The Spirit in the Bottle

旧「小覇王の徒然はてな別館」です。movie,comics & more…!!!

旅半ばにして再び始まる… スター・トレック BEYOND

 さあお待ちかね。僕の一番好きなSFシリーズ、「スタートレック」の最新作!1966年のTVシリーズから続く壮大なシリーズを、でも新規ファンのために新しく作りなおしたその第3弾。でも一応シリーズとしても物語としても過去のシリーズときちんとリンクしていて、知らなくても楽しめるけど、古くからのファンにはもっと楽しめる、というある意味理想的な作品。前2作は序章とでもいうべきか、USSエンタープライズ号が5年間の深宇宙探査飛行に出る(つまりTVシリーズの本編)に至るまでを描いた話なのに対して、本作はやっと本編開始とも言えます。大体長く続くシリーズ(特に3部作とか決めてないもの)だと3作目ぐらいでやっとフォーマットが固まって以降の良くも悪くも定形が出来上がるのだよ。というわけで「スター・トレック BEYOND」を観賞。

物語

 23世紀、USSエンタープライズ号の人類初となる5年間の探査飛行も3年目を迎えた。惑星連邦領域辺境の宇宙ステーションヨークタウンに立ち寄ったクルー一行は一時の休息を取る。艦長ジェームズ・T・カークはヨークタウンの副提督となる異動願いを出していて、自らの任務に揺らぎを感じていた。一方スポックのもとには未来からやってきた自分〜スポック・プライムの死の知らせが届く。
 まだ知られぬ異星人の乗る救命ポッドがヨークタウンに流れ付き救出され、乗っていた女性のいうことにはまだ未知である星雲の向こうで挫傷し、そこにいるであろう仲間たちを助けて欲しいとのこと。エンタープライズがその任務につく。
 目的地と思われる惑星アルタミッドに辿り着いたエンタープライズ。しかしそこに無数の小型宇宙船が現れエンタープライズは襲撃される。乗り込んできた異星人の目的はどうやらエンタープライズに積んであった古代の兵器らしい。応戦虚しくエンタープライズは破壊され、墜落を余儀なくされる。救命ポッドで脱出するクルーたち。カークたちは無事脱出できるのか?そしてエンタープライズを襲った異星人の真の狙いは?

 前作の感想はこちら。

スター・トレック イントゥ・ダークネス [Blu-ray]

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 シリーズ全体の解説は前回結構な文量書いたので今回はできるだけ本作に絞って感想を。前作は2013年の自分のランキングでは実写映画一位でした(総合一位は「パラノーマン」)。新作のバックに広がる過去の作品からの引用やオマージュ、設定を活かした上で、でも知らなき人でも楽しめるという作品で、何度も言っているけれど、これはスポックたちが未来(24世紀)から過去(カーク生誕時点)にタイムトラベルしてきた事によって生まれた新たなタイムライン(スタッフやファンの間では遭遇したカークの父が乗っていた船の名前からケルヴィンタイムラインと呼ばれているらしい)で、パラレルワールドになっているものの、過去のシリーズともきちんと地続きなのです。この辺は「X-MEN」の1〜3作目とFCの関係とも似ているかな。もちろん知らなくても問題はないです。
 で、今回使用したポスターは映画1作目「スタートレック ザ・モーション・ピクチャー」(TMP)を意識したこちらを。今回もこのポスターにかぎらず過去作のオマージュ、引用、設定の再活用はたくさん出てきます。

 前2作はTVシリーズであるTOSの放送前にあたるいわば前日譚。本作はTVシリーズそのものの時代の出来事になります。
 前2作のJ・J・エイブラムスが製作に周り、監督は「ワイルド・スピード」シリーズのジャスティン・リンに交代。アクション映画を多く手がけた監督に変わったことで本作もよりアクションシーンが際立つ作品となった。元々このスタートレックの劇場版シリーズはTVでは無理だったSFXやアクションを!と言う期待と、でもTVの描写から離れすぎても変、というジレンマがあったのだが、ケルヴィンタイムラインになったことでその辺のジレンマは解消。宇宙での艦船による戦闘シーンでも、生身のアクションでも過去のシリーズとは段違いにテンポ良くなっていて、ある意味これが一番新シリーズの特徴ともいえるかも。
 リンは自身が熱心なトレッキーだそうで、その辺はエイブラムスとは異なるところ。トレッキーの脚本家が溢れる思いを脚本に込め、それをそれほどファンでもない監督が一般ウケするように演出する、というのがこの手の作品の妙ともいえる部分なのだが、さて、本作ではどうだったか。脚本はスコッティでもあるサイモン・ペッグが手がけていて、「宇宙人ポール」などでもスタトレ愛は炸裂していたが、その割にはまあ自分の出番も控えめであったかなあ(もちろん旧シリーズに比べると元からスコッティの出番は多い)。
 エンタープライズの惑星への不時着シーンは映画の「ジェネレーションズ」、設定的には「スタートレックエンタープライズ」とのつながりが強く、ラストには「スタートレックⅥ 未知への世界」とつながる。

 カークは前2作ほど血気盛んな若者という印象は薄くなり、よくも悪くも成長して落ち着きを増した頼れる艦長という感じに。今回は長きに渡る宇宙での艦長任務に疲れ地上勤務を願い出たりするのだが、これは「ジェネレーションズ」でカークがピカードにいう「どんな昇進の誘いがあろうと艦長の椅子から離れるな」というやりとりとの対比だろう。実は劇場版の「TMP」以降のカークって正確にはエンタープライズの艦長ではなく旗艦として乗船している提督なんだよね(艦長はスポックだったりする)。でTMPでも自分で指揮しないと気に食わなかったり上昇志向の強いカークだけど、その一方で宇宙船の艦長という立場にこだわっているのもカークなのだ。この手の艦長でいるか更に上の提督を目指すか、という話は後のTNGなどでも出てきて、ピカード自身はその時々に応じたやりがいがある、と艦長に椅子にこだわらない立場を示しながら、他の同年齢の士官が出世する中、現場主義を貫いたりして面白い。なので、ここでのカークの悩みが一時的な気の迷い、本当に宇宙ステーションの副司令官になったりしたら死ぬほど後悔するぞ!というのはファンならすぐ分かる。
 途中で、カークとチェコフ、スポックとマッコイ、ウフーラとスールー(&その他のクルー)、スコッティと新キャラクターであるジェイラと別れて物語が進むのだが、このなかでもスポックとマッコイのコンビがオススメ。元々TOSの会話劇としての特徴は熱情的な地球人であるマッコイと冷静なヴァルカン人(地球人とのハーフ)であるスポックが言い争ってその中間にカークが位置するのが基本だったのだが、これまでまだそこまでマッコイとスポックの会話は多くなかった。今回はこの二人がコンビとして組まされたことで、二人の会話とそれに拠る個性の違いも際立った。相反する性格の者同士が険しい自然を乗り越えていく様子は「ディープ・スペース・ナイン」の107話、フェレンギ人クワークと真面目な警備主任オドーが二人で苦労する「あの頂きを目指せ」を連想したりした。


 敵となるクラールは実は元は宇宙艦隊の人間で、連邦設立前、地球がズィンディやロミュランと争っていた頃に活躍した軍人であったが、惑星連邦が成立して以降、軍人という立場ではない宇宙艦隊士官としての立場に不満を持っていたところで未知の惑星で不時着したため連邦に恨みを募らせた人物。2009年の「スター・トレック」では未来から、「スタートレック イントゥ・ダークネス」ではカーンと言う過去から敵がやってきたが、本作も前作に引き続き過去から現れた敵ということになる。この時のロミュランはスタートレック世界では比較的有名な宇宙人*1だがズィンディは本作の約100年前を描いた「スタートレック エンタープライズ」で出てきたエイリアン。一つの惑星に複数の知的生命体が存在していてその連合体である。これらのロミュラン戦争やズィンディ騒乱を乗り越えて2161年に惑星連邦が成立するのである。前作でもマーカス提督がクリンゴンと間に戦争を起こして宇宙艦隊を軍隊にしようと企てていたが、そこでも分かる通り宇宙艦隊は純軍事的な存在ではない。防衛だけでなく多種族との外交、宇宙の探査、研究なども重要な使命だ。クラールは元は軍人だったがそこから軍人でない立場になったことで不満を募らせたパターンで前作のマーカス提督の裏表といったところ。
 クラールは他の生物の生命エネルギーを吸収することで長生きし容姿を変化させていたという設定なので幾つか姿形があるのだが、どれも個人的にはいまいち。典型的なハリウッドの爬虫類型人間の造形という感じ。演じているのはイドリス・エルバだが、かなり後半になるまでそうとは気づかない。ちょっともったいない感じ。前作のクリンゴンもそうだが、宇宙人の造形にかけては旧シリーズの方が独創性に富んでいたとは思う。
 新キャラジェイラは「キングスマン」で義足の女殺し屋ガゼルを演じていたソフィア・ブテラ。こちらも全面真っ白なメイクで彼女だとは気づかないぐらいだったけれど、一人でサバイバルしながら生きてきた、ちょっと変な感じが伝わってきて良かったです。今後レギュラーキャラクターになるんだろうか?彼女の提案から始まった音楽を大音量でかけて敵の連携をぶち壊すシーンはちょっと「マクロス」シリーズ」っぽくても面白かった。

ヒカル・スールー

 公開前にいろいろ話題になっていた要素の一つにスールーが同性愛者として描かれる、というものがあった。ヒカル・スールーは人気キャラクターで「スールー艦長率いるエクセルシオールの冒険を描いたTVシリーズを作ろう」署名運動などもあったほど。オリジナルシリーズでスールーを演じたジョージ・タケイはアメリカの俳優の中でも早く同性愛者としてカミングアウトした人物で、かつ、第二次世界大戦中には日系人収容所に入れられた過去も持つことからアジア系の社会的地位の向上を訴えてきた人でもある。そんなジョージ・タケイへのリスペクトを込めての設定なのかもしれないけれど、ジョージ・タケイ自身はこの改変に否定的なコメントをした。もちろん作品中に同性愛者を出すな、ということではなくて、出すなら新しい登場人物として出せばよいのであって、違う設定だったキャラを無理やり同性愛者にするのはいかがなものか。というのがタケイの主張だろう。僕も半分ぐらいはこの意見に近くて、スタートレックに同性愛のキャラを出すのは全然いい、いやこの作品のコンセプトからしたらむしろレギュラーキャラクターでいないのはおかしいくらいだ、とも思う。ただ一方ですでに確立されたキャラの設定を変えるのではなくて、出すなら新しいキャラにするべき。ちなみにタケイはジーン・ロッデンベリーの設定に忠実で、日本ではTV放送された時の吹替版からスールーはミスターカトウとしても知られているのだが、本人はこの名前には不満だそうだ。スールーはフィリピンのスールー海に由来し、設定もフィリピンと日本をルーツに持つアメリカ生まれ。これをカトウだけにして日本人(日系人)の部分だけ強調するのはロッデンベリーの趣旨に合わない。だからもちろんこの改変に否定的なタケイの意見もロッデンベリーの設定に忠実に行こうよ、というだけなのだと思う。

 ただ、出てきた描写はヨークタウンで待っている娘と同世代の若い東洋系男性というだけでにとどまり特に細かく説明されるわけではない。言われなければ、この男性とスールーが恋人だとも思わない人も多いのではないだろうか。どうなんでしょう?今後シリーズが続くとより詳細に描かれたりするんだろうか?ちなみにこのスールーの娘さん、おそらく名前はデモラ・スールーで、後にエンタープライズBのクルーとなります(ジェネレーションズ)。

 この作品は二人の人物に捧げられていて、一人は交通事故で亡くなったアントン・イェルチン。そしてもう一人はオリジナルのタイムラインからやってきたスポックであるレナード・ニモイ。カークが自分の進むべき道を見失って地上勤務を望んだように、スポックもこのスポック・プライムの死を知ってニューヴァルカンでの彼の仕事を引き継ごうと揺れることとなる。彼の遺品の中にはエンタープライズAのクルーの集合写真があり、それは映画「スタートレックⅥ未知の世界」時のもの。ニモイのスポック以外でもきちんとウィリアム・シャトナーはじめ、オリジナルのクルーがケルヴィンタイムラインに登場したことに。

 本作はTVシリーズで言うところの第3シーズン、あるいは打ち切られなかったら続いていたかも知れない第4シーズンにあたるエピソードなのだが、オリジナルより早くエンタープライズが失われ、ラストは同じ名前を受け継ぐUSSエンタープライズAが建造されているシーンで終わる。ここからはTOSでは描かれることのなかったTOSとTMPの間をつなぐ物語となるだろう。すでに続編の企画は上がっていて、クリス・ヘムズワースのカークの父が再登場するらしい。ヘムズワースはMCU主演俳優では当時無名に近くて、この2009年の「スター・トレック」で父カークを演じて注目されたということなので今だともっと出番も多くなるか?
 アントン・イェルチンが亡くなったことでチェコフがどうなるのだろうか。役自体いなくなるのか、別の役者に変わるのか。
 後はTVシリーズのほうが23世紀の宇宙艦隊アカデミーを舞台にナンバーワン(TOSパイロット版でメイジェル・バレットが演じた女性副長)をメイン主人公とした新シリーズが待機していると言われています(どっちのタイムラインなのかは不明)。50週年を迎えて、スタートレック宇宙はまだだ広がるぜ!
Engage!
レナード・ニモイアントン・イェルチンのご冥福を祈ります。

LIVE LONG AND PROSPER

Space...the final frontier.
These are the voyages of the Starship Enterprise.
Its five-year mission : to explore new worlds,
to seek out new life and new civilization,
to boldly go where no man has gone before...
 

