りない。町規模の話には見えない。
 僕はキングの初期長編はほとんど読んでるんだけどこの「呪われた町」だけは読めていないのである。ずっと探してはいるのだがこれだけ集英社文庫ということもあってなかなか見つからない。
 

ナイト・オブ・ザ・リビングデッド 死霊創世記

 で、もう一本はジョージ・A・ロメロの古典「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」のリメイク。監督はオリジナルにも参加予定だったがベトナム戦争に徴兵されて参加できず戦地の惨状を帰ってきてから「ゾンビ」で生かしその真価を発揮したトム・サヴィーニ
 オリジナルの方は悪名高いジョン・ルッソの「最終版」も含めて何度も見てるくらい大好きなのだがこのリメイク版は見たことがなかった。

 ストーリーや登場人物はほぼオリジナルに忠実。突然ゾンビが人々に襲い掛かり、一軒の家に若い女性、黒人青年、白人カップル、父親、母親、少女の一家が集合する。互いに協力、反目しながら脱出を試みるが・・・というもの。
 オリジナルだと黒人が主導権を握り最後まで生き残る。当時白人の中で黒人が生き残るという映画は珍しかったらしいがこれは偶然で意図したものではないという。ラストにせっかく生き残った黒人がゾンビ狩りの自警団(民兵?)にゾンビと間違えられあっけなく撃ち殺されるシーンは衝撃的。
 リメイク版は最初に登場する女性、バーバラが明確に主人公。オリジナルでも最初から最後まで登場するが基本泣き叫んでいるだけで何もしない。ところがリメイク版では最初こそ泣き叫ぶものの中盤は落ち着き皆を引っ張る。服装も野暮ったいロングスカートにメガネといういかにも冴えないスタイルだったのが、ズボンに履き替えタンクトップにし、さながらランボーといういでたち。黒人のベンも頑張るものの自分が主導権を握りたいだけのようにも見える。
 バーバラは一人家を脱出し自警団と合流。夜明けとともにゾンビ狩りが始まる。ゾンビ狩りの描写はオリジナルより細かく書かれ結局「屍鬼」同様人間もゾンビもどちらも合わせ鏡のような存在なのだということが示される。

鏡ね、彼らは私たち自身の

 全然関係ないけど冒頭シーンのバーバラの兄役で「悪魔のいけにえ」のチョップトップことビル・モーズリーが出てた!

オリジナルの方はYou Tubeでも観れるよ(合法)。
http://www.youtube.com/watch?v=jfShkumjeq8&ob=av1e
 
 さて、僕はこのまま小説づいたところでこのまま深町秋生先生の「ダブル」に突入するのだ!ハードカバーの小説なんて買ったのなんて何年ぶりだろう。

*1:こないだ掲載雑誌の「ジャンプSQ」を読んだ限りでは5巻の中ごろの話で大きく原作から逸脱してるようには思えなかったが