君はかつてソ連という国があったことを知っているか?
現代の若い人がかつて日本がアメリカ(だけではないが)と戦争していたことを知らない、なんていうのを批判的に言うのをたまに聞くと一応歴史好き*1の身からすると「ホンマかいな?都市伝説じゃないの?」と思うんだが、僕は会った事は無い(というか日常でそんな話題をすることが少ない)けど、まあテレビなどを見る限りそういう人も一定数いるらしい。
それだけ現在を生きる人にとってアメリカは日本の同盟国として、あるいは文化の発信地として馴染み深く「敵だった」と考えるのが難しい存在になっているのだろう。アメリカでも事情はそう変わらないようで先代のブッシュ大統領は
「日本とアメリカは150年にわたって良好な同盟関係を続けている」
と第二次大戦前後を無視した発言をしているし、海の向こうもそう変らないのかもしれない。
で、「戦争を知らないこと」を批判的に言うことが多いけど、これは「知らない」の解釈によると思う。
知識として「かつての戦争」を知らず、「現在世界で起きている(あるいは起きていた)戦争」に思いをはせられない意味での「知らない」は確かに問題だけど、これは後々どうにでもなる。
もう一つ、戦争体験それ自体が無いことを持って「知らない」というのはむしろ結構なことだと思う。つまり日本が平和を保ってきた、ということだし。
「平和ボケ」大いに結構。
それに「その場に居なかった奴に何が分かる」的な言説はある種の思考停止だと思う。むしろ歴史なんて当事者が全員死に絶えて客観的に史料のみによって判断できるようになって初めて「歴史」とされると思うし。だからある事件が起きてから100年ぐらいは経たないと歴史とはいえないとも思う。もちろん当事者には後のために大いに語ってもらいたい。
そういう意味では今回の話題などまだまだ歴史ではないわけだが、
ソビエト社会主義共和国連邦
かつて、現在のロシアが「ソビエト社会主義共和国連邦」通称:ソ連、という国家だったことを知らない人はどの位いるのだろう?
簡単に紹介すると、
といったところか。
僕(1977年生まれ)が物心付いた時には既に書記長は最後の書記長で後に最初で最後のソ連大統領になるミハイル・ゴルバチョフ氏でペレストロイカ(自由化、民主化)路線だったが、イメージとしてはアメリカ、レーガン大統領*2と対抗する冷戦のもう一方の雄。世界を二分する勢力の片方の親玉として現在の中国など比べものにならないぐらいの存在感だった。もちろん日本は西側に属していたので今風に言うなら「悪の帝国」という奴。だからクーデターから崩壊という結果になった時は大いに驚愕したものだ。
ソ連崩壊のきっかけとなったクーデターは1991年の8月に起きた。当時僕は田中芳樹の小説をアニメ化した「銀河英雄伝説(第一期)」のテレビ放送に夢中になっていた。もともとはOVAだが当時福島では夕方5時(だったと思う)からテレビ放送をしていたのである。その日、番組の始まりを楽しみにしてテレビをつけると「ソ連でクーデター」という事態の緊急特番で番組が潰れてしまっていた。僕は大いに不満だったが偶然とは恐ろしいものでそのときはちょうど自由惑星同盟で救国軍事会議が軍事クーデターを起こす、というエピソードだったのだ。後々考えると実に絶妙でありまさに「事実は小説より奇なり」を地でいく展開だった。それまで国家が崩壊するなんてのは歴史として知ってても目の当たりにするとは思ってなかったしそれによる衝撃=今ある体制も永遠不変ではない、というのを思い知った出来事でもあった。
当時産まれた子供が現在二十歳前後。小学生の低学年ぐらいではまだ世界認識出来ないだろうからプラス6〜8歳ぐらいとすると現在の20代ぐらいの人はソ連の存在を肌で実感できる人は少ないだろう。ちなみに約10歳下の後輩に聞いたら「あったことは知ってるけど具体的には・・・」とのことだった。
以前にテレビでロシアの若者が「ソ連なんてよく知らない」というようなことを言っていたのを見たし、あのタモリを激怒させたことで有名なt.A.t.Uも
「ソ連なんてはるか昔のことよ。」
みたいなことを言っていた気がする。当のロシア人でさえそうなのだから日本人が知らなくても無理はないと思う(だからといってそれでいいとは思わないが)。
で、何でこんな事を長々書いたかというと、次のような記事(はてなハイク)があったから。
そこにブコメした勢いで書いてます。まあ、知らないからといって一概には責められないと思う。僕はソ連を例に出したけど、ユーゴスラヴィアの紛争についてはエミール・クストリッツア監督の「アンダーグラウンド」という映画に触れなければユーゴ紛争に興味を持つことは無かったかもしれないし、それでも全然知識としては少ない方だろう。
- 出版社/メーカー: パイオニアLDC
- 発売日: 2001/07/21
- メディア: DVD
- 購入: 1人 クリック: 275回
- この商品を含むブログ (110件) を見る
ところで話はガラッと変るが、ソ連は当時確かに「悪の親玉」だった。ハリウッド映画では悪役になっていたし実際対立のイデオロギーを無視してもスターリンのやったことは許されることではないだろう。しかしそのわりにSFやヒーロー物などでソ連をモデルにした架空の悪の組織などは少ないように思う。今僕がパッと思いついたのは「宇宙戦艦ヤマトⅢ」のボラー連邦ぐらいしか思いつかない。確か親玉がべムラーゼ「首相」なんだよな。ナチス・ドイツがジオン公国、ショッカー、銀河帝国(SW)など早々たる組織のモデルになっているのに比べると雲泥の差。華やかさが無いからかな、とここまで書いて「スタートレック」シリーズのカーデシア連邦もソ連がモデルだということに気付いた。閑話休題。
現在ではその崩壊を持って社会主義は失敗に終わったとも言われる旧ソ連(新ソ連があるわけではない)だがまだ、歴史の判断は早いようにも思える。実際現在のロシアではソ連時代を懐かしむ声もあるようだし(ただし「強いロシア」な時代、としてだろう)、社会主義革命それ自体は「高度に発展した資本主義社会」を想定して考えられたもので現在まだそういう国家(発展した資本主義国家が社会主義国になる)は存在しない。なによりじゃあ「帝政ロシア」時代の方がましだった、とは言えないだろう。先の僕の歴史の定義で言えばソ連の成立(1922)だってまだまだ歴史になっていない。
- 作者: 松戸清裕
- 出版社/メーカー: 山川出版社
- 発売日: 2005/12/01
- メディア: 単行本
- クリック: 30回
- この商品を含むブログ (5件) を見る