宇宙――それは人類に残された最後の開拓地である。
そこには人類の想像を絶する新しい文明、
新しい生命が待ち受けているに違いない。
これは、人類最初の試みとして5年間の調査飛行に飛び立った
宇宙船U.S.S.エンタープライズ号の脅威に満ちた物語である。

ラストはクルー全員がそれぞれこの有名なナレーションを一節ずつ語りかける。まだ冒険は始まったばかりだ。

*1:バルカン人とルーツを同じくする宇宙人で22世紀に地球と戦争状態になった

トリックスター多くして船山昇る? スーサイド・スクワッド

 例によってお久しぶりでございました。さて、今年のアメコミ映画を締めるのはDCエクステンデッドユニバース(DCEU)の「スーサイド・スクワッド」となります。とはいえこちらももうほとんど公開は終わっているのかな。いっそ「シビルウォー」みたいにソフト発売まで書くのを待とうかな?とかも思ったりしたけれど、まだ記憶が残っているうちに感想を書こうと思います。世間での評価は映画そのものはいまいちだけどキャラ、特にハーレイ・クインは最高!という感じだったのかな?DCEUとしては第3弾。アメコミ映画としてもちょっと特殊なヴィラン大集合の映画「スーサイド・スクワッド」DEATH!

物語

 スーパーマンの死によって緊張感を増す世界。特殊な力を持つメタヒューマンの存在も多数確認されるようになってきた。スーパーマンは味方だったが、スーパーマンと同じような力を持つものが敵だったら?米国の秘密機関ARGUSの高官アマンダ・ウォーラーは塩漬けになっていた計画「タスクフォースX」を進めようとする。それは一筋縄では行かない犯罪者たちによる特殊部隊。計画の要となるのは古代の魔女〜現在は発見した考古学者ジューン・ムーン博士の中にいる〜エンチャントレスの存在。アマンダは彼女の心臓を手にすることでエンチャントレスを操ることに成功。エンチャントレスの監視・警護役リック・フラッグ(ムーン博士と恋に落ちたがこれもアマンダの計算のうちだ)を指揮官に選ばれたのは一癖も二癖もある犯罪者たち。しかしエンチャントレスはアマンだとフラッグを欺いて弟を復活させ、ミッドウェイシティ駅を占拠する。
 要人の救出を目的として集められた犯罪者達によるタスクフォースX。狙撃の達人フロイド・ロートン=デッドショット、元精神科医で犯罪王子ジョーカーの情婦ハーリーん・クインゼル=ハーレイ・クイン、ワニのような肌と力をもつミュータントウェイロン・ジョーンズ=キラークロック、オーストラリアからやって来たブーメラン強盗ディガー・ハークネ=キャプテン・ブーメラン、人体発火ギャングチャト・サンタナディアブロ、投縄の達人クリストファー・ワイス=スリップノット。そして彼らが裏切った時の処刑人として夫の魂が込められた刀をふるうカタナがいた。各々それぞれの条件を付け参加。ミッドウェイシティに向かう。そこで出てきたのはもはや人とも言えない敵だった!決死部隊(スーサイド・スクワッド)の運命や如何に!そしてハーレイを取り戻すべくジョーカーも…

 DCEU第三弾はかなり毛色の変わった物となった。主役級の二人デッドショットとハーレイクインにウィル・スミスとマーゴット・ロビーの「フォーカス」のコンビを迎え、その他にも豪華な人物を迎えたピカレスクロマンとなった。やっぱり「バットマンVSスーパーマン ジャスティスの誕生(BVS)」で唐突にバットマンが登場した印象は拭えず、バットマンの主演映画を間に作ったほうが良かったんじゃないかな、とは思うのだけど、DCEUの闇鍋感は今回も健在。冒頭でくどいようにキャラクター紹介されてるにも関わらず、なんか必要な描写入れ忘れてないか?ッて思うような展開も多い。
 冒頭にアマンダ・ウォーラーが他の高官に説明する形で各キャラクターの紹介映像が順繰りに出てくる。デッドショットのプロフェッショナルな仕事ぶり、娘を溺愛しつつバットマンに捕まる顛末。ハーレイがどのようにしてジョーカーに魅入られてハーレイクインとなったか。そしてバットマンに捕まる顛末。ブーメラン野郎がフラッシュに捕まる顛末エトセトラエトセトラ…
 僕なんかは「うへえ。これ全員分やんのかよ」とか思ったのだが評価は様々で「この紹介シーンは最高だったけど本編は微妙」と言う意見も多いみたいだ。僕は逆にこの紹介映像はたるかったけど、本編始まったらそれなりに見れたと思ったのだが。
 監督はデヴィッド・エアーで僕はこの前にシュワルツェネッガー主演のやはりちょっとイカれた麻薬取締部隊を描いた「サボタージュ」を劇場で観ている。あの時は「シュワ主演で『ダークナイト・リターンズ』を実写映画化すればいいんじゃないかな?」とか書いたのだが、程なくDC作品を手がけることとなった。もちろんバットマンベン・アフレック)も出てきます。
 この作品はマーベルの方の「デッドプール」とよく比較されるが、確かに共にアンチ・ヒーロー映画ともいえる代物だが、あちらはR指定だったのに対してこちらは全年齢の模様。そのせいか、悪党を主人公にしてる割には描写がぬるい、というような意見も見られた。日本では公開が遅れたが、本国ではほぼ同時期公開。先に「デッドプール」の成功を受けて制作したのだったら、こっちもR指定上等でもっと表現もキャラの設定も過激になっていたかもしれない。

 主役となる悪党たちは長い歴史を持つDCユニバースのヴィランたちで、ヴィランと言っても世界征服を狙うとかそういうのよりは犯罪者がメインなので、中心となっているのはバットマンを宿敵とするキャラクターたち。後はアーカム精神病院行きよりはもうちょっとまともなタイプか(彼らが収容されているのはベル・レヴという刑務所)。主人公格はデッドショット。バットマンヴィランの一人で百発百中の腕を誇る殺し屋。原作では白人だが、今回は黒人のウィル・スミス。オレ様であるウィル・スミスが演じるということで悪党としては骨抜きにされているんじゃないかと不安視されていた。それは半分ぐらい的中と言う感じか。今回は敵が超常現象的な存在になっているので作戦自体でそれほど悪党と言う感じはしない。ただ娘を溺愛しつつ、別れた妻のことはロクデモナイ奴ぐらいに思ってるのはなんか家族だけは偏愛しつつ、他者には思いっきり冷酷になれる悪人という感じはする。バットマンは娘と一緒にいるデッドショットを襲撃して捕らえる。このシーンでも「バットマンならそんな酷いこと(娘の前で父を捕まえる)しないのでは?」という意見も見たが、この娘(ラストにも出てくる)の年齢からして、それほど昔の出来事ではなく、スーパーマン登場によってより自警行為が過激化したバットマンのしわざと考えればそれほど矛盾はしないのでは?と思う。

 後は個人的にお気に入りのキャラクターはキャプテン・ブーメラン。コミックスの方では主に「フラッシュ」の宿敵の一人でブーメランの達人だが常人。僕は詳しく知らないがオーストラリアからやってきた犯罪者という設定はそのまま。演じているのがなぜかハリウッドで抜擢され続けている印象のあるジェイ・コートニーで、他には「ターミネーター:新起動」ではカイル・リースを演じている。悪い役者とは思わないが、これといって華があるわけでもないのでアクション大作で主人公のヒーローを演じるのは結構見てるほうが辛かったり。ただ今回のブーメラン野郎は最低すぎて最高!今まで見た中でもベスト・オブ・ジェイ・コートニー志はなく、すきあらば酒を飲み、自分でヤる前にまず他人に試させ(スリップノットあえなく死亡!)、コトあればまっさきに逃げ出し、手当たり次第に女を口説き、そしてユニコーンののぬいぐるみを大切に肌身離さず持っている。ハーレイやデッドショットがある程度主人公としての制約を背負っているのに対し全然大物ではないけれどそのチンピラぶりがいっそ清々しいです。あとフラッシュが出てくるんだけど、正直日本の特撮ヒーローみたいなデザインは90年代のTVドラマ版や今も展開してるTVの「FLASH/フラッシュ」に比べるとダサい……まあ来たる単独主演のタイトル作での見せ方とかで今後いくらでも印象は変わると思うけれど。
 今年のハロウィンでもおそらく仮装人気が高いであろうハーレイクインは1992年のブルース・ティムによるアニメ「バットマン」のオリジナルキャラクター。ヴィランとしては最も古いキャラであるジョーカーの情婦というありそうでなかったキャラクター。アニメ「バットマン」を象徴するキャラクターでその人気から原作コミックのほうにもすぐに登場することとなった。
 今回の映画ではもうキャストと彼らが扮した姿を見た時点で個人的には及第点な作品だったのだが、その中でも一番はやはりハーレイということになるのだろう。ただ僕にとってはやはりハーレイはブルース・ティムの描くものこそベスト。劇中でもちょっと出てくるが全身タイツのピエロ姿のハーレイがいいんですよ。アメコミの場合多くの作家によって描き綴られていくのが普通なので、その時代その人それぞれのバットマンやジョーカーがあっていいのだが、ハーレイだけはブルース・ティムの絵柄じゃないと受け入れづらいのです。
 映画ではクライマックス近くエンチャントレスによって自身が理想とする世界を幻覚として見せられてハーレイの場合薬品槽に落ちることなく素顔のハーレイとジョーカーが幸せな家庭を築く、というものなのだが、これはちょっと解せませんでしたね。多分この幻覚はコミックスの「MAD LOVE」(アニメの人気を受けてブルース・ティムポール・ディニがコミックスとして書き下ろした作品で後にアニメ化された)での似たようなシーンが参考にされてるのかな?と思うんだけれど、こっちはきちんと漂白されたジョーカーと悪党として夫婦生活を営んでいる妄想なのですよ!なのでそんな健全な家庭を理想とするハーレイはおかしい!

 今回は「バットマン」シリーズだけでなくアメコミを代表するヴィランである犯罪界の道化師ジョーカーが出てくる。実写作品では「ダークナイト」のヒース・レジャーの強烈なジョーカーの後を受けてなので演じたジャレット・レトも大変だったと思うのだけれど、ヒースやジャック・ニコルソンのジョーカーとは別に新たなジョーカー像を描いていたと思う。今回のジョーカーに関しては出番が少ないとか邪悪さが足りないとか文句も出ているけれど、出番がそんなに多くないのは予告編見れば予想はつくだろうし、これまでの実写映画での一本限りの出演となる悪党ジョーカーと比べると今後もちょこちょこ他のDCEU作品に顔を出しそうなジョーカーはどちらかと言えばコミックスやアニメのジョーカーに近いのではないのかと思う。あのくらいの身軽さ(設定的にもアクションとしても)でむしろ良かった。「ダークナイトトリロジー」でのスケアクロウみたいなメインを張るというよりはいろんな作品で気軽に悪を働く感じ。ジョーカーはこの30年くらいでちょっと邪悪な存在になりすぎた。その邪悪さと存在感の大きさと引き換えにかつて持っていた自由さを失ったような気もする。ジョーカーがハーレイにあんなに執着するのはおかしいのではないか?と言う意見も見たが、個人的にジョーカーは自分が興味をもつうちは自ら奪還しにも行くし飽きればあっさり撃ち殺すタイプだと思う。
 で、今回は紹介編でもあるのでジョーカーの情婦という側面がクローズアップされているが、個人的にハーレイクインの魅力が発揮されているのはジョーカーと居るよりもポイズンアイビーと一緒に居る時。ハーレイはアイビーの前では幼児性を全開にするし、アイビーもそんなハーレイの前ではいつもの冷たい側面が緩和して丸くなる。

 ポイズンアイビーは昔からいるキャラクターだが、ハーレイの他にもブルース・ティムの作りだした女性キャラクターは全部魅力的で「スーパーマン」の方のライブワイヤーやロキシー・ロケットもそれぞれ魅力的。そしてすでにDCEUでは死んでしまったマーシー・グレイヴスも…(ザック許すまじ!)

 アマンダ・ウォーラーはある意味でこの映画の一番の悪人というようなキャラクターでそのふてぶてしさが憎々しい。このアマンダ・ウォーラーは個人的にバットマンと並ぶDCユニバース最強の常人と言うイメージもあって、あくまで個人事業として犯罪者と戦っているバットマンブルース・ウェインと比べると国を動かして具体的に大作に取り組んでいる女傑。映画ではいろいろ説明がハブられている部分もあるのだが、この人は夫を犯罪で亡くした後5人の子供を育てながら自分も大学に行って政府の高官まで上り詰めた人である。彼女の鉄の意志はそのあだ名ザ・ウォール(壁)」からも明らかであろう。そんな彼女なので口封じにスタッフを自ら射殺するようなシーンが必要だったかはともかく、最後は彼女を殺して大団円とするのはちょっと違うだろうと思うので彼女は厳然としてそこに存在するラストで良かったと思う。

 この映画は予告編が最高によく出来ているので、その期待のまま観るとちょっとテンポが悪い、と感じてしまうかもしれない。クイーンの「ボヘミアン・ラプソディ」はじめとした楽曲の使い方はかなりベタなんだけれど、多分自分がセレクションしても似たような感じになりそうな気はする。 自分的にはここまでで作られたDCEU作品の中では一番好きです。MCUにはない混沌さは健在。こじんまりとした話かと思ったら意外と無駄に壮大だったのも悪くない。待っている「ジャスティス・リーグ」への橋渡しとしても良かったと思います。ただジョーカーのロビン殺しとか「BVS」時点で臭わせる必要はなかったよ。
 今後は「ワンダーウーマン」「フラッシュ」「アクアマン」が待機。「ワンダーウーマン」は第一次大戦をメイン舞台に「BVS」の前日譚的な作りになる。MCUで言うところの「キャプテン・アメリカ ファースト・アベンジャー」のような立ち位置になるんですかね。後は本作のラストでも「ジャスティス・リーグ」への布石が。個人的には「ワンダーウーマン」がDCEUのなかでは珍しいくらい「きちんとした」作品になりそうな気がします。 さて、批判の一つとして、なんでこの事態においてバットマンたちスーパーヒーローが出張ってこないの?という意見も見たのだが、(それ言ったらヴィランによるチームって設定が成り立たないだろってのは置いといて)簡単にいえば舞台となるミッドウェイシティはゴッサムでもメトロポリスでもセントラルシティもないからだよ!*1

*1:ミッドウェイシティはホークマンホークガールのホームタウン。DCEUにこの二人が出てくるかは不明

超合神Sの黄金魂! キング・オブ・エジプト

吉村作治林完治で踏める!
 一口に神話と言ってもよく知られているギリシア神話北欧神話、日本神話などは「神統記」「スノッリのエッダ」「古事記」など個人やあるいは国家事業としてまとめられた書物が伝承の主となっていることが多いので割りと秩序だっているのだが、最も古い神話であるエジプトやメソポタミアの場合、そういうまとまった事蹟が少ないため混沌としている印象が強い。特にエジプト神話はその混沌とした部分が魅力となっているような一面も。エジプト神話を題材とした「キング・オブ・エジプト」を観賞。

物語

 まだヘリオポリスの神々と人間が共存し、神が人間に直接君臨し支配していた神代のエジプト。国王であるオシリスはその息子ホルスに王の座を譲ろと考えていた。その儀式の最中オシリスの弟で砂漠を治めるセトはオシリスを殺し、ホルスを倒して王の座を手に入れる。
 セトの圧政が始まり、奴隷となったこそ泥のベックとその恋人ザヤはセトの宝物を奪おうとするが失敗、ザヤは殺されてしまう。今や神の目を失い追放されたホルスと出会ったベックはザヤの復活を条件にホルスの王座奪還に協力する…!

 まずは題名。原題は「GODS OF EGYPT」で、文字通り「エジプトの神々」なのだが、なぜか邦題は「キング・オブ・エジプト」とスケールダウン。日本で宣伝したりタイトルを付けるにあたり、いろいろ意見はあるだろうけど、盛るのはまだ分かる。でもなぜ小さくまとめる?そりゃ確かに「エジプトの王」って言葉も何度も出てくるんだけど「ゴッド・オブ・エジプト」でも十分格好いいタイトルだろう。ポスターでもオリジナルの抽象的だけど格好いいやつから色いろあるんだろうけど、日本のそれはかなりださい。そして予告編もなんか神話の話でなくて一応史実に基づいてますよ、みたいな感じになっていて非常に疑問。セトやホルスが出てくるし、予告編でも大蛇やスフィンクスが出てくるからあくまでファンタジーってのは分かるだろうけど、なんか神話モノじゃないよ、って思わせたい感じがしてよくわからない。
 話のほうはエジプト神話の最初の方、オシリスとイシスの国造りを経てのセトとホルスの王権争いを題材に到底史実ではありえないような壮大なビジョンが繰り広げられる。この映画だけ見てもかなりめちゃくちゃで混沌とした物語なのだが、それでも実際のエジプト神話に比べると結構整理されていると思います。
 監督はアレックス・プロヤスブルース・リーの息子ブランドン・リーの遺作となったジェームズ・オバー原作の「クロウ/飛翔伝説」(大好き!)を手がけた人。「クロウ」が公開当時その暗さに対して「ティム・バートンの『バットマン』は『クロウ』に比べたら100W電球の下で撮られたように感じる」と言われたぐらいダークな画作りを作風としていた人。これは単に画面が暗い、というだけでなく物語含め映画そのものの雰囲気が陰鬱、ということだ。その後もSF大作を撮っているが総じて暗めだ。だが、本作は暗さとは無縁!むしろ眩いばかりの光に包まれている。神々は黄金に輝く。もちろん暗めのシーンもないではないが、作品全体として黄金に輝く映画、という印象を持つだろう。
 そのまるで車田正美の「聖闘士星矢」に出てくる黄金聖闘士が黄金聖衣をまとったかのようなビジュアルで、やはり北欧神話を題材とした「マイティ・ソー」なんかを彷彿とされる。というかですね、一応古代の地球のエジプトが舞台ということになっているけれど、これが地球とは別の惑星の物語で、セトに敗れ神としての力を失って地球に追放された神ホルスがニューメキシコの砂漠でナタリー・ポートマンと出会う、って話だとしてもなんの違和感もない感じです(実際マーベルにはアスガルド北欧神話)やオリンポス(ギリシア神話)に次ぐぐらいの感じでヘリオポリスの神々も出てきます)。

 エジプトの神々の映画だが、何故かアテン神*1の壁画のアップから始まる辺り、この映画のいい意味での適当さが冒頭から炸裂しているのだが、やはり主要キャラとなるのは比較的有名な神々たち。日本神話でのイザナギイザナミに当たるオシリスとイシス、その兄弟であるセトとネフティス。ホルス、ハトホル、トート、アヌビスなどが登場する。神々は人間に比べて1.5倍から2倍ぐらいでかく、人間の姿をしているがそれは本性でなく、まるでロボットのようなメカメカしい正体を持っている(ポスターの画がそれ)。
 主人公は王の弟であるセトに敗れ、追放された王子ホルスで、物語自体は典型的な貴種流離譚ともいえるのだが、まあホルスはそんなに魅力はない。遊び人系のハンサム(演じるのはニコライ・コスター=ワルドービル・プルマンアーロン・エッカートを足して割った感じ)だけどもう一人の主人公ベック共々あんまり強い印象は残さないタイプ。まあいわゆる分かりやすいヒーローなので深みに欠ける。これは割りといろんな映画で見られ、主人公で金髪のハンサムなんだけど全然印象に残らない人。「センター・オブ・ジ・アース」2作のジョシュ・ハッチャーソンなんて全然印象に残らなかったものなあ(その後「ハンガー・ゲーム」で人気爆発!オレの中で)。
 やはり登場する神々の中でも最も強い印象を残すのはセトだろう。

 セトはオシリスの弟で砂漠の多い上エジプトの神だとされる。砂漠の砂嵐を象徴する荒々しい戦争の神でツチブタの頭を持つともいわれるが残っている壁画のセトの画像は獣頭人身が多いエジプトの神々にあって、特定の動物に当てはまらない合成された架空の獣であるともされる。ホルスとの王権争いも80年近く続いていて、時には和解して一緒に寝たり(キーワード「レタス」)、あるいはホルスがトチ狂って母親イシスを殺したりもうめちゃくちゃ。映画はある程度スッキリまとめている。
 僕がセト神を知ったのはやはり北欧神話のロキ同様、ゲーム「デジタル・デビル物語 女神転生」のボスキャラとしてでその後ゲームの原作である西谷史の「女神転生」「魔都の戦士」「転生の終焉」を読んだ。なのでセトというと蛇の姿をした神様、というイメージも強いです。
 邪神として扱われることも多いセト神だが、元々強い戦争の神ということで軍人には人気があり、第19王朝ではついにセトの名を持つ王も誕生する。セティ1世がそれで「セト神の君」の意味を持つ。彼が父*2の跡を受け継いで第19王朝を安定させ、息子であるラムセス2世の繁栄の時代の礎を作ることとなる。
 セトを演じるのはレオニダス王ことジェラルド・バトラー。暴君ということになっているが圧倒的なカリスマで映画を支配する。ほぼキャラクター的にはレオニダスと変わらず、武力を頼みに頂点を目指す。父であるラーの愛情を欲していたとか細かいところはあるがもう「超合神」という肩書の上では全てが無意味。「クロニクル」の「頂点捕食者」と並ぶイカれた肩書。実質的主人公です。やはり「女神転生」で知った北欧神話題材の「マイティ・ソー」のロキは元祖トリックスターともいわれる口の旨さやヘタレた部分も見せる繊細さも魅力だったが、こちらは繊細さなど微塵も感じさせない豪快さん。あれだねロキがデスラー総統だとすればセトはズウォーダー大帝。ちなみにデスラーのネーミングは英語の「デス(死)」とエジプト神話の「太陽神ラー」の合体で「死の太陽」みたいなイメージで付けられたらしい。

 その他神様にはハトホルに「G.I.ジョー バック2リベンジ」でスネークアイズの相棒であるニンジャのジンクスを演じたエロディ・ユン。今回はアクションこそないが、名前の通り(失礼!)エロいシーンも多いです。一応ホルスに対してのヒロインでもあるのだけれど、普通に本人が強いのであんまり守られてる印象は無し。
 知恵の神トート神(トト神)はブラックパンサー=ティ・チャラことチャドウィック・ボーズマン。俗世より知識の探求の方が大事という浮世離れした感じのキャラクターだが、飄々としてユーモアもあり、セト以外ではこの映画イチオシのキャラクター。
 そしてオシリスやセトの父親で一番えらい神様であるラーを演じるのがジェフリー・ラッシュ。ラーは太陽神でもあるが、毎夜宇宙の彼方からやってくるアポピス撃退のため疲れ果てた老人という感じ。このアポピス退治にも神話ではセトは関わっていて、割りと神話の根幹的な部分はちゃんと生かされている。本来敵対するセトとアポピスだが、後世になると同一視されるあたりも映画に反映されている?ラーも神話だと最高神なのにボケ老人扱いされたりするんだよな。イメージとしてはそのボケ老人としてのラーぽくもあります。

 人間側の主人公ベックを演じるのはブレントン・スウェイツで、誰かと思ったら「マレフィセント」のフィリップ王子。あの王子様も別にいてもいなくても良かったようなキャラクターでほとんど印象に残っていなかったが、本作でも特に印象には残らず。写真だけ見ると愛嬌あるハンサムなんだけどねえ。次回作は「パイレーツ・オブ・カビリアン」の新作だそうでまた印象に残るのは難しそう。そのベックの恋人であるザヤはコートニー・イートン。スタイル抜群だけどルックスは妙に幼い感じで「マッド・マックス 怒りのデス・ロード」のイモータン・ジョーの花嫁の中での末娘フラジール。僕の中では「海の向こうのふみカス(清水富美加)」ということで定着している。中盤はずっと死んでいるのでそんなに出番は多くないがただか弱いだけでなく、芯の強い部分も見せてくれる。この人はオーストラリア出身だが、ヴァネッサ・ハジェンスとかと同様、様々な人種の血を引いているのでエジプトにいても違和感はなし。今後の活躍も楽しみ。「MMFR」といえば花嫁仲間だったアビー・リー・カーショウも出てます。
 人間側でセトの腰巾着的な小者にルーファス・シーウェル。こういうコスチューム劇での悪役はもはや安定した匠の域に達している感もありますな。

 早くも一部ではカルト的な人気を集めているように思うのだけれど、凄い完成度の高い作品かといえば全然そんなことはないです。監督のアレックス・プロヤスの個性も発揮されているかといえば全然ないし。ただ作品全体に漂う混沌としつつ有無を言わせぬパワー炸裂みたいなものは題材となっているエジプト神話そのもの、という感じもあるので劇場で圧倒されてほしいなあとも思う次第。

キング・オブ・エジプト

キング・オブ・エジプト

古代エジプトうんちく図鑑

古代エジプトうんちく図鑑

エジプトはナイルの賜物!

*1:太陽から降り注ぐ光線(手)を神格化した神で、第18王朝のアクエンアテンがこのアテン神を唯一絶対の神としたことで世界初の一神教とも言われる

*2:ラムセス1世。余談だが第18王朝はアクエンアテンのアマルナ改革や有名なツタンカーメンの時代の混乱を経て弱体化していたところを直接王家と関係ないホルエムヘブがファラオとなって立て直した。ホルエムヘブには男児の跡継ぎがいなかったため部下で盟友だったラムセスにファラオを譲り第19王朝が誕生する。血筋の上ではホルエムヘブは第18王朝最後のファラオ(王女を娶っていた)とされることが多いが、実質的には第19王朝最初のファラオといったほうが正しいように思う

超人たちの内戦、凡人たった一人の戦争 シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ

 2016年も後残り3ヶ月、というところまで来ましたが、多分もう今年の映画ベスト1はよほど凄いのが現れない限り「シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ」で決まりなわけです*1。で日本公開初日に観てその後もGW中含め計6回ぐらい観て、ブログやツイッターでも絶対感想書く!と言いながら(その中にはソフト発売までには、という今となっては虚しい言い訳も)、結局ソフト発売後のこの時期までずれ込んでしまいました。映画の感想が億劫になってきた背景には使用しているパソコンの調子が著しく悪い、というスペック的なこともあるのですが、とりあえず僕のモチベーションが下がっているのは確かで改めたいものです。あんまりおもしろく感じなかった作品の方は負のパワーが炸裂するのか結構楽だったりするんですけど、面白いと感じた作品ほど感想書くのが辛かったりします。12月にはとりあえず劇場鑑賞作品リストを作りたいと思いますが、今年は劇場で観た作品の3本に1本ぐらいしか感想は書いていないでしょう。ただ、「シビル・ウォー」含めアメコミ映画感想は絶対書くぞ!ということで遅ればせながら、感想です。ソフトも発売されているのでいつもよりもさらにネタバレになると思います。マーベル・シネマティック・ユニバース、フェイズ3開始!
*レギュラーキャストについてなどいろいろ追記しました。そこそこ文量増えたので一度読んだ方ももう一度読んでくださると嬉しいです。

物語

 ソビエト連邦崩壊前夜の1991年、シベリアヒドラがウィンターソルジャーを眠りから起こし、あるターゲットを狙わせる。ウィンター・ソルジャーは見事にそれをやり遂げ目的の品を奪取した。
 現代。ブロック・ラムロウ〜今はクロスボーンズと名乗る〜の情報を手に入れたアベンジャーズはナイジェリアのラゴスでその行動を追う。アベンジャーズはクロスボーンズの狙いであった生物兵器の奪取の阻止に成功するが、クロスボーンズは自爆。その爆発はスカーレット・ウィッチによって防がれたに見えたが、爆発にはワカンダのボランティアが巻き込まれ多数の死者を出した。
 アベンジャーズのもとに国務長官ロス将軍が訪れる。NY、ワシントンDC、ソコヴィア、そしてラゴスアベンジャーズやヒーローたちが活躍し世界を救った時、同時に多数の救われなかった人たちがいる。世界はアベンジャーズを危険視している。ロスはアベンジャーズの活動を国連の管理下に置き活動を制限するソコヴィア協定のことを告げる。従わなければ引退してもらう、と。協定に従うべきだとするトニー・スタークと反対するキャプテン・アメリカ
 ウィーンでの協定調印の日。爆弾事件が置きワカンダ国王が死亡する。犯人はバッキー・バーンズ=ウィンター・ソルジャーだと特定された。ワカンダの王子ティ・チャラは復讐を誓い、親友を信じるキャップたちは独自にバッキーの行方を追う。ウィンター・ソルジャーを巡ってアベンジャーズが分裂する!そして全ての影にはジーモという一人の男が暗躍していた…

 前作「キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー」の感想はこちら。

-受け継がれる盾、蝕まれるシールド キャプテン・アメリカ ウィンター・ソルジャー

アベンジャーズ:エイジ・オブ・ウルトロンの感想はこちら。

-人を、神を、そして機械を超えて アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン

 映画のタイトル「シビル・ウォー」は直訳すると「市民の戦争」だが、要するに「内戦」のこと。一つの国の中で二分された勢力による戦争を指す。一般名詞で例えば日本の戦争でも「戊辰戦争」とか「西南戦争」なんかは「日本のシビル・ウォー」と言う扱いである。ただアメリカで一般に「The Civil War」といった時、それは殆どの場合「南北戦争」を指す。1861年から4年間続いた南北戦争はその後のアメリカが関わったどの対外戦争よりも死傷者を出した戦争で、特に焦土作戦によって荒廃した南部が戦争前の状態まで回復するのに1世紀近く(つまりWW2後)かかったとも言われていて、多分「シビル・ウォー」という単語の響きは下手な対外戦争より強烈で大きいだろう。
 監督は「キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー(以下「CA/WS」)」から引き続きアンソニージョー・ルッソ兄弟。この後の「アベンジャーズ3」も監督するそうで今後のMCUをけん引する役割も担う。観た人の中では「これはアベンジャーズ2.5だ」というような意見も観た。確かに「アベンジャーズ エイジ・オブ。ウルトロン(AOU)」で起きたソコヴィアでの出来事からつながっていたり、アイアンマンはじめこれまで登場した、そして新登場する多数のヒーローが出てくることから一見キャプテン・アメリカ単独主演というよりはアベンジャーズの物語という気もする。ただやはり全体通して見るとこれは「キャプテン・アメリカ」の物語でむしろ「アベンジャーズAOU」が「キャプテン・アメリカ2.5」とでもいう感じなのではないかと思ったりした。
 この映画のベースとなっているのはやはり同タイトルのコミックスで基本的には別物語だが、スーパーヒーローの活動を政府の管理下に置くべき、という動きに対してそれぞれ賛成・反対の立場でアイアンマンとキャプテン・アメリカを軸としてヒーローたちが対立するという構造は一緒だ。この場合の内戦はアベンジャーズ内部の分裂抗争、という形をとるが、2つのアメリカ的価値観のぶつかりあいでもある。
 物語的には公開は後だが、先に感想を書いた「バットマンVSスーパーマン」もほぼ同じような話で、超人たちの活躍を称える一方、危険視もしてその活動を制限するかどうかを決めるときに爆発テロが起きてしまう。ただあちらDCEUはあの時点でまだ2作目であり、スーパーヒーローと言うのがほぼスーパーマン一人に絞られるのに対して、こちらのMCUはもう10作を越えている。スーパーマンほどの飛び抜けた超人はいないが(ヴィジョンは匹敵するかも)数は多く、スーパーマンが個人で悩むのに対して、こちらは内紛を伴う。共に現実の国際情勢やアメリカの内情を比喩表現しているからこそ似た内容になるのだと思うけれど、やはりDCEUというかDCコミックスって基本的に架空の都市が舞台なのでMCU(というかマーベルコミックス)に比べると箱庭感が強く、これまで丁寧にその世界を描写して積重ねてきたMCUに対してあくまで架空の世界の出来事という感じ。MCUももちろん架空の国(今回だとワカンダやソコヴィア)なども登場するけれど、基本的に我々の世界と地続きであると錯覚するぐらい現実感が強い。

チーム・キャプテン・アメリカ


 アベンジャーズ国連管理下に置き活動を制限、命令が合った時だけ出動が可能、というソコヴィア協定に反対する立場のヒーローたち。キャプテン・アメリカとその相棒であるファルコン、疑惑の人ウィンター・ソルジャー、スカーレット・ウィッチにホークアイ、そしてアントマン
 かつてはアメリカ軍に所属してナチやヒドラと戦い、現代に復活してからも基本的にはシールドの下で活動していたキャップがこの協定に反対するというのは、一見すると矛盾しているような気もするが、そこには「CA/WS」であった、シールドでさえヒドラ支配下に合ったと言う事実、そしてそのもとでインサイト計画という人類全体を管理下に置くような施策が進められたことで、キャップの国家や組織不信みたいなものは強まったのだろう。シールド再建には反対し(このへんのシールドの再建を巡る物語は「エージェント・オブ・シールド」で)、「AOU」では独立した組織としてアベンジャーズを率いた。日本人的にはどうもこの辺りのキャップの心情は分かリづらく、最後まで見てアイアンマン派の人のほうが多いが基本的にアメリカのヒーローは独立独歩を是とし管理されることに批判的なことが多い。日本だとそもそもヒーロー資格制、登録制になってる設定のものも多いんだけど。逆にかつて国家体制下のヒーローだからかこそ、特定の組織の管理下におかれることの、危険性を身を持って知っているという感じか。
 面白いのは現役でない、かつて軍人やシールドのエージェントだったファルコンやホークアイがこの管理に批判的というキャップに与している点。チームとしてはアイアンマンだが、ブラックウィドウも感覚としては似た感じだ。
 ファルコンは前作で退役軍人として登場し、人工の翼を駆使して空を駆ける。その人工翼は「CA/WS」では強度に不安があったが、今回は劇的に改善されていて、飛行だけでなく身体を囲って銃弾を防ぐ防御盾としても使用できる。コミックスではレッドウィングという鷹を相棒としているが本作では同名のドローンを操る。「アントマン」でも登場し、今回はアントマンをチームに引っ張り込む役でもある。
 ウィンター・ソルジャー=バッキー・バーンズは前作ラストで記憶を取り戻したが、まだヒドラの洗脳の管理下にあり、本作のキーマン、互いに彼を奪い合うという意味でヒロインでもある。映画だけでは我々には想像も及ばないくらいキャップ=スティーブ・ロジャースとの友情は深く、彼の冤罪を晴らすというのが大きな物語としての目的ともいえる。本作はまだソ連が存在した時代1991年のシベリアにあるヒドラ基地で目覚める彼の姿から物語が始まるが、おそらくソ連崩壊後にアメリカのヒドラ(ピアースの管理下)に移動したのであろう。でもJFK暗殺もウィンター・ソルジャーの仕業なんだっけか?彼を冷凍睡眠状態から呼び覚ます暗号みたいなものはロシア語で響きが特徴的でなんとなくそれっぽいものを適当に選んだということだが、妙に格好いい。バッキーとファルコンは新旧のキャップの相棒ということで反目しつつも一緒に行動するシーンも多く、特にキャップがシャロン・カーター(エージェント13)と語り・抱擁するシーンを車の中から二人してニヤニヤしながら見守るシーンは愉快。ツイッターでこの二人をさして「バッキー&翼」と誰ともなく言っていたのがツボ。
 スカーレット・ウィッチは「AOU」でヒドラによって超能力を付与された存在として登場。ラストでは新生アベンジャーズの一員となった。今回は最初の戦闘で無辜の市民の被害を出したことでメディアでは名指しで非難されることに。能力的にはヴィジョンと並びこれまでMCUに登場したキャラクターの中でも最強クラスだが精神的には脆く危ういところも。そのヴィジョンとは不思議な仲(コミックスでは恋人同士だったことも)であり、師匠的存在はホークアイ
 ホークアイアントマンはどちらかと言うとゲスト出演的な感じで、引退したはずのホークアイはキャップの要請を受け軟禁状態だったスカーレット・ウィッチを救い出しアントマンを連れて合流。物語的には大きく関わってこないが戦闘などでは一番の試合巧者ぶりを見せ活躍。精神的には一番のタフ野郎でもある。アントマンは「アントマン」でファルコンと戦ったが、その時の縁でスカウト。彼自身としての心情は特に語られていないが、元々アウトロー気質であるし、ピム博士から吹きこまれたのか、「スターク」にいい印象を持っていないようだ。後は純粋にキャップに憧れを持っていて、そのキャップに頼まれたら嫌とは言えないッて感じでもあるのでしょう。コスチュ−ムは基本的に「アントマン」から変わっていないが、マスクの顎部分がちょっとシャープになってよりヒロイックに。そして!そのまま巨大化、ジャイアントマンになります!チームでは正体が特に有名人ではないため捕まった後、トニーに「君は誰だ?」って言われるシーンはシリアスな中のちょっと笑えるシーン*2

【追記】キャスト

 当然のようにキャストは引き続きの出演なので、レギュラーキャストに触れるのを忘れてしまいました。もちろんキャプテン・アメリカクリス・エヴァンス。素顔も出てくるけれど、クライマックスでもちゃんとマスクを付けたままなのはポイント高いですね。セバスチャン・スタンアンソニー・マッキーの新旧相棒もそのまま。スカーレット・ウィッチのエリザベス・オルセンは今回は相棒(AOUGODZILLAで共演したアーロン・テイラー=ジョンソン)はいないけれど儚くも芯の強いところを好演。トニーに「君は誰だ?」と言われたアントマン=スコット・ラングを演じたポール・ラッドはやはり一人だけ庶民派というか他のヒーローが何かしらエリートっぽいところがあるのに比べるととても親しみやすく。初参加だけどチームのムードメイカー的存在に。
 ホークアイのジェレミー・レナーとかはもう見ていて安心感しかないですね。

チーム・アイアンマン


 ソコヴィア協定に賛成の立場にたつヒーロー。アイアンマン=トニー・スタークを始めとして、彼の相棒であるウォーマシン=ローディ、アベンジャーズの広報的な役も背負っていたブラックウィドウ、元はトニーの開発した人工知能ジャーヴィスで最強のアンドロイド、ヴィジョン。そしてトニーがスカウトしたスパイダーマン。ここにウィンター・ソルジャーを父の仇と狙うワカンダの新国王ティ・チャラ=ブラックパンサーが加わる。
 トニー・スタークはアベンジャーズのオーナー的立場でもあり、一番の有名人。政府とのコネも持っている。ただこれまでの女好きの自由人というイメージから、本作のヒーローも管理下に置かれるべきだとする彼の立場は相容れないようにも思えてしまう。トニーはああ見えて精神的には脆いところもあって、それが「AOU」でのウルトロン開発につながったりしたのだが、本作でもソコヴィアで死んだ子供を持つ親から直接非難を受けたことで協定に賛成の立場を取る。「アイアンマン1」でそうだったように、現実を見せられて改心する形だ。僕は以前TV出演した「熱中スタジアム」の中で「アイアンマンは小さな犠牲で大きな犠牲を回避できるとなれば、小さな犠牲を見捨てる気がする」というようなことを言ったが、確かにそういう部分はあった。ただ彼自身今回はパパスターク(ハワード・スターク)の息子としての彼の葛藤も描かれていて、大局を見ているようで彼自身小さなことに囚われている。
 ウォーマシン自身の心情は特に描かれないが、最初のほうでソコヴィア協定への賛否をめぐりファルコンと議論するシーンで元軍人と現役軍人の立場の違いみたいなのが見えて興味深い。ローディは割りとヒーローというより軍から出向してアベンジャーズにいるという意識が強いのだろうか。今回は「アイアンマン3」で見せた星条旗カラーのアイアンパトリオットではなく従来の銀色のウォーマシン。基本的にはアイアンマンのスーツと同等だが、より重武装という感じなのは相変わらず。またキャップとファルコン、バッキーほどではないが、トニーとローディの友情も描かれていて、ローディがこの内戦での唯一の重傷を負った時の怒りの姿は印象深い。
 アベンジャーズに対する全世界の一般人の意向を尊重するとでもいうべき形なのが、ブラックウィドウ=ナターシャ・ロマノフ。彼女自身はキャップに近いがアイアンマン側となる。
 ヴィジョンは冷静で自愛にあふれているようでいざとなったら冷徹にもなれる人。能力的には最強クラスだが、やはり人間に興味を持ちつつ戦闘では躊躇はしない感じ。
 新ヒーローブラックパンサーはワカンダの王子ティ・チャラとして登場し、父が殺された後は新国王、そして復讐の鬼ブラックパンサーとなりウィンター・ソルジャーを追う。他のヒーローと比べてもかなりスマートなそのコスチュームはワカンダでのみ採れる鉱物ヴィブラニウムを織り込んでいてしなやかにして頑強。ブラックパンサーといえばアメリカの黒人過激派組織ブラックパンサー党だが、このキャラクターとは黒人ということ以外特に関係はない(ただし組織の発足とキャラクターのデビューは同年!)。
 スパイダーマンはチームキャップ側におけるアントマンのようなゲスト的出演で特に事情を知らず憧れのアイアンマンにスカウトされて連れて来られたという感じ。彼については後述。

【追記】キャスト

 トニー・スタークはもちろんロバート・ダウニーJr。最初に登場するシーンでは発明品BARF(バーフ=脳の海馬部分を刺激してトラウマとなっている記憶を癒やす)のデモンストレーションで出てくる回想シーン?(実際に映像として多くに人に見せている)で若い頃のトニーとして出てくる。多分これはロバート・ダウニーJr本人が演じてCG加工で若返らせたものだろう。同じようなことをやった過去の映画(トロン:レガシー等)に比べると違和感は薄まっているけど、それでもちょっと変な感じ。あれ劇中ではどういう設定なんだろう?リアルなCG再現ってことなのかな。ちなみに本編では全然絡んでこないこのBARFなる発明品。もしかしたら今後、ウィンター・ソルジャーの洗脳を完全に解くきっかけみたいな感じでまた出てくるかも。
 ローディはドン・チードルドン・チードルは「アイアンマン2」からテレンス・ハワードに替わってローディ役を務めているが、その生真面目そうな表情は、同じメインヒーローの黒人の相棒という立場であるファルコンとの対比になっていてよかった。これが飄々としたテレンス・ハワードだったら似た感じになってしまっていたかも。ヴィジョンは引き続きポール・ベタニー
 新キャラであるブラックパンサー=ティ・チャラにはチャドウィック・ボーズマン。彼も当然黒人キャストだが、アフリカの王国の王子/国王という役柄だけあってちょっと貴族的。しなやかに優雅だが、お坊ちゃんらしい茶目っ気も。僕はこれが初認識(キング・オブ・エジプトではトート神!)だがとても魅力的だ。

その他のキャラクター

  • サディアス・“サンダーボルト”・ロス将軍

 国務長官。かつて「インクレディブル・ハルク」で執拗にハルク=ブルース・バナーを追っていた人物。捕まえたアボミネーションをトニー経由でシールドに持ってかれたこともあり、あまりヒーローのことはよく思っていない。(主役であるハルクの役者(エドワード・ノートンマーク・ラファロ)が変わったこともあって)MCUの中でも半ば忘れられてた「インクレディブル・ハルク」から再登場のキャラクター。演じるのも同じウィリアム・ハートでこういうのは嬉しい。今回はハルクは言及されるだけで登場はしないが是非マーク・ラファロのハルクとも再会して欲しい。「インクレディブル・ハルク」もいくつかの続編への含みが投げっ放しで終わってるからなあ。

 元シールドのエージェントで「CA/WS」ではキャップの警護を担当していたが、ラストでCIAに異動。何かとキャップに便宜をはかる。「ファースト・アベンジャー」に登場したペギー・カーターの姪であることも分かりキャップとの仲はより深いものに。そのペギーは本作の中で亡くなる。若いころの活躍はTVシリーズ「エージェント・カーター」で。

 カーターの上司である対テロ共同対策本部の副司令官。姓は一緒だがロス将軍とは特に関係ない模様。小柄で童顔な小役人といった風情だが、やけに威圧的で嫌な上司の典型的なタイプ。演じるのはマーティン・フリーマンで、ちゃんと声優も森川智之。この後「ドクター・ストレンジ」でベネディクト・カンバーバッチMCUに参戦するのでもしかしたら「SHERLOCK」「ホビット」に続く共演あるかも?

  • ハワード・カーター(訂正!ハワード・スタークでございました。パパスタークはツタンカーメンの墓を見つけた人ではございません!)

 パパスターク。今回は1991年など回想シーンで登場。シールド設立の立役者の一人。自分も若い頃は天才の遊び人だったが、それを上回る天才兼遊び人である息子トニーとはあまりうまくいかないまま死別することになる。トニーにとっては最後にはいつも生きる指針を与えてくれる人物で(「アイアンマン2」参照)あったが、今回その最後がウィンター・ソルジャー(正体であるバッキー・バーンズとは顔なじみでもある)による暗殺だったことが判明。キャップとアイアンマンの亀裂を決定的なものとする。演じるのは「アイアンマン2」「アントマン」でハワードを演じたジョン・スラッテリーで、彼は「エド ボーリング弁護士」というドラマで主人公エド(演じるトーマス・キャバナーはTVシリーズ「THE FLASH/フラッシュ」でハリソン・ウェルズ博士=リバース・フラッシュを演じている!)の恋のライバルとして登場した。彼の役はエリートの若い校長だったが、彼がヒロインに自分が完璧な存在ではない、という証拠を「子供の時、アクアマンがデビューした時にすぐにスーパーマンの人気を抜くと確信したが、結局そんなことはなかった」ことで示すシーンが印象に残っている。彼の若いころ(ドミニク・クーパー)の活躍は「エージェント・カーター」で。

  • クロスボーンズ

 ブロック・ラムロウ。元シールドの戦闘員と思わせつつ実はヒドラの戦闘員だった人。「CA/WS」ラストで火傷を追い、クロスボーンズとなることを予測させたが、本作冒頭で登場。コミックス的な悪役というよりは多少シンボル化しているが実際の戦闘兵士という感じに。残念ながら本作で退場となるが、わずかながらインパクトは強い。

  • ヘルムート・ジーモ

 本作のメインヴィラン。コミックスでは二代目のバロン・ジーモでナチスに源流を持つ典型的な悪役なのだが、本作では名前以外設定は全く新しくなっていて本作で起きる出来事の黒幕ながら同情の余地が十分にある人物に。このコミックスと全然違う、というのは「アイアンマン3」のマンダリンと一緒なのだが、何故かあちらは許せなくて、こちらは許せる。それは単に作品の出来もあるのだがなんといっても描写の積み重ねが丁寧で正体が判明した時にはすっかりその新設定で受け入れているという脚本の旨さもあるだろう。マンダリンの時はコミックスのイメージで期待させておいて登場したと思ったら全然違うただのおっさんだった。あれではコミックスのファンは怒るって。
 ジーモはソコヴィアの特殊部隊出身の兵士であったが、「AOU」によって家族を失う。そしてその復讐としてアベンジャーズを内戦へ導くべく暗躍するのだ。彼とトニーが最初のほうで出会ったソコヴィアで息子を亡くした婦人は同じ立場である。
 本作実はスーパーヒーローにはいくらでも超人が登場するが、いわゆるヴィランにおいては超人が一人も登場しない。クロスボーンズも優秀ではあってもただの常人だし、ジーモも自身は超人でもなく、超人を操ることもない。途中でバッキーによって1991年に超人血清が盗まれそれによって新たに5人の超人兵士が創造されたと語られ、ジーモの目的もそれかと思われた。僕は旧ソ連の超人兵士ということでまさかオメガレッド*3登場か!と期待したりしたのだが、結局彼らは復活せぬまま死亡する。しかしヴィラン側に超人が一人も登場しないからこそこの物語のテーマは際立つ。ジーモはヒーローの内紛を演出し、彼らはどのヴィランのせいでもない、彼ら自身のせいで崩壊するのだ。
 演じるのはダニエル・ブルーリュ。「ラッシュ」でも見せた誠実で理知的そうな見た目を生かしつつ、特に過去が語られる前からその悲しみを背負った演技は見どころ。

 終盤。ジーモはあるVTRをトニーたちに見せる。それは1991年のウィンター・ソルジャーの仕事。彼の暗殺のターゲットはハワード・スターク。両親の死とその敵を目の前にし、トニーはバッキーとそのことを黙っていたキャップに攻撃を仕掛ける。
 この予告編で見られた「友のために」「私も友だろ」のシーンは予告編と本編の印象はまるで逆で、本編では「彼は友人だ」「ボクもそうだった」となり、予告編ではトニーがキャップを説得する感じだったこのセリフは、本編ではむしろトニーのキャップへの決別宣言とでもいう感じに。

SPIDER-MAN WILL RETURN.
 本作ではスパイダーマンが登場する。「スパイダーマン」はMCU20世紀FOXの「X-MEN」と並んでソニーが映画化権を持っていて独自にシリーズを重ねていたが「アメイジングスパイダーマン」シリーズは残念ながら2作で終了。張り巡らされた伏線も回収できずに終わってしまった。まあスパイダーマン=ピーター・パーカーの物語としては完結しているので良しとするが個人的には残念。その後スパイダーマンソニーに権利を残しながらもMCUにも参加するという形をとることとなり本作への出演と相成った。ストーリーは再び仕切り直しとなり、新しいスパイディを演じるのはトム・ホランド。20歳だがもっと若く見えて、これまでのピーター・パーカーでもかなり若い。設定も高校生になったばっかり、といったところか。すでにスパイダーマンとしてデビューしていて、NYで自警活動してるところをトニーに見初められた。この時のスーツはいかにも手作りのスーツと言った感じだが、きちんと登場した時はスターク製のいつものスパイディスーツを着用。マスクの眼の部分が大きくなったりするのはズーム機能かな。個人的にはこれまで実写で登場したスパイディのスーツは「アメイジングスパイダーマン2」のものが一番好きなのでちょっと残念。
 ピーターの周辺人物ではメイおばさんが登場して演じているのがマリサ・トメイ!ピーター同様、かなり若返った。サム・ライミ版→マーク・ウェブ版でもかなり若返った印象があったのに本作では普通にトニー・スタークの相手となってもおかしくない感じ。ライミ版のメイおばさんは完全に老女で夫(ベンおじさん)が亡くなった後は働くのは辛い年齢だったので銀行に融資を求めたり、家を処分したりしていた。「アメスパ」のメイおばさんは良き主夫だったが夫を亡くした後に生活のため高齢で若い子に混じって看護学校に通いその苦悩をピーターに訴えたりしていた。それに比べると今度のメイおばさんは自分の人生を楽しんでいる感じがする。ベンおじさんが存在するのか、したとしてまた亡くなってしまうのか分からないが、「シビル・ウォー」の描写を観る限り生活に男の影を感じさせないというか、ベンおじさんどころかそもそも男に頼ることなく生きていきたオーラがある。ブティックでも飲み屋でもなんでもいいから自分の店を持っていてそれを繁盛させていそう。「スパイダーマン」の単独主演新作「スパイダーマン ホーム・カミング」が現在製作中。もうさすがに3度めだからオリジンはにおわせる程度にして最初からガンガン活躍して欲しいな。時系列的に「シビル・ウォー」のあとになるのだろうし。あと実は何気にMCUの作品としてはニューヨークをホームタウンとする初のヒーローの映画である。MCUの方からもなんかしらゲスト出演はあると思われ。

 一番の見所はやはりドイツの空港でのチームキャップとチームアイアンマンの激突で、コミックスにおける見開きを意識したという互いの勢力が綺麗に並ん後、一斉に戦うシーン含め興奮しっぱなし。僕が初日か二日目かそのくらいに劇場で観た時は、両隣が中学生ぐらいの男子グループだったのだが、このシーンで「かっけぇえ!」とか「うぉおお凄ええ!」みたいな感嘆の声を上げていた。うるさいといえばうるさかったのだが、ただのお喋りではなくそういう作品に感情を揺り動かされての歓声は(もちろん限度はあるけれど)いいですね。僕だってなんなら叫んでキャップを応援したかったもの。僕はもちろんどっちにもある程度理解を示した上でどっちか選ぶなら断然キャップとチームキャプテン・アメリカです!
 吹替もレギュラーはそのまま。米倉涼子宮迫博之溝端淳平の3人も回数を重ねるごとにうまくキャラに馴染んでいると思います。もうこのまま変更はせず、きちんとシリーズに付き合って欲しい。ただやっぱりこの3人が、主演の中村悠一藤原啓治を差し置いて最初にクレジットされるのはちょっと納得いかないですけどね。むしろゲスト出演のタレント吹替でなく、一声優としてきちんと扱うのであればちゃんと役の重要度の順でクレジットするのが彼らに対しても礼儀だと思います。
 MCUの今後としてはもう予告編もバンバン流れている「ドクターストレンジ」が2017年1月に控えていて「マイティーソー ラグナロク」「ガーディアンズ・オブ・ザ・ギャラクシーVOL2」そして「スパイダーマン ホーム・カミング」と続く感じ。勝手に2018〜2019年の「アベンジャーズ3」前後編でちょうど10年だし一旦区切りつけるのかな?と思ったけれどどうやらまだまだ続くっぽいです。
 キャップの単独主演映画としては一応本作が区切り。もちろんこれはキャプテン・アメリカがもう登場しないということではなく、今後は他のキャラクターの主演映画や「アベンジャーズ3」で登場するということです。物語はこのあと宇宙へ向かうこととなるので、地球をメイン舞台にした政治的な物語としては本作がクライマックスだと思われます。
スタン・リー御大はラストトニーにキャップのメッセージを渡す役として登場。
EXCELCIOR!

シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ-オリジナル・サウンドトラック

シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ-オリジナル・サウンドトラック

シビル・ウォー【限定生産・普及版】 (MARVEL)

シビル・ウォー【限定生産・普及版】 (MARVEL)

*1:スター・トレック:ビヨンド」には期待

*2:アニメの「ジャスティスリーグ」でも似たような(フラッシュと意識を取り替えたルーサーが、さあ正体を見てやると洗面所でマスクを取るもフラッシュの正体ウォーリー・ウェストはスーパーマンクラーク・ケントバットマンブルース・ウェインと違って素顔が有名人ではないためルーサーが「誰だこいつ?」となる)シーンがあった

*3:ただ彼はどちらかと言うと「X-MEN」世界の住人だろうなあ

十四松と十代亀でこりゃめでてーな ミュータント・ニンジャ・タートルズ:影<シャドウズ>

タートルパワー!
 今年のアメコミ映画攻勢もほぼ終わり。この「ミュータント・ニンジャ・タートルズ:影<シャドウズ>」と「スーサイド・スクワッド」を観たので後は来年の「ドクター・ストレンジ」までしばし待機。リアルなの、シリアスなの、コメディ調いろいろ揃っているけれど、なんだか歳を取るにつれて暗めのやつより明るいヒーロー映画の方が楽しんで観れるようになってきているなあ。というわけで僕個人としては十分に楽しめたのであった。「ミュータント・ニンジャ・タートルズ:影<シャドウズ>(以下TMNT影)を観賞。

物語

 NY。エイプリルは科学者ストックマンがフット団の一味で、タートルズに敗れ捕まった首領シュレッダーのために何かを計画していることを突き止める。シュレッダーを護送する道中、フット団が護送車を襲撃する。担当の警官ケイシー・ジョーンズとタートルズによってシュレッダーの脱走が失敗かと思われたその時、ストックマン博士は次元転送装置を作動させシュレッダーを逃亡させることに成功する。異次元でシュレッダーはディメンションXの悪人クランゲと出会い、彼の計画を手助けすることで世界を手に入れる盟約を結ぶ。
 一方シュレッダーと一緒に護送され、ドサクサに紛れて逃げたビーバップとロックステディの二人組はシュレッダーに勧誘されミュータジェン投与の被験体となる。二人を追っていたジョーンズはタートルズとエイプリルと出会う…

 前作の感想はこちら。

 マイケル・ベイが制作した前作はCGによるマッチョなタートルズに多少の違和感も覚えたものの概ね大成功。本作は前作の印象をそのままにパワーアップした直近の続編。アメコミ映画の例に漏れず、オリジンとキャラクター紹介に時間を費やさねばならない1作目に比べると、最初から全開でいけるため、テンポは今回のほうが段違いに良くなっている。
 原題は「Teenage Mutant Ninja Turtles out of the shadows」。前作は「ミュータント・タートルズ」だったが、何故か今回は「ニンジャ」の単語が加わって「ミュータント・ニンジャ・タートルズ」に。しかしですね、以前も書いたとおり、実はこの4匹の亀の要素としては彼らが「十代」であるってことが重要であると常々言っているのですよ。本作でも冒頭のバスケ観戦シーンやハロウィン・パレードに紛れ込むマイキーのシーンなんかで彼らのティーンエイジャーぷりはふんだんに描かれている。だから次こそはタイトルに「ティーンエイジ」をちゃんと入れて欲しいですね。タイトル長すぎったってテーマ曲に合わせて言えば全然面倒くさくないし、「TMNT」って略称もちゃんとファンの間では定着しているんだから。

 そんな十代の彼ら。前作でキャラ紹介は終わっているので本作ではいちいち改めてクローズアップしたりしません。レオナルドはクールなリーダー。ドナテロは天才発明家。ラファエロは熱血漢、そしてミケランジェロはパーティ・ピーポー!その辺はもうみんな知ってる大前提で進むよ。アニメ主題歌を口ずさめばそのままキャラクターが把握できるし。

 このテーマ曲を覚えて歌おう。今回はガッツリ出てくるし。
 今年のヒット作といえば「おそ松さん」だが、松野六つ子とタートルズの4人は微妙にかぶらない。が十四松とマイキーだけは奇跡のイメージカラーも性格も重なっている!
 ヒロイン、エイプリルはミーガン・フォックスが引き続き演じている。職業はTVリポーターだが、今回はラストまでその仕事が出てくることはなく、勝手にフット団の陰謀を暴いたりしてるのでてっきりタートルズのサポート兼探偵業にでも職業替えしたのかと思った。予告編で観た女子高生姿はさすがにもうコスプレにしか見えんだろ、と思ったりしたが(女子高生(ただし私服)役だったトランスフォーマーももう9年前)、やっぱりスクールガールのコスプレ集団に紛れ込むため、というシチュエーションだった。エイプリルは主要な人間キャラクターだけど、あくまでアクション担当はタートルズでしかも今回はケイシー・ジョーンズも登場するため影が薄くなるかと思いきや、特にそういうこともなく、それこそロイス・レーンから連綿と続く「仕事のできる自立した女性」という格好良さをもっている。元々のエイプリルのキャラもあれどその辺は演じたミーガン・フォックスの力も大きいと思う。
 前作でフット団の野望粉砕の功績を表に出れないタートルズに替わり独占したカメラマン、ヴァーンはすっかりNYの有名人として調子に乗っている。タートルズと並んで本作の正義の側のコメディ部分を、それもちょっと情けない部分を担当するキャラクター。でもいざというときにはきちんと仕事を成し遂げるから素晴らしい。
 新登場のケイシー・ジョーンズはアニメではお馴染みのホッケーマスクにスティックやパックを武器として使う自称ヒーロー。本作ではシュレッダー(とビーバップ&ロックステディ)護送を担当した警官だったが逃げられたため独自にその行方を追い、その過程でタートルズたちと出会う。演じているのはTVの「ARROW/アロー」で主人公オリバー・クイーンを演じているスティーブン・アメル。二度目となる常人ヒーローだが、冷静で渋いアローに対してジョーンズはちょっとドジキャラ。本作の雰囲気に合わせてアメルもユニークな感じに。ちょっと声も高めな気がする。タートルズがいっても亀なのでエイプリルとの恋愛関係は成立しにくく(ゼロではない)、本来ならエイプリルの恋人候補でもあり、実際一緒のシーンが多いのだが、どうにも肝心なところで間が抜けてるので「できる女とそのボディガード」といったところ。
 スプリンター師匠も出てくるがそれほど出番は多くない。

 敵も味方も全体的に太平楽なの人間ばかりなのが本作の特徴でもあって、そんな本作の象徴がビーバップ&ロックステディ。元は普通の人間(性格は変わらず)だがミュータージェンの力で先祖返りしてそれぞれイノシシとサイの獣人となった。とにかく豪快で愛すべき馬鹿。演じているのはビーバップがゲイリー・アンソニー・ウィリアムズでロックステディがシェイマス。シェイマスはアイルランド出身のWWEスーパースターですね。マッチョマンだがそのあまりに白い身体と赤毛のモヒカンが特徴。俳優としては本作がデビューであるが、まあWWEなんて毎回ぶっつけ本番の舞台に立っているようなものなので。

 タイラー・ペリー演じるストックマン博士もフット団の幹部ということで前作ならウィリアム・フィクトナーが演じていたキャラクターに当たるんだけど、いわゆる黒人のスタンダップコメディアンといった感じの演技で、作品の明るい雰囲気に貢献している。
 宿敵シュレッダーは前作ではパワードスーツのような鎧を着こみ、その声は吹替で表現されていたが、本作ではアジア系ブライアン・ティーが演じ普通に素顔も見せる。というか今回はもっぱら素顔の役として過ごし、いざスーツを着込んで人間十徳ナイフとして活躍しようという矢先にクランゲに凍らされて彼のコレクションになってしまう。なんとなく「G.I.ジョー バック2リベンジ」のデストロを思わせる。まあこの場合シュレッダーもクランゲを裏切る気満々だったのでどっちもどっちだが、その分タートルズと直接やりあう機会は無く、対決は次回へ持ち越し。スーツも無駄に気合の入った前作の鎧風パワードスーツに比べると黒いタイツに兜かぶっただけッて感じだったしな。一応前作に引き続き出てくる女幹部カライとともにこの陽性のヒーロー映画の中では洒落が分からないアジア人という感じで悪人だけどその真面目さが印象に残る。てか前作の最後でミュータージェン浴びてミュータント化したことが暗示されてなかったか?

 クランゲ。ディメンションXの独裁者、狂気の科学者。その科学力で地球を征服しようとする。見た目は巨大な脳みそなので、ニコちゃん大王とかスペースインベーダーの親戚みたい。怪力ロボットを作りその腹の中に入っている。本作の悪の黒幕であり、ラスボスだが、どうにも憎めない。昔のアニメではシュレッダー(サワキちゃん)とクランゲの漫才は名シーンであり、本作でもちょっとその片鱗を覗かせる。まあNYで空中に次元の穴を開けて巨大な何かが?!ってのは「アベンジャーズ」だし、「トランスフォーマー:ダークサイド・ムーン」でも同じような展開だったりした。NYの高いところから何かを放出(前作はこっち)!って展開と並んでアメコミ映画では定番なのである。本作も死ぬコト無くディメンションXに逆戻り。お供としてシュレッダーが一緒なので次は最初からちゃんとコンビを組んで漫才を見せて欲しい。

 ニューヨークを舞台にしたアクション映画だと、ヒーローである主人公とNY市民、NY警察が一体となって悪に立ち向かう、みたいなシーンがあって、これが他の国やアメリカでも他の都市だと、冷めた目で見てしまうこともあるのだが、NYだけは本気でヒーローや市民を応援してしまいたくなる。それこそ「スパイダーマン」はサム・ライミの3部作もマーク・ウェブの「アメイジング〜」2作もその市民とヒーローが一体となるようなシーンが胸熱。アクション映画とは言えないが「崖っぷちの男」や「マネーモンスター」などでも似たようなシーンがあった。先日のリメイク版「ゴーストバスターズ」ではそのNY映画としての側面(この点ではオリジナルが上だと思う)はあんまり感じなくてちょっと不満だったのだが、その点では本作「TMNT影」が補ってくれた感じ。もっとも本作ではあくまで警察は知っているけどタートルズは表に出ず市民は都市伝説としてしか知らない、という感じだけれど(タイトルの「Out Of The Shadows」は影の外に出て認知されたが、それでもあえて影の存在であることを選んだタートルズを表している)。

 とにかく陽性のヒーロー映画。こういう作品だと映画を観て感じるリアリティのラインが他の作品とは全然違うので物語的な矛盾はほぼ気にならないし、解明されない謎、置いてきぼりの伏線らしきものとかも、まあもし次で触れるkとがあるならそれでいいんじゃね?という感じ。作品自体ももう一作きりで判断というより昔の連続活劇を観る感じで、続編当然あるよね?という態度で臨んでいるのです。
 後はやはり同じパラマウント映画である「トランスフォーマー」シリーズと「G.I.ジョー」シリーズ。この2作は元々アニメやコミックスでは世界観が一緒だし、本作はマイケル・ベイが制作しているので雰囲気が「トランスフォーマー」と似ている(音楽が同じスティーブ・ジャブロンスキーでかなり似たテーマが流れるのも似ている要因だろう)。深刻ぶった予告編だけど本編はバカ満載ってあたりも共通だ。だからパラマウント上層部は一刻も早くマイケル・ベイとスティーブン・ソマーズを呼び寄せて、「トランスフォーマー」「G.I.ジョー」「TMNT」の3作の実写クロスオーバー作品を作るべきだと思う。

ミュータント タートルズ:オムニバス (ShoPro Books)

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カワバンガ
そして次は兎用心棒の実写化を!(しつこい)

人耶獣耶 ジャングル・ブック&ターザン:REBORN

 劇場で予告編を観たのはどっちが先だったろうか、「ジャングル・ブック」と「ターザン」の新作がほぼ同時期に公開された。この2つの作品を予告編で見かけた時、なんとなく「どうせ公開日が近いなら、同日にはしごしてやろうか」と思いたった。共に自然界で両親を失った人間が野生動物たちの中で成長する物語。どうせなら見比べてやろう、と。但しこの公開日が近いのは日本での話でアメリカ本国では「ジャングル・ブック」が4月、「ターザン:REBORN」は日本とそう変わらない7月1日であるので特に両作が意識しあっているということもなさそうだ。「ジャングル・ブック」と「ターザン:REBORN」を観賞。今回は一気に2作品、でも短めで行きます。


 まずは原作。「ジャングル・ブック」はイギリスのラドヤード・キプリングが1894年に出版した短編小説集。その中の狼に育てられた人間の少年モーグリを主人公として取り上げた物語を映画の題材として使用している。児童向けだが、作中には詩も収められている。
 一方「ターザン」は「ジョン・カーター」でも知られるエドガー・ライス・バローズの代表作で「火星シリーズ」「地底世界ペルシダーシリーズ」と並ぶシリーズ作品。この二作の関係性としてはバローズは「ターザン」がキプリングの「ジャングル・ブック」の影響下にあることを認めており(「類猿人ターザン」の刊行は1914年)、キプリングはあまりそのことを快く思っていなかった、なんて情報もある。ただこの2作は設定こそ似ていても本質はかなり違っており、「ジャングル・ブック」は人間の少年が主人公であるものの、基本的にはジャングルという閉じたユートピア内での物語であるのに対して「ターザン」はそのユートピアへの外界からの干渉をテーマとする。また短編である「ジャングル・ブック」に対して「ターザン」は長く続くシリーズであり、シリーズが続くうちには恐竜が出てきたり、アトランティスの末裔が出てきたり魔法的な要素が出てくるなど単なる冒険活劇でなくSFとして完成されている(バローズのもう一つの代表作である「地底世界ペルシダー」とのクロスオーバーもあるらしい)。
 で、この2つは両方共ディズニーによってアニメ映画化されている。「ジャングル・ブック」は1967年。「ターザン」は1999年。今回の映画化は「ジャングル・ブック」は同じディズニー映画でこの1967年のミュージカルアニメ映画のリメイク作品。そして「ターザン:REBORN」はワーナー作品のため、このディズニー版との関係はなし。「ジャングル・ブック」は最初の予告編はシリアスな作品ぽくてリメイクと明言されてなかったが、公開間近になって宣伝のトーンが明るくなって、ミュージカル映画であることも強調されたが、あれはなにか理由があるんだろうか。ちなみに僕は鑑賞前にLittle Glee Monsterによるイメージソング「君のようになりたい」を生で聴く機会があって、CDも買ってしまいました。推しはアサヒさん。

 これ、劇中では巨大猿(オランウータンの突然変異かのように描写されている。地域的にキング・コングと類縁かも)キング・ルーイーが歌うのね。
 インドの狼少年(嘘つきの方ではなく狼に育てられた少年)というと、実際に有名なのはアマラとカマラだが、この狼に育てられたとされる2人の少女が発見されたのは1920年の事なので、むしろ「ジャングル・ブック」の影響でこの少女たちを「狼に育てられた野生児」ということにしてしまった可能性もありそう(現在では二人を保護・養育したシングの記録は信憑性が薄く、少なくとも「狼に育てられた」というのは嘘だろうと考えられている)。
 映画は「少年以外全部CG」を謳い文句にしており、そんなのが謳い文句になるのかな?と疑問も持ったが、確かに実際の自然の中で撮ったような風に思える精密度。これまでももちろん背景をCGにした作品などは多くあるのだが、どうしても平面的というか舞台劇のようなカメラワークが多くなったものだが、本作は主人公モーグリはじめ、皆ジャングルを縦横無尽に動くので単なる背景やCGキャラとの共演というだけでなく本当にそこに立体のキャラがいて共演しているかのようである。あんまり「大自然で育った野生児が活躍する」物語でCGを強調するのもどうなのか?と思ったが、なるほどこれは宣伝文句にしたくなる出来ではあった。監督は「アイアンマン」シリーズのジョン・ファブロー。最初のシリアスな予告編では個人的につまらなかった「カウボーイ&エイリアン」の雰囲気を感じたので、こりゃ駄目かな、とも思ったのだがミュージカルであることを明らかにした宣伝では明るい雰囲気だったので一安心。少年も狼の子供たちも可愛く、楽しんで見れた。むしろミュージカル部分もっと多めでも良かった。
 声の出演という形だがキャストは豪華でビル・マーレイベン・キングズレークリストファー・ウォーケンイドリス・エルバなどが出ています。スカーレット・ヨハンソンもすっかりファブロー映画の常連になったな。ただ、今回僕が観たのは日本語吹替版。松本幸四郎西田敏行宮沢りえ伊勢谷友介などが声を当てていて、西田敏行はぱっと顔が浮かんだけど、後は特に顔を思い浮かべることもなく上手だったかな、と思う。

 ディズニーの「ターザン」はターザンの生い立ち、ジェーンとの出会いを描いたシリーズでも本当冒頭部分を映画化した作品(超常現象要素特になし)だが、「ターザン:REBORN」はその後のラストエピソードとでも言うべき物語。原題が「THE LEGEND OF THE TARZAN」で「ターザンの伝説」なのに対して邦題が「ターザン:REBORN」で「新生ターザン」なのは単なる邦題の流行り廃りもあれど、原題が終章としての意図を感じるのに対して、邦題は新しく始まったターザンものって感じがしてちょっとミスリード
 ターザンはすでにアフリカには居ず、イギリスでグレイストーク卿として暮らしている。物語はベルギーの植民地コンゴ経営の不振からレオポルド2世がダイアモンドの採掘によってその赤字を埋めようとするが、鉱脈の位置を知っている部族の族長がターザンを連れて来い、という。グレイストーク卿はレオポルド2世からの視察団参加は断るが、アメリカ特使ウィリアムのコンゴで行われている奴隷労働の実態を調査する、という依頼を承諾し妻ジェーンとともに再び育ったアフリカへ向かう、というもの。主人公こそ人間であるが「ジャングル・ブック」が時代性を特定できないのに比べ、「ターザン」はかなり帝国主義時代を色濃く背景としている。ターザンは伝説の人物ではあるものの、すでに野生児ではなくなっている。ターザンを演じているのはアレキサンダー・スカルスガルドで長身、小顔のイケメン。精一杯野性味を出そうとしているが、あまりターザンぽくはなかったかも。最も本作に限ればそのターザンぽくない(野生児ではない)てのは問題ないのだが。あとターザンといえばジョニー・ワイズミュラー以来の「アーアー!」という雄叫びだが、スカルスガルドの雄叫びはなんだか低い。これも文明に染まった故か。ジョニー・ワイズミュラーの甲高い雄叫びに比べるとやはりちょっとワクワク感に欠ける(あれも加工してあるので本人の地声ではないそうだが)。

 なんとなくね、ジョニー・ワイズミュラーの「アーアー!」はバナナマン日村さんのヤッホー!、アレクサンダー・スカルスガルドの「アーアー!」は橋本奈々未さんのヤッホー!だと思ってもらうといいかも(そうか?)!

 やはりこちらは人間がメインであるのでね。タランティーノ作品でもお馴染み演説させたら東西の両横綱と言ってもいいサミュエル・L.ジャクソンとクリストフ・ヴァルツの二人が見どころですね。この二人の演技を観るためだけでも価値はあると思う。ジェーン役のマーゴット・ロビーはまあ綺麗だったけれど普通のヒロインという感じ。今年は彼女はハーレイクインとして生きていくからいいのです。
 監督は「ハリー・ポッター」シリーズの後半(不死鳥の騎士団〜死の秘宝」を担当したデヴィッド・イェーツで、あのシリーズでも見られた重厚で薄暗い雰因気は本作でも健在。ただその分本当なら弾けるようなシーンも重く暗鬱とした感じになってしまうのはもはや作風か。クライマックスの動物総進撃は良かったです。

 どちらも見どころがあれど、映画館で大スクリーンで観るということにおいては「ジャングル・ブック」の方が数段勝るでしょうか?物語部分は設定こそ酷似していても全く違うので比べるのがそもそも違いますね。
ジャングル・ブック (新潮文庫)

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類猿人ターザン (ハヤカワ文庫 SF ハ 10-1 TARZAN BOOKS)

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類猿人ターザン《IVC BEST SELECTION》 [DVD]

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 全体的には楽しく見れる「ジャングル・ブック」だが、一つとても恐ろしいシーンが有る。それはトラのシア・カーンがそれとなく狼の子供たちに暴力の必要性みたいなのものを教えるシーン。ここの不気味さがあるだけでもこの映画には価値がある。記事タイトルはこちらから。「ターザン」とも「ジャングル・ブック」とも全く関係ないですが、冤罪をテーマにしたフランスのエミール・ガボリオの「ルルージュ事件」を黒岩涙香が日本を舞台に翻案した探偵小説。一読の価値あり!

80年代から進化したものしないもの ゴーストバスターズ

 2013年に日本で公開された映画の結構な作品に「魔女」というキーワードがあったように(決して表立ってブームになったわけではない)今年(というか今年の夏は)「1980年代」がキーワードとなっているような気がする。前回の「X-MEN:アポカリプス」のように80年代が舞台のものもあれば「TMNT影」のような1980年代に生まれたキャラクターの作品。そして今回のような1980年代の作品のリメイク作品。1984年は「ゴジラ」「グレムリン」そして「ゴーストバスターズ」!この3作が相次いで日本公開されたため「3G決戦」などと称された。5年後1989年にも「ゴジラVSビオランテ」「ゴーストバスターズ2」が、少し遅れて「グレムリン2」が公開され第二次3G決戦が!そして2016年「シン・ゴジラ」とリメイクされた「ゴーストバスターズ」がほぼ同時期公開されたのであった!*1そういうわけで個人的にちょっと思い入れもある「ゴーストバスターズ」のそのリメイク版を観賞。

物語

 ニューヨーク。コロンビア大学で教鞭をとるエリン・ギルバート博士は大学との契約更新を迎えて困惑していた。過去に友人と出した心霊本を読んだ人物に心霊調査を依頼されたのだ。封印した過去であるはずのその著書を買ってに売っている共著者で旧友のアビーの元へ行くと彼女はヒギンズ理解大学の研究室でホルツマンとともに今も超常現象の研究に勤しんでいた。久しぶりに再会した二人は口論になるも心霊調査を依頼された建物へ。そこで3人は初めてゴーストとの物理的接触に成功する。しかしアビーとホルツマンは大学を追い出され、エリンも契約更新を破棄されてしまう。3人は中華料理屋の2階を借りて心霊調査会社ゴーストバスターズを設立することに。
 受付に雇ったのは美形のマッチョマンだが頭の方はからっきしのケビン。また依頼人で地下鉄駅員のパティも勝手に仲間に加わった。時を同じくしてNYではゴーストの出現が多発し、ゴーストバスターズは一部の批判も受けながら一躍時の人に。そしてこのゴースト騒ぎの裏には一人の男の陰謀があった…

 オリジナルは1984年のアイヴァン・ライトマン監督作品。レイ・パーカーJrの主題歌も相まって大ヒットした。1984年の3G作品の中では僕は「ゴジラ」が最初に劇場に観に行った映画作品であったが、ほぼ同時期に「ゴーストバスターズ」も観たと思う。また1989年の年末には「バットマン」「バック・トゥ・ザ・フューチャーPART2」「ゴジラVSビオランテ」と並んで「ゴーストバスターズ2」が話題の超大作としてラインナップされていて、少なくとも僕の周辺(小学6年生)では「ゴーストバスターズ2」が一番人気だった。こちらも他の作品を差し置いて劇場で鑑賞(今ならもちろん全部観るが、当時の小学生はどれか一つ、という選択肢しかない)。多分初めて劇場で観た洋画シリーズなのでそれなりに思い出深い作品である。2の方にはピーター・マクニコルも出てるしね。
 で、これらの2作やジョン・ランディスの「ブルース・ブラザーズ」「大逆転」など一連の「サタデー・ナイト・ライブ」映画とでも言うべきジャンルがあった。テレビのコントスケッチ番組「サタデー・ナイト・ライブ」のキャストが活躍する作品群。最近だとベン・スティラーの「ズーランダー」や「トロピック・サンダー」などもそのくくりに入れられると思う。本作もリメイクという形であるが主要キャストの多くがサタデー・ナイト・ライブ出身者である。
 その中でも「ゴーストバスターズ」はビル・マーレイの無責任かつ飄々としたキャラに焦点を当て人気となった作品。日本だと高田純次といったところだろうか。その人気は根強く2001年のアイヴァン・ライトマン作品「エボリューション」などはSFに置き換えた「ゴーストバスターズ」と言ってもいいくらいだった。直近の作品だと「PIXEL」が「ゴーストバスターズ」を換骨奪胎したものと言えそうだ。
 当然続編の企画は1989年の2以降もずっと浮かんでは消えて、という状態が続いていたのだが、21世紀に入ってやっと具体的に動き始めたところで主要キャストの一人ハロルド・ライミスが急逝。全員揃っての出演が不可能となったことで続編製作は頓挫した(ハロルド・ライミスとダン・エイクロイドは脚本も手がけていた)。代わりに浮かんだのが続編ではなくリメイクである。
 最初に前作の設定から男女を入れ替えたものと聞いた時はなるほど21世紀にふさわしいアプローチだと思ったし、それがいわゆる美女(美少女)ではなく一癖も二癖もある面子を集めた時は感心した(この時点で文句を言っていた人もいたが、そもそもオリジナルが冴えないおっさんたちのコメディであったのになぜ男女逆転したら美少女になると思ったのだろう?)。ただ後述するけれど、人種構成がオリジナルのままだったのはちょっと納得いかなかったリもした。
 予告編を観た時は男女逆転という部分こそ大きな変更点だが、それ以外のところでは(VFX部分まで含めて)驚くほどオリジナルの雰囲気のままで逆に2016年に制作されたとは思えない感じすらした。男女逆転したことでアメリカ本国で女性差別的な評価も上がり、それに対してキャストが声を上げたりしたことで話題にはなったけれど、逆に正当な評価からは遠ざかっってしまったのでないかという不安も(ちょっと批判を言えない雰囲気になっていた)。
 実際に観ると大変面白かったけれど、肝心のゴーストストーリーの部分はオリジナルの方に軍配があがるがそれ以外のところは新作に、といったところ。最もオリジナルは1980年代の雰囲気を色濃く残したコメディ映画なので現在の感覚で見るとちょっと首を傾げるところも多いので特にコメディ部分は一概には比べられないだろう。ビル・マーレイ演じるピーター・ベンクマン博士の無責任で女好き、かと言って物事から一歩引いて接するシラケ感たっぷりの演技は当時のサタデー・ナイト・ライブでのマーレイのキャラを知っていないと現在の視点で見て結構きついところがあるし、リック・モラリス演じる隣人も今見たらストーカーじみた感じである。特撮(狛犬みたいなモンスターのストップモーション・アニメーションによる動きと合成)も今見るとかなり拙いのだが、一方で作品の雰囲気にあった味となっていると思う。
 話の肝であるゴースト退治のストーリーはヒッタイトの邪神ゴーザやズールといった神や中世カルパチアの独裁者で肖像画の中から物事を操るヴィーゴ大公といったオリジナルシリーズの個性ある敵キャラに比べると今回の冴えない非リア男の社会への復讐というものはかなり弱い。この今回の敵ローワンはおそらくオリジナルの主人公3人のダークサイドを合体させたようなキャラクターだが、ちょっと個性が弱かった。

 新生ゴーストバスターズの4人のうちオリジナルメンバーとなる3人は旧作のピーター、レイ、イゴンの3人をミックスさせて分けたような役回り。一応の主人公格はクリステン・ウィグで真面目な慎重派でダン・エイクロイドのレイの色が強い。メリッサ・マッカーシーのアビーとケイト・マッキノンのホルツマンはイゴンとレイの研究熱心なところ、ホルツマンの何処かシニカルなところはピーターの性格も加味されているか。
 僕がオリジナルで一番好きなキャラクターはアーニー・ハドソンのウィンストンで、この後から加わるキャラクターが今回はレスリー・ジョーンズ演じるパティ。僕は男女逆転という部分には全く問題はないし、むしろ素晴らしいと思っているけれど、大学勤めの3人は白人で後から加わるのが黒人というオリジナルのままな設定はどうにかならなかったのかと思う。パティも面白いキャラクターだったけれどやはりインテリが白人で、そうではない黒人という偏見をそのまま残しているようにも思える。更に言うなら現代なら例えば理系の研究者として東洋人のキャラがいたっていいのではないか?田舎を舞台にしているのならともかくNYが舞台ならそう不自然でもないと思う。
 女性の観客にはホルツマンが大人気のようだけど、男性視点(というかあくまで僕個人の視点)ではホルツマンはもちろんキャラが立っていたけれど、そんなに夢中になる感じではないかな。

 主要男性キャラで一番人気なのがクリス・ヘムズワース演じるケビンだろう。というかこの次がローワンとか嫌味な大学関係者、あるいは中華料理屋の店員(中国人ではないっぽい)とかになってしまうのでほぼ独占枠だ(アンディ・ガルシアが感じ悪い(外面は良さそうな)市長役で出てる)。オリジナルではアニー・ポッツが演じた受付嬢ジャニーンの男性版だが、別に変人ではなかったジャニーン*2に対して今回のケヴィンはかなり変な感じに。そして本作のヒロインの座も射止めた。少し前ならブレンダン・フレイザーが担当していただろう。クリス・ヘムズワースは「マイティ・ソー」はじめのMCUで演じた雷神ソーも愛すべき筋肉バカだったが、本作のケビンはずば抜けている。例えるなら「課長バカ一代」並みのバカ。話がかろうじて通じる、と言った風情でそのケビンとの全く咬み合わない会話は逆に高度に哲学的な会話か禅問答を聞いているような、あるいは達人過ぎて逆にゆっくりに見える武道の組手を見ているようなそんな不思議な感じ。その愛すべきおバカにクリへム独特の表情の愛らしさも加わって必見のキャラクターとなっている。
 ゴーストバスターズとケヴィン以外の主人公といえばゴーストたちだが、そのへんもオリジナルに比べるとちょっと弱い。一応デザインそのままでスライマー(アグリー・リトル・スパッド)は登場するけれど、最初に登場するガートルード(およそ100年前に猟奇殺人を犯したため家族に幽閉され死んだ金持ちの令嬢)も2に登場したスコレリ兄弟みたいなデフォルメに欠けているので魅力が薄い。逆にドラゴンの姿をしたメイハムはその個性がゴーストに似つかわしくない。マシュマロマンなんかも出てくるけれど(パレードのバルーンにゴーストが取り憑いた感じか)、すぐいなくなる。やはり大ボスのローワンがキャラとして弱いのでもっとローワンを操る別の大物ゴーストとかを用意したほうが良かったと思う。

 NYを舞台にしたNY映画*3ということでは「ミュータント・ニンジャ・タートルズ:影」の方が良かったと思う。この辺はまた「TMNT」の感想で。
 オリジナルの主要メンバーは亡くなったハロルド・ライミスと役者を引退した(知らなかった!)リック・モラニス以外は特別出演していて、特に先輩科学者であるシガニー・ウィーバーとパティの父親であるアーニー・ハドソンは個人的に見どころ。そしてビル・マーレイゴーストバスターズをインチキだと吹聴する科学者として出てきて、完全にピーター・ベンクマンのネガ。今回は世界観的には旧作とは一切つながりがない完全リメイクだが、下手にビル・マーレイゴーストバスターズに理解を示す役として配置せず、むしろ敵対する役として配したのは効果的だったともう。先述したとおり、現在の目で見るとオリジナルの「ゴーストバスターズ」の特に主人公であるピーター・ベンクマンはかなり危ないキャラクターだったりするし。


この「ド〜♪」「レ〜♪」「イゴーン〜♪」のシーン好き。
「ゴーストバスターズ」オリジナル・サウンドトラック

「ゴーストバスターズ」オリジナル・サウンドトラック

ゴーストバスターズ オリジナル・サウンドトラック

ゴーストバスターズ オリジナル・サウンドトラック

ゴーストバスターズ

ゴーストバスターズ

サントラもいろいろ出てる。3番めがオリジナルの。1番目と2番めがどう違うのか不明。どっちかがスコアかな?レイ・パーカーJrのあの有名な曲も使われるけどあんまり効果的とは言えなかった印象。
 アイヴァン・ライトマンは製作に周り、監督はポール・フェイグクリステン・ウィグメリッサ・マッカーシーとは「ブライズメイズ 史上最悪のウェディングプラン」でも一緒だった。そういえばこれも今のSNL映画かもしれない。今回は3Dの字幕で観たのだけれど、最初から上下に少し黒い余白(変な日本語)を作ることでゴーストが飛び出るときはその黒い部分にはみ出ることでより効果的に見せていました。良質なアトラクション映画でもあると思う。

*1:グレムリンの新作はまだですか?個人的には「ONE PIECE FILM GOLD」を加えての3Gでもいいんだけど

*2:ジャニーンが特徴的な髪型になってより漫画っぽくなるのは2の方

*3:スパイダーマン」で見られるようなヒーローとNY市民が一体となって盛り上がるようなシーンがある作品